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神室歩澄の右腕【4】
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宴がお開きとなり既に片付けられた大広間では、歩澄と徳昂を除いた重臣三人が真剣な表情を浮かべていた。
宴が終わってから二刻程経っている。酔いも醒めた頃であり、秀虎の話を聞くべく集まっていた。
「して、栄泰郷はどうであった」
歩澄は、上段から秀虎を見据え、話を進める。足を崩すよう言われた三人は、胡座をかいて円を作るようにしていた。
「出入りが盛んなだけあって、活気づいていました。毎日何かしらの催し事がされており、我々の日常とは少し違うようですな」
「そうか。栄泰城は?」
「相変わらずです。統主の皇成には更に三人の側室が増えておりました……」
秀虎は、栄泰城での情景を思い出し、げんなりとして見せた。皇成の無類の女人好きは有名であり、各郷統主からも色事師と揶揄されている程である。
良家の娘であろうと町娘であろうと構わず手を出す男だった。気に入った女は側室に迎えるとの発言通り、既に側室は十一人いた。そこに三人が加わったというのだから、秀虎が浮かない顔をするのも無理はない。
城の敷地内には、それぞれの側室の別邸があり、皇成の寵愛の度合いにより城への距離が決まっていた。使用人や料理人も女性ばかりであり、男ばかりの潤銘城とは真逆の光景である。
時には側室付きの侍女にも手を出すものだから、城内は荒れていると噂が絶えない。
「そんなところへ嫁がせて本当に大丈夫だったのか?」
歩澄も頭を抱え、宴の時も楽しそうにしていた千依の姿を思い返す。
「それが……少し妙な噂を聞きまして……」
「妙な噂?」
「このところ頼寿が毎夜皇成と城を抜け出しては黎明になると忍んで帰ってくるとのこと……」
秀虎が言いにくそうに言うと、瑛梓は目頭を押さえて「女か……」と呟き、それに続き梓月が「女だな」と答えた。
四人は深い溜め息をついた。頼寿とは皇成の重臣の一人、千依の伴侶である。
常に共にいるところを見るため、皇成の行動に理解のある者であると想像はついたが、主に似て女好きという部分は目を背けておきたい事実であった。
「千依は、その事を知っているのか?」
「勘づいてはいるようです。しかしながら、千依の方が心酔している故、こちらの言葉には耳を貸さないでしょう」
「あの色情狂め……」
気色悪い笑みを浮かべる皇成の顔を思い出し、歩澄は奥歯を噛み締めた。
「しかしそうなると、分が悪いですな」
瑛梓は手で口元を多い、眉をひそめる。
「ああ。皇成と頼寿が千依に興味を示している内はまだいい。しかし、飽きた時にはこちらとの関係性は対等ではなくなります」
瑛梓の言葉を汲み取り、秀虎は瞬時にそう言った。
「対等でなくなるだけならまだいい。最悪なのは、千依を利用されることだ」
「まさか……」
歩澄の言葉に勘のいい三人は、直ぐに気付いた。今回、慕情を利用された千依が歩澄を失脚させるため、城内の情報を集めてくるよう頼寿から命令を受けている可能性である。
「千依殿に限ってそんなこと……」
梓月は瞳を揺らすが、他三人は冷静だった。
「隙があれば統主の首をとり、王位に近付きたいのは何も私達だけではない。今やこちらは潤銘郷と匠閃郷の所有権を持っているからな。私の首をとれば、二つの郷が一度に手に入る」
考えただけで背筋の凍るような事実であった。
「万が一にもそのようなことがあった場合、慈悲は無用です。千依を殺して下さい」
「秀虎殿!」
「秀虎様!」
瑛梓と梓月は、同時に秀虎の名を叫んだ。
歩澄は、沈黙を通した。
「私は、幼い頃より歩澄様に仕えております。歩澄様をこの国の王へと導くため、お仕えしています。たった一人の妹であろうと、その邪魔はさせません。敵郷の情に落ち、我が郷を裏切るようであれば、私も切り捨てる覚悟はできております」
秀虎は、揺るがない眼を歩澄に向けた。しかし、歩澄にはわかっていた。二人きりの兄妹であり、幼い頃より千依を大切にしてきた。面倒見の良い秀虎は、歩澄の稽古の合間を縫って千依の話し相手になってやっていた。
それほどまでに可愛がってきた妹を自らの手にかける事がどれ程の苦痛を伴うか。しかし、妹可愛さに歩澄を裏切れば、確実に潤銘郷は皇成の手に落ちる。
郷の女人を所有物のように扱い、子を産ませるだけ産ませて父親らしいことなど何一つしないような統主に、この国を任せるわけにはいかない。
そこの意見だけは、翠穣郷統主の落伊吹と一致していた。しかし、皇成と伊吹が同盟を組むという噂が後を絶たない。
二人で歩澄を失脚させた後、伊吹は一気に栄泰郷へ侵寇するつもりでいるやもしれぬ。
そう考えると、迂闊に伊吹のことも信用できない。結局のところ、栄泰郷統主との確執は、歩澄が解決させる他ないのだ。
