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赤髪の少女【35】

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「澪は自らの意思で私と共に来たのです」

「わかっている。澪と二人きりで話がしたい」

 真剣な歩澄の表情を見て、空穏は奥歯をぐっと噛み、「まずは私と二人で話をしていただきたい」と言った。

 その条件をのんだ歩澄は馬を止めた。空穏もその場で馬を止め、二頭の馬を澪に任せた。
 澪と少し距離を置き、空穏はじっと歩澄の視線を捕らえた。

「何故りょうを取り返しにきたのです?」

「私の傍に置いておきたいからだ」

 歩澄の射るような視線を見て、空穏は歩澄が澪に慕情を抱いていることを察した。

「……私は、幼い頃より澪と共にいました。城で酷い仕打ちを受け、心に傷を負っています。その事を知っているのですか?」

「知っている。傷のことも、並外れた戦闘力の事も」

 当然、と言ったような歩澄の態度に空穏は眉をひそめた。

「澪は俺が守ります!」

「お前ではあれは守れない。私がこの國の王となるからな」

「なっ……国王となるのは煌明様です。澪が自ら来ると言ったのです。そう言わせた貴方に任せてはおけない」

 相手が統主だと言うことも忘れて、空穏はキッと歩澄を睨み付けた。

「傷付けたのは認める。しかし、あの者を幸せにしてやれるのは私だけだ。#澪#__みお__#が惚れているのはこの私だからな」

 何の躊躇もなくそう言った歩澄に、空穏の憤りは頂点に達した。

「澪が貴方に惚れている? 何を馬鹿なことを……」

「澪と話をさせてもらえればわかる。よいな?」

 気迫のある青碧の目を光らせる歩澄に、空穏はぐっと言葉を飲み込んだ。
 仕方がないと澪を呼び、今度は空穏が馬の見張り番を勤めた。





 見送りにも来なかった歩澄の顔を、澪はまともに見ることができなかった。言葉を探していると「戻って来てくれないか」と先に歩澄が発した。

 澪は驚きのあまり瞳を揺らしたが、平然を装って「どうしてですか?」と尋ねた。

「私にはお前が必要だからだ」

 歩澄のその言葉に、鼓動が速まった。

「……おかしな事を言いますね。私がいなくとも、歩澄様の強さに影響はない筈ですが?」

「そうではない。私はお前に言っていない事がある。その……私は澪の事が好きだ」

 歩澄は耳まで顔を真っ赤にし、視線を地面に向けた。初めて歩澄の恥じらう姿を目の当たりにした澪は、音がする程息を呑んだ。

「愛しいと思っている。それでなければ接吻などしない」

「で、ですが……」

 突如想いを伝えらたことに戸惑いを隠せない澪は、目を泳がせて言葉の理解を急ぐ。

「瑛梓と梓月に言われた。澪が私に遊ばれたと思っているのではないかと。……梓乃の事を勘違いしているのではないかと」

 梓乃の名前が登場し、澪は唇を震わせた。
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