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毒草事件【15】
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琥太郎を一人置いてきてしまったことが気がかりで、元の場所へ向かう。
(あれ……? 私の食事は?)
澪は、琥太郎のところまで行き歩みを止める。
先程まで琥太郎の隣には澪の席があった筈。しかし、既に箸をつけている琥太郎の隣には、違う家来が座っていた。
「……琥太郎くん、私のお膳は?」
澪は、嫌な予感がして琥太郎に話かける。
「あ、姫様お帰りなさい。先程お膳が一つ足りなかったようで、女中が追加分を持ってきてくれました。なのでそちらをとっておきました」
そう言って、琥太郎の後ろに置かれた膳に目を向けた。
「そうじゃなくて、元の膳はっ!」
澪は、尋ねるより先に琥太郎の膳へ手を伸ばす。器を手に取り、中身の臭いを嗅いだ。
途端に澪は、血相を変える。
(最悪だ……)
「ごめん、琥太郎くん!」
澪は、そう叫ぶと同時に琥太郎の右肩を掴んで体を固定すると、腹部に拳をめり込ませた。
「!!ぐぇっ……」
衝撃と共に、琥太郎の胃は圧迫され、食べたを全て吐き出した。
「おえぇぇ……」
体をピクピクと痙攣させ、吐物を撒き散らす。激痛が走ったのか、その場でのたうち回り、更にもう一度水分と一緒に食物を吐き出した。
突然の出来事に家来達は目を見張る。そして、次の瞬間琥太郎に攻撃した澪に対し、その場の全員の殺気が注がれた。
中腰になり、腰元の刀に手をかけた家来達に「待て、それどころではない。放って置いたら琥太郎は死ぬ」そう澪は冷静に言った。
戦闘態勢の家来達を前にして、構える素振りを見せない澪に、家来達は斬りかかるのを躊躇った。
澪は、家来達を相手にするでもなく奥歯に仕込んであった丸薬を噛み砕く。おとなしくなった琥太郎の頭を掴み、口移しで解毒薬を飲ませた。
澪の口内は、琥太郎の唾液と残渣物にまみれたが、そんなことなど気にも止めず、琥太郎の嚥下を確認した。
意識を失った琥太郎の体を抱え、澪は袖で口元を拭う。梓月から借りた、青色の着物だった。
一連の流れを見ていた家来達は、何が起こっているのかと、その場から動けずにいた。一言歩澄が命令を下してくれさえすれば、何かしら行動がとれるのにと家来達は歩澄の言葉を待った。
しかし、それよりも先に澪の視線は歩澄へと向けられた。
澪に微笑み、嬉しそうにはしゃぐ琥太郎の姿を思い浮かべる。この宴を、何の疑いもなく純粋に楽しもうとしていた琥太郎に害を被った男。
澪の怒りは頂点に達し、今まで見せたことのない殺気を放った。カッと目を見開き、琥太郎をその場に横たわらせると、助走も付けずその脚力で畳を蹴った。
飛ぶように三度足を踏みかえ、一直線に歩澄の元へと向かう。
(速っ……)
歩澄がそう感じた時には、既に空を切るような音と、左頬に熱さにも似た痛みを感じていた。
ーーパァァァァン
音が鳴り響いてから、澪が歩澄の頬を平手打ちしたのだと家臣達は気付く。
瑛梓と梓月はその場で刀を抜き、構えた。
徳昂は、二人より遅れて慌てて刀を抜く。
澪は歩澄の着物の襟を両手で掴み、「家来の命を擲ってでも、私の命を獲りたいか! 外道め!」と今にも噛み付きそうな気迫で罵倒した。
澪の殺気と声とで空気がビリビリと振動し、その波紋は家来達の体をすり抜けていった。
狂気にも似た殺気を受け、瑛梓も梓月も一瞬怯んだ。徳昂においては、自然と体が震え、己の死を連想させた。
「……何のことだ」
そんな中、歩澄は一瞬たりとも怯むことなく、真っ直ぐと澪の目を見つめ、そう発した。
「とぼけるな! 私の命が欲しくば正々堂々と正面から来い。姑息な真似をし、これ以上琥太郎に危害を加えてみろ……その首かっ斬ってくれる!」
澪はぐっと襟元を掴んだ手を引き、歩澄の顔に自分の顔を近付け、その碧空石に似た青い瞳を睨み付けた。
澪の言葉を聞いて、梓月はようやく琥太郎に何かがあったのだと知った。そして、その琥太郎のためにこれだけの殺気を放ち、統主を罵倒する姿。ただ事ではない。
そう思った梓月は動揺した。しかし、目の前には己が命をかけてでも守るべき統主。今は、己の役目を全うするのが先決。
「澪、歩澄様を離せ。でなければ斬る」
梓月は静かにそう呟き、刀を構え直した。梓月からは、本気で澪に斬りかかろうとしている気迫が感じられた。
(あれ……? 私の食事は?)
