【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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赤髪の少女【23】

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 その頃、互いに傷の手当てをしていた五平と琥太郎。

「いっ……」

「ご、ごめんなさい! 五平さん……」

「大丈夫だ。つー……。本当にどこもかしこも傷だらけだな……」

 全ての傷を洗い流し、消毒液をつける度に飛び上がる。血が止まらない場所は布できつく縛り、止血をする。

 そこへ瑛梓と梓月がやってきた。政務を終え、戻ってきたところだった。

「……お前達、その傷はどうした?」

 瑛梓は眉間に皺を寄せ、二人のもとに駆け寄る。

「酷い怪我じゃないか……」

 梓月は瞳を揺らして琥太郎の両頬を両手で包む。頬は赤黒く腫れ、口の端は切れて出血している。目の上には大きな瘤ができており、右目が開かないほど腫れていた。

「それが……」

 心配をかけるわけにはいかない。そうも思うが、二人は言うまで納得しないであろうと一部始終を話した。

「……颯か」

 瑛梓はぐっと歯を食い縛り、怒りで顔を歪めた。

「やっぱり、徳昂様は家来の躾がなってないと思うんだ。……一度しっかり仕置きをしておいた方がいいみたいだね」

 梓月は無表情でゆらっと立ち上がる。

(こ、怖ぇ……。すげぇ、怒ってる……)

 五平は、ただならぬ二人の殺気に鳥肌が立った。 

「どうやら私達はなめられているようだからな……」

「一人、二人殺したところで変わらないだろう」

「そうだな……内臓でも引きずり出して徳昂殿に差し出すか」

 物騒な会話が聞こえ、五平と琥太郎は身を寄せ合ってぷるぷると震えた。


「大変です! 向こうで匠閃郷の姫が!」

 突如そう言って男が駆けてきた。先程澪が声をかけた瑛梓の家来だった。澪の背中を見送ったがあの殺気が気になり、後から広場に行ってみたのだ。
 そこには気を失って倒れている数十名の徳昂の家来達。それと、気が狂ったように涙と涎を垂らし、裸で許しを請う男達七人。その内の三人の頭は真っ白だった。

 異常を感じて急いで瑛梓に報告をしにきたのだ。

「匠閃郷の? ……澪か?」

 瑛梓が顔を歪めれば「そ、そう言えば澪がちょっと行ってくるって……言ってました」と消え入りそうな声で五平が言う。

「どこへ?」

「……恐らく俺達の敵討ちかと……」

「……先を越されたか」

 瑛梓は目を細めて呟く。

「全員殺したなんてことはないだろうね……」

「……アイツならやりかねないぞ」

 琥太郎の毒事件では、歩澄に殺気を放って掴みかかった澪。その澪の姿を鮮明に思い出し、瑛梓と梓月は顔をひきつらせた。

「とにかく行くぞ!」

 瑛梓の声で、その場にいた者達は澪の元へと向かった。


 五平、琥太郎は痛む足を引きずりながら三人の後を追う。先に着いた三人は、山積みにされた徳昂の家来達の姿を見て息を呑んだ。

「……これを、一人でか」

 瑛梓は、頬をぴくぴくとさせながら顔を歪める。

「……ここにきて澪が稽古をしてる姿を見ないけど、全く体がなまっていないようだね……」

 梓月はふぅっと息を付いた。思っていた以上の澪の力に汗が滲んだ。
 その山の向こう側に澪の姿はあった。

「……澪」

 梓月が恐る恐る声をかける。

「あ、梓月くん。瑛梓様も。お勤めお疲れ様でした」

 そう笑顔を向ける澪は、裸で四つん這いになった颯の背中に座り、足を組んでいた。
 直接肌に触れるのは嫌なのか、澪の尻の下には帯が敷かれている。
 瑛梓と梓月の顔を確認した颯は、びくりと体を震わし、頭を抱えてその場に踞った。

「わっ!」

 手の支えがなくなった颯の体は、頭の方が下がり澪は重心を崩した。
 ぐらっと体が傾くが、足で踏ん張ると持っていた木刀でバチィンと颯の尻を叩いた。

「ぎゃぁ!」

 叫び声を上げた颯はすぐに両手を地面について顔を上げた。 

「急に動いたら危ないじゃない……」

 顔をしかめる澪に対して、颯は何かに怯えているかのように涙と涎で顔を汚していた。

「……何をしたんだと思う?」

 こそっと瑛梓は梓月に耳打ちをする。

「想像もしたくないね……」
 
 梓月は口を開けたままそう呟いた。
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