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赤髪の少女【23】
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その頃、互いに傷の手当てをしていた五平と琥太郎。
「いっ……」
「ご、ごめんなさい! 五平さん……」
「大丈夫だ。つー……。本当にどこもかしこも傷だらけだな……」
全ての傷を洗い流し、消毒液をつける度に飛び上がる。血が止まらない場所は布できつく縛り、止血をする。
そこへ瑛梓と梓月がやってきた。政務を終え、戻ってきたところだった。
「……お前達、その傷はどうした?」
瑛梓は眉間に皺を寄せ、二人のもとに駆け寄る。
「酷い怪我じゃないか……」
梓月は瞳を揺らして琥太郎の両頬を両手で包む。頬は赤黒く腫れ、口の端は切れて出血している。目の上には大きな瘤ができており、右目が開かないほど腫れていた。
「それが……」
心配をかけるわけにはいかない。そうも思うが、二人は言うまで納得しないであろうと一部始終を話した。
「……颯か」
瑛梓はぐっと歯を食い縛り、怒りで顔を歪めた。
「やっぱり、徳昂様は家来の躾がなってないと思うんだ。……一度しっかり仕置きをしておいた方がいいみたいだね」
梓月は無表情でゆらっと立ち上がる。
(こ、怖ぇ……。すげぇ、怒ってる……)
五平は、ただならぬ二人の殺気に鳥肌が立った。
「どうやら私達はなめられているようだからな……」
「一人、二人殺したところで変わらないだろう」
「そうだな……内臓でも引きずり出して徳昂殿に差し出すか」
物騒な会話が聞こえ、五平と琥太郎は身を寄せ合ってぷるぷると震えた。
「大変です! 向こうで匠閃郷の姫が!」
突如そう言って男が駆けてきた。先程澪が声をかけた瑛梓の家来だった。澪の背中を見送ったがあの殺気が気になり、後から広場に行ってみたのだ。
そこには気を失って倒れている数十名の徳昂の家来達。それと、気が狂ったように涙と涎を垂らし、裸で許しを請う男達七人。その内の三人の頭は真っ白だった。
異常を感じて急いで瑛梓に報告をしにきたのだ。
「匠閃郷の? ……澪か?」
瑛梓が顔を歪めれば「そ、そう言えば澪がちょっと行ってくるって……言ってました」と消え入りそうな声で五平が言う。
「どこへ?」
「……恐らく俺達の敵討ちかと……」
「……先を越されたか」
瑛梓は目を細めて呟く。
「全員殺したなんてことはないだろうね……」
「……アイツならやりかねないぞ」
琥太郎の毒事件では、歩澄に殺気を放って掴みかかった澪。その澪の姿を鮮明に思い出し、瑛梓と梓月は顔をひきつらせた。
「とにかく行くぞ!」
瑛梓の声で、その場にいた者達は澪の元へと向かった。
五平、琥太郎は痛む足を引きずりながら三人の後を追う。先に着いた三人は、山積みにされた徳昂の家来達の姿を見て息を呑んだ。
「……これを、一人でか」
瑛梓は、頬をぴくぴくとさせながら顔を歪める。
「……ここにきて澪が稽古をしてる姿を見ないけど、全く体が鈍っていないようだね……」
梓月はふぅっと息を付いた。思っていた以上の澪の力に汗が滲んだ。
その山の向こう側に澪の姿はあった。
「……澪」
梓月が恐る恐る声をかける。
「あ、梓月くん。瑛梓様も。お勤めお疲れ様でした」
そう笑顔を向ける澪は、裸で四つん這いになった颯の背中に座り、足を組んでいた。
直接肌に触れるのは嫌なのか、澪の尻の下には帯が敷かれている。
瑛梓と梓月の顔を確認した颯は、びくりと体を震わし、頭を抱えてその場に踞った。
「わっ!」
手の支えがなくなった颯の体は、頭の方が下がり澪は重心を崩した。
ぐらっと体が傾くが、足で踏ん張ると持っていた木刀でバチィンと颯の尻を叩いた。
「ぎゃぁ!」
叫び声を上げた颯はすぐに両手を地面について顔を上げた。
「急に動いたら危ないじゃない……」
顔をしかめる澪に対して、颯は何かに怯えているかのように涙と涎で顔を汚していた。
「……何をしたんだと思う?」