そんな中、秀虎は揺るぎない忠誠心を見せるため、いざとなれば妹の命を差し出すと申し出た。方向性が穏やかでないことくらいわかっているが、歩澄はできることならば己達の勘違いであったと笑顔で千依を見送りたいと思っていた。
宴が終わってから二刻程経っている。酔いも醒めた頃であり、秀虎の話を聞くべく集まっていた。
「して、栄泰郷はどうであった」
歩澄は、上段から秀虎を見据え、話を進める。足を崩すよう言われた三人は、胡座をかいて円を作るようにしていた。
「出入りが盛んなだけあって、活気づいていました。毎日何かしらの催し事がされており、我々の日常とは少し違うようですな」
「そうか。栄泰城は?」
「相変わらずです。統主の皇成には更に三人の側室が増えておりました……」
秀虎は、栄泰城での情景を思い出し、げんなりとして見せた。皇成の無類の女人好きは有名であり、各郷統主からも色事師と揶揄されている程である。
良家の娘であろうと町娘であろうと構わず手を出す男だった。気に入った女は側室に迎えるとの発言通り、既に側室は十一人いた。そこに三人が加わったというのだから、秀虎が浮かない顔をするのも無理はない。
城の敷地内には、それぞれの側室の別邸があり、皇成の寵愛の度合いにより城への距離が決まっていた。使用人や料理人も女性ばかりであり、男ばかりの潤銘城とは真逆の光景である。
時には側室付きの侍女にも手を出すものだから、城内は荒れていると噂が絶えない。
「そんなところへ嫁がせて本当に大丈夫だったのか?」
歩澄も頭を抱え、宴の時も楽しそうにしていた千依の姿を思い返す。
「それが……少し妙な噂を聞きまして……」
「妙な噂?」
「このところ頼寿が毎夜皇成と城を抜け出しては黎明になると忍んで帰ってくるとのこと……」
秀虎が言いにくそうに言うと、瑛梓は目頭を押さえて「女か……」と呟き、それに続き梓月が「女だな」と答えた。
四人は深い溜め息をついた。頼寿とは皇成の重臣の一人、千依の伴侶である。
常に共にいるところを見るため、皇成の行動に理解のある者であると想像はついたが、主に似て女好きという部分は目を背けておきたい事実であった。
「千依は、その事を知っているのか?」
「勘づいてはいるようです。しかしながら、千依の方が心酔している故、こちらの言葉には耳を貸さないでしょう」
「あの色情狂め……」
気色悪い笑みを浮かべる皇成の顔を思い出し、歩澄は奥歯を噛み締めた。
「しかしそうなると、分が悪いですな」
瑛梓は手で口元を多い、眉をひそめる。
「ああ。皇成と頼寿が千依に興味を示している内はまだいい。しかし、飽きた時にはこちらとの関係性は対等ではなくなります」
瑛梓の言葉を汲み取り、秀虎は瞬時にそう言った。
「対等でなくなるだけならまだいい。最悪なのは、千依を利用されることだ」
「まさか……」
歩澄の言葉に勘のいい三人は、直ぐに気付いた。今回、慕情を利用された千依が歩澄を失脚させるため、城内の情報を集めてくるよう頼寿から命令を受けている可能性である。
「千依殿に限ってそんなこと……」
梓月は瞳を揺らすが、他三人は冷静だった。
「隙があれば統主の首をとり、王位に近付きたいのは何も私達だけではない。今やこちらは潤銘郷と匠閃郷の所有権を持っているからな。私の首をとれば、二つの郷が一度に手に入る」
考えただけで背筋の凍るような事実であった。
「万が一にもそのようなことがあった場合、慈悲は無用です。千依を殺して下さい」
「秀虎殿!」
「秀虎様!」
瑛梓と梓月は、同時に秀虎の名を叫んだ。
歩澄は、沈黙を通した。
「私は、幼い頃より歩澄様に仕えております。歩澄様をこの国の王へと導くため、お仕えしています。たった一人の妹であろうと、その邪魔はさせません。敵郷の情に落ち、我が郷を裏切るようであれば、私も切り捨てる覚悟はできております」
秀虎は、揺るがない眼を歩澄に向けた。しかし、歩澄にはわかっていた。二人きりの兄妹であり、幼い頃より千依を大切にしてきた。面倒見の良い秀虎は、歩澄の稽古の合間を縫って千依の話し相手になってやっていた。
それほどまでに可愛がってきた妹を自らの手にかける事がどれ程の苦痛を伴うか。しかし、妹可愛さに歩澄を裏切れば、確実に潤銘郷は皇成の手に落ちる。
郷の女人を所有物のように扱い、子を産ませるだけ産ませて父親らしいことなど何一つしないような統主に、この国を任せるわけにはいかない。
そこの意見だけは、翠穣郷統主の落伊吹と一致していた。しかし、皇成と伊吹が同盟を組むという噂が後を絶たない。
二人で歩澄を失脚させた後、伊吹は一気に栄泰郷へ侵寇するつもりでいるやもしれぬ。
そう考えると、迂闊に伊吹のことも信用できない。結局のところ、栄泰郷統主との確執は、歩澄が解決させる他ないのだ。
そんな中、秀虎は揺るぎない忠誠心を見せるため、いざとなれば妹の命を差し出すと申し出た。方向性が穏やかでないことくらいわかっているが、歩澄はできることならば己達の勘違いであったと笑顔で千依を見送りたいと思っていた。
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