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赤髪の少女【34】

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ーー 

 空穏は、澪の体に負担がかからぬよう、普段よりも速度を落として馬を走らせていた。
 潤銘郷の正門ではなく、栄泰郷との境にある門から外へ出た。潤銘郷から直接洸烈郷へは入れない。一度栄泰郷へ入り、弧を描くようにして洸烈郷へ行くしかないのだ。


 澪が横を向き、流れる景色に目を向ければその横顔が目に入る。

(本当に美しくなったな……)

 凛として美しい娘へと成長した澪の姿に、空穏は顔を赤らめた。
 澪よりも一つ年上の空穏は、十三の時に澪と出会った。祖父の勧玄に招かれて共に稽古をしたのだ。
 発達し過ぎた肉体を見て、男だと思っていた空穏は気兼ねなく澪と接していた。しかし、その内女であることを知らされ最初は戸惑ったが、その真っ直ぐで努力家なところが好きだった。
 村人達にも優しく、泣き言を言わずに男の空穏と同じように稽古に励む澪を徐々に意識するようになった。
 三年が経った頃、空穏と澪の力には目に見えて差ができた。生まれ持った身体能力の高さ故、底なしの吸収力で勧玄の剣術を学んでいく澪。
 こんな容姿では、嫁の貰い手もないだろうと、いつしか空穏は澪を娶ることを考えていた。しかし、己よりも強くなっていく澪。これでは澪を守っていくことなど不可能である。そう思った空穏は勧玄に相談をした。

「じいちゃん、俺もっと強くなりたいんだ」

「お前は少しずつ成長している。焦るな」

「それじゃだめなんだ! このままじゃ、りょうのことは守れない……」

「なんだ、空穏。澪に惚れてんのか」

 空穏の言葉に勧玄は豪快に笑った。

「わ、笑うなよ!」

「悪かった。それなら洸烈郷に戻って修行をするか? あそこなら短期間で確実に強くなる」

「本当か!?」

「ああ。ただな、空穏。強さだけでは澪は守れねぇぞ」

「……どういうことだよ」

「澪の胸ん中にはでっかいお前の敵がいる」

「敵……?」

「いつかわかるさ。澪がその敵に出会っちまう前にかっ拐うんだな」

 そう言った勧玄の言葉を未だに理解できずにいた。
 勧玄が亡くなったと知り、空穏は急いで村に戻ったが、その時既に澪の姿はなかった。いつか澪を迎えに行こうと思っていたが、見つけれなかったのだ。しかし、澪はこうして今己の腕の中にいる。必死に鍛練を積み、統主の重臣にまで成り上がったのだ。

(澪の傷付いた心も、傷だらけの体も俺だけが受け入れてやることができる。澪の傍にいられる男はこの俺だけだ。離れていた時は、これから洸烈郷で埋めていけばいい……)
 
 空穏はそう思いながら、手綱を持つ手に力を込めた。

「ねぇ、空穏。煌明様は先に行ったの?」

「ああ。来た時は一緒だったが、待つのが嫌いなお方でな」

「統主を一人で行かせて大丈夫なの?」

「本来は家臣がお守りするのが役目だが、何せあのお方は誰よりも強いからな。俺が傍にいたところで、煌明様に敵う者はそうはいない」

「……空穏より強い?」

「残念ながらな。未だにあの方を超えることはできない。恐らく歩澄様よりも強い」

「そんなに……」

 澪は思わず息を飲んだ。
 そこへ、後ろから馬が駆ける音が聞こえた。最初は空耳かとも思ったが、徐々に近付いてくる音は、すぐ側まで迫っていた。

 隣に並んだ馬を見て、澪はぎょっとした。

「歩澄様!?」

 いるはずのない歩澄の姿に、幻でも見ているのではないかと澪は目を見張る。

「何用ですか?」

 空穏は眉間に皺を寄せ、歩澄に目を向ける。

「澪を返してもらいに来た」

 歩澄の言葉に、空穏と澪は更に目を見開いた。
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