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毒草事件【13】
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その日の夕げ時、澪は大広間に呼ばれた。城に来てからこれまで、用意された自室で一人食事を摂っていた。それが本日は、澪の歓迎会と称して皆と一緒に食事を摂るよう言われたのだ。
さすがに澪とて、この宴を疑わない程馬鹿ではない。嬉しそうに澪を呼ぶ琥太郎に半ば無理矢理連れてこられたが、中には大勢の家来が揃っていた。
見たことのない顔ぶれであり、澪としても威圧感に押される。本日に限っては瑛梓と梓月の姿もみられる。
ここ数日間、何度か会話をしてきた二人がいきなり斬りつけてくるなんてことはないだろうとは思いながらも、考えが読めない歩澄と殺気を放つ徳昂への警戒は解けぬまま。
琥太郎に誰から私を呼ぶよう言われたのかと尋ねれば、「徳昂様です! どうやら徳昂様も姫様のことを気に入ってくれたようですね!」と嬉しそうに笑っていた。
(そんな筈はない。あの男のことだ。この宴の席で公開処刑をしようとしているに決まっている)
徳昂の姿を盗み見れば、歩澄の近くでご機嫌取りをしているように見えた。
それぞれの席は役の位で決まっており、上座である上段に歩澄、そのすぐ下右側に徳昂。そしてその対面の左側に瑛梓、並んで梓月となっている。
そこから横に各々の家来が続いているため、下っ端である五平と琥太郎の席は、丁度歩澄と対面である下座の隅であった。
その席からでもよくわかる統主としての存在感。
匠閃城での惨殺といい、宴での余興といい公開処刑が好きなのだろうと悪趣味な行事に吐き気すら覚えた。
(まあいい。梓月くんに助けられて、体力も元に戻った。この体なら、徳昂と戦っても勝てる。ただ、この人数で来られたらまずい……。
いや、そうするつもりなら、匠閃城で総攻撃を仕掛けてきた筈。ともすれば、どうやって私を殺す気だろうか。
神室歩澄……何を考えている……)
殺気を立ててしまいそうになるのをぐっと堪える。歩澄が徳昂程単純であれば、澪も先を読みやすい。しかし、表情を変えない歩澄が何を考えているかなど予想もつかなかった。
この宴は歩澄の指示か、徳昂の独断か……。徳昂の思惑だとしても、歩澄の許可がなければこの間に入ることもできない筈。そう考える澪は、やはり歩澄の命令かと二人の様子を伺った。
やがてそれぞれに運ばれていく膳。澪の前に膳を置いた男の口角が少しだけ上がったのを澪は見逃さなかった。
隣に座る琥太郎は、澪と一緒に食事ができることを喜んでいるが、澪にとってはそれどころではない。
その男の様子を見て、またもや毒かと勘ぐる。
(この男は徳昂の家来か……それとも神室歩澄の直接の命令か……)
どちらにせよ、この場で澪を殺そうとしているのは間違いない。
いくら琥太郎と五平が少しずつ心を開き始めていても、瑛梓と梓月が微笑んでくれるようになったとしても、この城では常に警戒していなければならない。
(また何事もなかったかのように振る舞うか……。いや、前回のこともある。もしも前回以上の量を盛られていたら、今度こそ危険だ。どうする……)
澪は神経を集中させ、すうっと鼻から空気を取り入れる。それにより、微かに香る草の臭い。
(種類を変えてきたか……。これは、水抄菊。この独特の臭いは間違いない)
水抄菊は、水辺によく咲く花であり、菊の花によく似ていることからそう呼ばれている。しかし、切り取った茎から流れ出る乳液には高い毒性がある。そのえぐみのある香りは強く、独特である。
食事に混ぜてしまえばその香りは粗方消えるが、澪にはそれをも見破れる優れた嗅覚が備わっていた。
(使い方によっては毒の緩和が望めるが、もしも火にかけた後に混ぜたとしたら少々厄介か……)
毒性自体は杓牙草と同様だが、加熱することにより、その毒性は無に等しくなる。加熱さえしてあれば澪の体どころか、他の者にも害はない。
もう少し念入りに臭いを嗅ぎ、どれ程の量が含まれているかを確認したいが、大勢の前で茶碗を持って嗅ぐこともできない。