澪は、琥太郎のところまで行き歩みを止める。
先程まで琥太郎の隣には澪の席があった筈。しかし、既に箸をつけている琥太郎の隣には、違う家来が座っていた。
「……琥太郎くん、私のお膳は?」
澪は、嫌な予感がして琥太郎に話かける。
「あ、姫様お帰りなさい。先程お膳が一つ足りなかったようで、女中が追加分を持ってきてくれました。なのでそちらをとっておきました」
そう言って、琥太郎の後ろに置かれた膳に目を向けた。
「そうじゃなくて、元の膳はっ!」
澪は、尋ねるより先に琥太郎の膳へ手を伸ばす。器を手に取り、中身の臭いを嗅いだ。
途端に澪は、血相を変える。
(最悪だ……)
「ごめん、琥太郎くん!」
澪は、そう叫ぶと同時に琥太郎の右肩を掴んで体を固定すると、腹部に拳をめり込ませた。
「!!ぐぇっ……」
衝撃と共に、琥太郎の胃は圧迫され、食べたを全て吐き出した。
「おえぇぇ……」
体をピクピクと痙攣させ、吐物を撒き散らす。激痛が走ったのか、その場でのたうち回り、更にもう一度水分と一緒に食物を吐き出した。
突然の出来事に家来達は目を見張る。そして、次の瞬間琥太郎に攻撃した澪に対し、その場の全員の殺気が注がれた。
中腰になり、腰元の刀に手をかけた家来達に「待て、それどころではない。放って置いたら琥太郎は死ぬ」そう澪は冷静に言った。
戦闘態勢の家来達を前にして、構える素振りを見せない澪に、家来達は斬りかかるのを躊躇った。
澪は、家来達を相手にするでもなく奥歯に仕込んであった丸薬を噛み砕く。おとなしくなった琥太郎の頭を掴み、口移しで解毒薬を飲ませた。
澪の口内は、琥太郎の唾液と残渣物にまみれたが、そんなことなど気にも止めず、琥太郎の嚥下を確認した。
意識を失った琥太郎の体を抱え、澪は袖で口元を拭う。梓月から借りた、青色の着物だった。
一連の流れを見ていた家来達は、何が起こっているのかと、その場から動けずにいた。一言歩澄が命令を下してくれさえすれば、何かしら行動がとれるのにと家来達は歩澄の言葉を待った。
しかし、それよりも先に澪の視線は歩澄へと向けられた。
澪に微笑み、嬉しそうにはしゃぐ琥太郎の姿を思い浮かべる。この宴を、何の疑いもなく純粋に楽しもうとしていた琥太郎に害を被った男。
澪の怒りは頂点に達し、今まで見せたことのない殺気を放った。カッと目を見開き、琥太郎をその場に横たわらせると、助走も付けずその脚力で畳を蹴った。
飛ぶように三度足を踏みかえ、一直線に歩澄の元へと向かう。
(速っ……)
歩澄がそう感じた時には、既に空を切るような音と、左頬に熱さにも似た痛みを感じていた。
ーーパァァァァン
音が鳴り響いてから、澪が歩澄の頬を平手打ちしたのだと家臣達は気付く。
瑛梓と梓月はその場で刀を抜き、構えた。
徳昂は、二人より遅れて慌てて刀を抜く。
澪は歩澄の着物の襟を両手で掴み、「家来の命を擲ってでも、私の命を獲りたいか! 外道め!」と今にも噛み付きそうな気迫で罵倒した。
澪の殺気と声とで空気がビリビリと振動し、その波紋は家来達の体をすり抜けていった。
狂気にも似た殺気を受け、瑛梓も梓月も一瞬怯んだ。徳昂においては、自然と体が震え、己の死を連想させた。
「……何のことだ」
そんな中、歩澄は一瞬たりとも怯むことなく、真っ直ぐと澪の目を見つめ、そう発した。
「とぼけるな! 私の命が欲しくば正々堂々と正面から来い。姑息な真似をし、これ以上琥太郎に危害を加えてみろ……その首かっ斬ってくれる!」
澪はぐっと襟元を掴んだ手を引き、歩澄の顔に自分の顔を近付け、その碧空石に似た青い瞳を睨み付けた。
澪の言葉を聞いて、梓月はようやく琥太郎に何かがあったのだと知った。そして、その琥太郎のためにこれだけの殺気を放ち、統主を罵倒する姿。ただ事ではない。
そう思った梓月は動揺した。しかし、目の前には己が命をかけてでも守るべき統主。今は、己の役目を全うするのが先決。
「澪、歩澄様を離せ。でなければ斬る」
梓月は静かにそう呟き、刀を構え直した。梓月からは、本気で澪に斬りかかろうとしている気迫が感じられた。
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