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赤髪の少女【37】
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歩澄の帰りを待っていた瑛梓、梓月、五平、琥太郎の四人は一緒に馬に乗る澪の姿を見つけ、歓喜の声を上げた。
「よかった! おかえり、澪!」
梓月は笑顔で澪に近寄り、五平と琥太郎は嬉しさのあまりまた泣き喚くのであった。
城内では、澪が出ていったと騒然としていたが、戻って来たことにより瑛梓と梓月の計らいで宴が開かれることとなった。
宴となれば良質な酒がいくらでも飲めると、家来達も歓喜の声を上げた。
宴の席では、今まで五平と琥太郎と同じ位置に善を運ばれていたが、澪は歩澄の隣にいた。
「あ、あの……歩澄様?」
家臣達の多くの視線が痛いほど突き刺さり、戸惑う澪は上目で歩澄を見上げる。
「よい。ここにいろ。お前を傍に置いておきたいと言ったのは私だ。改めて皆に紹介しよう」
「……え?」
皆の善が配られると、宴開始の音頭を取る前に歩澄が家来達に目を向けた。
「皆の者、聞け。此度、匠閃郷から連れ帰った澪の身柄を自由にすることとした」
歩澄の言葉に、家来達はざわめく。澪は囚われの身として潤銘郷に置いておく。皆そう解釈していたからである。
「して、今後は私の女として傍に置く」
想像もしていなかった歩澄の言葉に皆が言葉を失った。そしてその刹那、先程以上に騒がしくなる。
「ほ、歩澄様!」
家来達の反応を見た澪は、小声で歩澄の名前を呼び、着物の袖を引っ張った。
「意見のある者は聞こう。澪は、敵郷の姫だ。皆に不満が積もるのも当然であろう。納得がいかぬのであればその都度説明はする。しかし、私は私情で統主としての役目を怠るつもりなど毛頭ない」
袖を引っ張る澪の手を掴み、気迫をも放つ鋭い眼光を家来達に向けた。それは、潤銘郷統主の威厳に他ならない。
普段以上に真剣な表情を浮かべる歩澄に、家来達は徐々に鎮まっていく。
「私は国王を目指す。このまま統主で終わるつもりはない。そのためには、今後一層統主として精進するつもりでいる。皆を国王の家臣として迎え入れるためにもな」
歩澄がふっと頬を緩めると、わあっと歓声が湧いた。
「まずは匠閃郷を立て直す。そのためには公私共に澪の力が私には必要だ。皆が認める王となる。約束しよう。そのため、どうか澪の事を受け入れて欲しい」
歩澄の言葉に家来達の士気が高まった。我等は国王を支える家臣となる。我等の統主はこの國の王となる。歩澄の意思を持った青碧の目を見た家来達は、歩澄についていこうと声を上げるのだった。
「では、今宵は大いに楽しめ。酒は腐る程ある」
歩澄の言葉で宴は開始した。家来達は酒を煽り、歩澄の偉大さを語った。
「歩澄様、あのような事を言ってしまってよかったのですか?」
澪は歩澄に酌をしながらそう尋ねた。
「いつまでもお前を人質としておくわけにもいかぬだろう? 不満か?」
「い、いえ! ただ、よく思わない方も……」
「徳昂か?」
歩澄はくいっと酒を煽り、おかしそうに笑う。先程から痛い程徳昂の視線を感じているのだ。
「わかっているのでしたら何故このような……」
「お前を不安にはさせないと言ったであろう? お前が二度と私から離れていこうなどと考えぬよう、周りを固めておくのだ」
「なっ……」
くすくすと笑う歩澄に、澪は顔を真っ赤にさせ、俯いた。
「それに、言っておかないと空穏や梓月のようにお前に手を出そうとする輩も出てくるやもしれぬからな」
歩澄はふんっと鼻を鳴らす。
空穏が真剣に澪を想っている様子が痛い程に伝わってきた。りょうと呼んでいた空穏に対し、歩澄はあえてみおと呼んだ。しかし、空穏はそこに疑問を抱かなかった。
匠閃郷統主の娘だと知っている証だった。それをもってしても洸烈郷へ連れていきたいと思っていたのだ。そのように意思の強い者が敵にいる。
このまま澪とのことを有耶無耶にしていれば、そのうち澪を奪われかねない。そう危惧した歩澄は澪が己のものであると周知させておく必要があると思ったのだ。
「空穏は兄のようなものですよ。それに梓月くんは、今では私達を応援してくれていますよ」
「どうだかな……」
(あんなに想われていても兄呼ばわりか……敵ながら不憫だな)
歩澄は真剣な空穏の顔を思い出し、顔をひきつらせた。
「歩澄様が蒼くんだったと教えてくれたのも梓月くんなんですから」
「そもそも、過去の事を梓月に話したのか?」
歩澄は面白くなさそうに顔をしかめた。
「だ、だって……早く会いたかったんです。蒼くんに」
口を尖らせて上目で歩澄を見る澪。澪は平然と蒼の名を呼ぶが、歩澄としては何度も本名を呼ばれ、胸が高鳴る。それもいかに澪が蒼を想っていたか力説されているようで、気恥ずかしさも増した。
「わかった……もうよい」
歩澄は、赤面する表情を隠すように手で口元を覆った。
「おい、歩澄様の顔見てみろよ」
「あんな顔もされるのだな」
「女が絡めば、歩澄様も普通の男だということだ」
「貴重なお顔だ」
「あの女が来てから歩澄様の機嫌もよいしな」
「ああ、俺達もとうとう王の家来だぞ」
家来達はわいわいと歩澄を話題にあげる。酒が入ればすっかり祝福の雰囲気を作っている。