一か八か食すか、ここは体調が悪いと言って食すのを止めるか。
そうこう考えている内に、誰かに名前を呼ばれた。その主は五平だった。
さすがに澪とて、この宴を疑わない程馬鹿ではない。嬉しそうに澪を呼ぶ琥太郎に半ば無理矢理連れてこられたが、中には大勢の家来が揃っていた。
見たことのない顔ぶれであり、澪としても威圧感に押される。本日に限っては瑛梓と梓月の姿もみられる。
ここ数日間、何度か会話をしてきた二人がいきなり斬りつけてくるなんてことはないだろうとは思いながらも、考えが読めない歩澄と殺気を放つ徳昂への警戒は解けぬまま。
琥太郎に誰から私を呼ぶよう言われたのかと尋ねれば、「徳昂様です! どうやら徳昂様も姫様のことを気に入ってくれたようですね!」と嬉しそうに笑っていた。
(そんな筈はない。あの男のことだ。この宴の席で公開処刑をしようとしているに決まっている)
徳昂の姿を盗み見れば、歩澄の近くでご機嫌取りをしているように見えた。
それぞれの席は役の位で決まっており、上座である上段に歩澄、そのすぐ下右側に徳昂。そしてその対面の左側に瑛梓、並んで梓月となっている。
そこから横に各々の家来が続いているため、下っ端である五平と琥太郎の席は、丁度歩澄と対面である下座の隅であった。
その席からでもよくわかる統主としての存在感。
匠閃城での惨殺といい、宴での余興といい公開処刑が好きなのだろうと悪趣味な行事に吐き気すら覚えた。
(まあいい。梓月くんに助けられて、体力も元に戻った。この体なら、徳昂と戦っても勝てる。ただ、この人数で来られたらまずい……。
いや、そうするつもりなら、匠閃城で総攻撃を仕掛けてきた筈。ともすれば、どうやって私を殺す気だろうか。
神室歩澄……何を考えている……)
殺気を立ててしまいそうになるのをぐっと堪える。歩澄が徳昂程単純であれば、澪も先を読みやすい。しかし、表情を変えない歩澄が何を考えているかなど予想もつかなかった。
この宴は歩澄の指示か、徳昂の独断か……。徳昂の思惑だとしても、歩澄の許可がなければこの間に入ることもできない筈。そう考える澪は、やはり歩澄の命令かと二人の様子を伺った。
やがてそれぞれに運ばれていく膳。澪の前に膳を置いた男の口角が少しだけ上がったのを澪は見逃さなかった。
隣に座る琥太郎は、澪と一緒に食事ができることを喜んでいるが、澪にとってはそれどころではない。
その男の様子を見て、またもや毒かと勘ぐる。
(この男は徳昂の家来か……それとも神室歩澄の直接の命令か……)
どちらにせよ、この場で澪を殺そうとしているのは間違いない。
いくら琥太郎と五平が少しずつ心を開き始めていても、瑛梓と梓月が微笑んでくれるようになったとしても、この城では常に警戒していなければならない。
(また何事もなかったかのように振る舞うか……。いや、前回のこともある。もしも前回以上の量を盛られていたら、今度こそ危険だ。どうする……)
澪は神経を集中させ、すうっと鼻から空気を取り入れる。それにより、微かに香る草の臭い。
(種類を変えてきたか……。これは、水抄菊。この独特の臭いは間違いない)
水抄菊は、水辺によく咲く花であり、菊の花によく似ていることからそう呼ばれている。しかし、切り取った茎から流れ出る乳液には高い毒性がある。そのえぐみのある香りは強く、独特である。
食事に混ぜてしまえばその香りは粗方消えるが、澪にはそれをも見破れる優れた嗅覚が備わっていた。
(使い方によっては毒の緩和が望めるが、もしも火にかけた後に混ぜたとしたら少々厄介か……)
毒性自体は杓牙草と同様だが、加熱することにより、その毒性は無に等しくなる。加熱さえしてあれば澪の体どころか、他の者にも害はない。
もう少し念入りに臭いを嗅ぎ、どれ程の量が含まれているかを確認したいが、大勢の前で茶碗を持って嗅ぐこともできない。
一か八か食すか、ここは体調が悪いと言って食すのを止めるか。
そうこう考えている内に、誰かに名前を呼ばれた。その主は五平だった。
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