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毒草事件【21】
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ーー
澪と別れた後、歩澄は大広間に戻り、この場で起きた惨事について思い返していた。
澪が歩澄の頬を叩き、琥太郎を連れて大広間を去ったことで、城内は暫くの間荒れていた。
家来達は騒がしく憤慨し、澪を殺すかどうかの会話がされたが歩澄が異様な空気で徳昂を問い詰めた事で、一気にその場の空気は鎮まった。
「皆の者、宴は中止だ。各自、自室にて指示を出すまで待機しろ」
歩澄がそう言い放ち、家来達はそれに従った。徳昂は、他家来達が去った大広間で歩澄に問い詰められ、事の次第を白状したのだった。
「何故命令に背いた?」
「申し訳ありません」
「謝れと言っているわけではない。何故かと聞いている」
「あの者は危険だからにございます。瑛梓や梓月の家来に近付き、毎日一緒にいるようです」
「その者とは、先程倒れた者か」
「左様でございます。それどころか瑛梓や梓月まであの女と戯れる始末。これでは、潤銘郷統主の家臣としての威厳が保てませぬ」
「あの者達には、あの女の見張り役として命を出している。どんな形であれ、あの女の動きを探るのはあやつらの役目だ」
歩澄は腕を組み、冷たい視線を徳昂に向けた。家来であれ、命令に背けば一瞬にして敵に変わることもある。二度とそのようなことがないよう、釘を刺しておく必要があった。
徳昂は、力では到底歩澄に敵わないことなど承知していた。己の力の差は歴然であり、下手をしたら殺されてしまう。
歩澄を守るために命を捧げるのは本望だが、歩澄に裏切り者として殺されることはどうしても避けたかった。
「そのような事とは知らず、勝手な行いをし、申し訳ありませんでした」
「あの女の処遇は私が決める。今や私は匠閃郷の統主でもある。あの郷の事もわからなければ民を守ることなど不可能だ」
「仰る通りでございます」
「あの女には何かある。匠閃郷があれ程まで貧富の差が激しいのにも訳がある筈だ。それがわかるまではあの者を殺すな。これは命令だ。二度はないぞ」
「は、はい! ……肝に命じておきます故、何卒お許し下さいませ」
「……お前を二十日間の軟禁と処する。その間、役からも外れてもらう」
「承知致しました……」
「もう部屋に戻れ。暫くはお前の顔など見たくもない」
そう言って徳昂を追い出した。
歩澄はひどく落ち込んだ様子で出ていく徳昂の背中を思い出す。
歩澄のために行動を起こしたのなら、まだ話はわかる。しかし、徳昂はもはや自らの意地のために澪を殺そうとしている。歩澄にはそう思えてならなかった。
それよりも気になるのは澪の行動だった。あんな下っ端の家来のために統主に掴みかかってきたのだ。
あの場で歩澄が命令すれば、瑛梓と梓月が動いた。その他の家臣もだ。
刀も持たぬ丸腰の状態で無謀にも歩澄に殺気を放った。この城に来て僅か数日。たったそれだけの期間共に過ごした相手のためだけに、危険を冒してまで歩澄に盾を突いたのだ。
益々澪の事がわからないと歩澄は頭を悩ませるのだった。
その時、障子の向こう側から「歩澄様、失礼してもよろしいでしょうか」と声がかかった。瑛梓の声だった。
琥太郎が楊に診てもらったと言っていたため、その対応にでも行っていたのだろうと歩澄は顔を上げた。
中に入る事を許可し、瑛梓と梓月を招き入れた。
澪と別れた後、歩澄は大広間に戻り、この場で起きた惨事について思い返していた。
澪が歩澄の頬を叩き、琥太郎を連れて大広間を去ったことで、城内は暫くの間荒れていた。
家来達は騒がしく憤慨し、澪を殺すかどうかの会話がされたが歩澄が異様な空気で徳昂を問い詰めた事で、一気にその場の空気は鎮まった。
「皆の者、宴は中止だ。各自、自室にて指示を出すまで待機しろ」
歩澄がそう言い放ち、家来達はそれに従った。徳昂は、他家来達が去った大広間で歩澄に問い詰められ、事の次第を白状したのだった。
「何故命令に背いた?」
「申し訳ありません」
「謝れと言っているわけではない。何故かと聞いている」
「あの者は危険だからにございます。瑛梓や梓月の家来に近付き、毎日一緒にいるようです」
「その者とは、先程倒れた者か」
「左様でございます。それどころか瑛梓や梓月まであの女と戯れる始末。これでは、潤銘郷統主の家臣としての威厳が保てませぬ」
「あの者達には、あの女の見張り役として命を出している。どんな形であれ、あの女の動きを探るのはあやつらの役目だ」
歩澄は腕を組み、冷たい視線を徳昂に向けた。家来であれ、命令に背けば一瞬にして敵に変わることもある。二度とそのようなことがないよう、釘を刺しておく必要があった。
徳昂は、力では到底歩澄に敵わないことなど承知していた。己の力の差は歴然であり、下手をしたら殺されてしまう。
歩澄を守るために命を捧げるのは本望だが、歩澄に裏切り者として殺されることはどうしても避けたかった。
「そのような事とは知らず、勝手な行いをし、申し訳ありませんでした」
「あの女の処遇は私が決める。今や私は匠閃郷の統主でもある。あの郷の事もわからなければ民を守ることなど不可能だ」
「仰る通りでございます」
「あの女には何かある。匠閃郷があれ程まで貧富の差が激しいのにも訳がある筈だ。それがわかるまではあの者を殺すな。これは命令だ。二度はないぞ」
「は、はい! ……肝に命じておきます故、何卒お許し下さいませ」
「……お前を二十日間の軟禁と処する。その間、役からも外れてもらう」
「承知致しました……」
「もう部屋に戻れ。暫くはお前の顔など見たくもない」
そう言って徳昂を追い出した。
歩澄はひどく落ち込んだ様子で出ていく徳昂の背中を思い出す。
歩澄のために行動を起こしたのなら、まだ話はわかる。しかし、徳昂はもはや自らの意地のために澪を殺そうとしている。歩澄にはそう思えてならなかった。
それよりも気になるのは澪の行動だった。あんな下っ端の家来のために統主に掴みかかってきたのだ。
あの場で歩澄が命令すれば、瑛梓と梓月が動いた。その他の家臣もだ。
刀も持たぬ丸腰の状態で無謀にも歩澄に殺気を放った。この城に来て僅か数日。たったそれだけの期間共に過ごした相手のためだけに、危険を冒してまで歩澄に盾を突いたのだ。
益々澪の事がわからないと歩澄は頭を悩ませるのだった。
その時、障子の向こう側から「歩澄様、失礼してもよろしいでしょうか」と声がかかった。瑛梓の声だった。
琥太郎が楊に診てもらったと言っていたため、その対応にでも行っていたのだろうと歩澄は顔を上げた。
中に入る事を許可し、瑛梓と梓月を招き入れた。
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