こそっと瑛梓は梓月に耳打ちをする。
「想像もしたくないね……」
梓月は口を開けたままそう呟いた。
「いっ……」
「ご、ごめんなさい! 五平さん……」
「大丈夫だ。つー……。本当にどこもかしこも傷だらけだな……」
全ての傷を洗い流し、消毒液をつける度に飛び上がる。血が止まらない場所は布できつく縛り、止血をする。
そこへ瑛梓と梓月がやってきた。政務を終え、戻ってきたところだった。
「……お前達、その傷はどうした?」
瑛梓は眉間に皺を寄せ、二人のもとに駆け寄る。
「酷い怪我じゃないか……」
梓月は瞳を揺らして琥太郎の両頬を両手で包む。頬は赤黒く腫れ、口の端は切れて出血している。目の上には大きな瘤ができており、右目が開かないほど腫れていた。
「それが……」
心配をかけるわけにはいかない。そうも思うが、二人は言うまで納得しないであろうと一部始終を話した。
「……颯か」
瑛梓はぐっと歯を食い縛り、怒りで顔を歪めた。
「やっぱり、徳昂様は家来の躾がなってないと思うんだ。……一度しっかり仕置きをしておいた方がいいみたいだね」
梓月は無表情でゆらっと立ち上がる。
(こ、怖ぇ……。すげぇ、怒ってる……)
五平は、ただならぬ二人の殺気に鳥肌が立った。
「どうやら私達はなめられているようだからな……」
「一人、二人殺したところで変わらないだろう」
「そうだな……内臓でも引きずり出して徳昂殿に差し出すか」
物騒な会話が聞こえ、五平と琥太郎は身を寄せ合ってぷるぷると震えた。
「大変です! 向こうで匠閃郷の姫が!」
突如そう言って男が駆けてきた。先程澪が声をかけた瑛梓の家来だった。澪の背中を見送ったがあの殺気が気になり、後から広場に行ってみたのだ。
そこには気を失って倒れている数十名の徳昂の家来達。それと、気が狂ったように涙と涎を垂らし、裸で許しを請う男達七人。その内の三人の頭は真っ白だった。
異常を感じて急いで瑛梓に報告をしにきたのだ。
「匠閃郷の? ……澪か?」
瑛梓が顔を歪めれば「そ、そう言えば澪がちょっと行ってくるって……言ってました」と消え入りそうな声で五平が言う。
「どこへ?」
「……恐らく俺達の敵討ちかと……」
「……先を越されたか」
瑛梓は目を細めて呟く。
「全員殺したなんてことはないだろうね……」
「……アイツならやりかねないぞ」
琥太郎の毒事件では、歩澄に殺気を放って掴みかかった澪。その澪の姿を鮮明に思い出し、瑛梓と梓月は顔をひきつらせた。
「とにかく行くぞ!」
瑛梓の声で、その場にいた者達は澪の元へと向かった。
五平、琥太郎は痛む足を引きずりながら三人の後を追う。先に着いた三人は、山積みにされた徳昂の家来達の姿を見て息を呑んだ。
「……これを、一人でか」
瑛梓は、頬をぴくぴくとさせながら顔を歪める。
「……ここにきて澪が稽古をしてる姿を見ないけど、全く体が鈍っていないようだね……」
梓月はふぅっと息を付いた。思っていた以上の澪の力に汗が滲んだ。
その山の向こう側に澪の姿はあった。
「……澪」
梓月が恐る恐る声をかける。
「あ、梓月くん。瑛梓様も。お勤めお疲れ様でした」
そう笑顔を向ける澪は、裸で四つん這いになった颯の背中に座り、足を組んでいた。
直接肌に触れるのは嫌なのか、澪の尻の下には帯が敷かれている。
瑛梓と梓月の顔を確認した颯は、びくりと体を震わし、頭を抱えてその場に踞った。
「わっ!」
手の支えがなくなった颯の体は、頭の方が下がり澪は重心を崩した。
ぐらっと体が傾くが、足で踏ん張ると持っていた木刀でバチィンと颯の尻を叩いた。
「ぎゃぁ!」
叫び声を上げた颯はすぐに両手を地面について顔を上げた。
「急に動いたら危ないじゃない……」
顔をしかめる澪に対して、颯は何かに怯えているかのように涙と涎で顔を汚していた。
「……何をしたんだと思う?」
こそっと瑛梓は梓月に耳打ちをする。
「想像もしたくないね……」
梓月は口を開けたままそう呟いた。
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