それを見て瑛梓と梓月は顔を見合せ、笑い合うのだった。
五平と琥太郎も二人を祝福し、澪の帰りを大いに喜んだ。
「よかった! おかえり、澪!」
梓月は笑顔で澪に近寄り、五平と琥太郎は嬉しさのあまりまた泣き喚くのであった。
城内では、澪が出ていったと騒然としていたが、戻って来たことにより瑛梓と梓月の計らいで宴が開かれることとなった。
宴となれば良質な酒がいくらでも飲めると、家来達も歓喜の声を上げた。
宴の席では、今まで五平と琥太郎と同じ位置に善を運ばれていたが、澪は歩澄の隣にいた。
「あ、あの……歩澄様?」
家臣達の多くの視線が痛いほど突き刺さり、戸惑う澪は上目で歩澄を見上げる。
「よい。ここにいろ。お前を傍に置いておきたいと言ったのは私だ。改めて皆に紹介しよう」
「……え?」
皆の善が配られると、宴開始の音頭を取る前に歩澄が家来達に目を向けた。
「皆の者、聞け。此度、匠閃郷から連れ帰った澪の身柄を自由にすることとした」
歩澄の言葉に、家来達はざわめく。澪は囚われの身として潤銘郷に置いておく。皆そう解釈していたからである。
「して、今後は私の女として傍に置く」
想像もしていなかった歩澄の言葉に皆が言葉を失った。そしてその刹那、先程以上に騒がしくなる。
「ほ、歩澄様!」
家来達の反応を見た澪は、小声で歩澄の名前を呼び、着物の袖を引っ張った。
「意見のある者は聞こう。澪は、敵郷の姫だ。皆に不満が積もるのも当然であろう。納得がいかぬのであればその都度説明はする。しかし、私は私情で統主としての役目を怠るつもりなど毛頭ない」
袖を引っ張る澪の手を掴み、気迫をも放つ鋭い眼光を家来達に向けた。それは、潤銘郷統主の威厳に他ならない。
普段以上に真剣な表情を浮かべる歩澄に、家来達は徐々に鎮まっていく。
「私は国王を目指す。このまま統主で終わるつもりはない。そのためには、今後一層統主として精進するつもりでいる。皆を国王の家臣として迎え入れるためにもな」
歩澄がふっと頬を緩めると、わあっと歓声が湧いた。
「まずは匠閃郷を立て直す。そのためには公私共に澪の力が私には必要だ。皆が認める王となる。約束しよう。そのため、どうか澪の事を受け入れて欲しい」
歩澄の言葉に家来達の士気が高まった。我等は国王を支える家臣となる。我等の統主はこの國の王となる。歩澄の意思を持った青碧の目を見た家来達は、歩澄についていこうと声を上げるのだった。
「では、今宵は大いに楽しめ。酒は腐る程ある」
歩澄の言葉で宴は開始した。家来達は酒を煽り、歩澄の偉大さを語った。
「歩澄様、あのような事を言ってしまってよかったのですか?」
澪は歩澄に酌をしながらそう尋ねた。
「いつまでもお前を人質としておくわけにもいかぬだろう? 不満か?」
「い、いえ! ただ、よく思わない方も……」
「徳昂か?」
歩澄はくいっと酒を煽り、おかしそうに笑う。先程から痛い程徳昂の視線を感じているのだ。
「わかっているのでしたら何故このような……」
「お前を不安にはさせないと言ったであろう? お前が二度と私から離れていこうなどと考えぬよう、周りを固めておくのだ」
「なっ……」
くすくすと笑う歩澄に、澪は顔を真っ赤にさせ、俯いた。
「それに、言っておかないと空穏や梓月のようにお前に手を出そうとする輩も出てくるやもしれぬからな」
歩澄はふんっと鼻を鳴らす。
空穏が真剣に澪を想っている様子が痛い程に伝わってきた。りょうと呼んでいた空穏に対し、歩澄はあえてみおと呼んだ。しかし、空穏はそこに疑問を抱かなかった。
匠閃郷統主の娘だと知っている証だった。それをもってしても洸烈郷へ連れていきたいと思っていたのだ。そのように意思の強い者が敵にいる。
このまま澪とのことを有耶無耶にしていれば、そのうち澪を奪われかねない。そう危惧した歩澄は澪が己のものであると周知させておく必要があると思ったのだ。
「空穏は兄のようなものですよ。それに梓月くんは、今では私達を応援してくれていますよ」
「どうだかな……」
(あんなに想われていても兄呼ばわりか……敵ながら不憫だな)
歩澄は真剣な空穏の顔を思い出し、顔をひきつらせた。
「歩澄様が蒼くんだったと教えてくれたのも梓月くんなんですから」
「そもそも、過去の事を梓月に話したのか?」
歩澄は面白くなさそうに顔をしかめた。
「だ、だって……早く会いたかったんです。蒼くんに」
口を尖らせて上目で歩澄を見る澪。澪は平然と蒼の名を呼ぶが、歩澄としては何度も本名を呼ばれ、胸が高鳴る。それもいかに澪が蒼を想っていたか力説されているようで、気恥ずかしさも増した。
「わかった……もうよい」
歩澄は、赤面する表情を隠すように手で口元を覆った。
「おい、歩澄様の顔見てみろよ」
「あんな顔もされるのだな」
「女が絡めば、歩澄様も普通の男だということだ」
「貴重なお顔だ」
「あの女が来てから歩澄様の機嫌もよいしな」
「ああ、俺達もとうとう王の家来だぞ」
家来達はわいわいと歩澄を話題にあげる。酒が入ればすっかり祝福の雰囲気を作っている。
それを見て瑛梓と梓月は顔を見合せ、笑い合うのだった。
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