【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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失われた村【26】

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 宴も終わり、皇成に見送られる中、歩澄達は栄泰城を後にしようとしていた。
 澪は、皇成と歩澄が話している間にこっそりと頼寿に近付いた。

 澪の姿に気付いた頼寿は「結構な腕前であったな。俺は、お前ほどの腕前をもつおなごは見たことがない」そう言って微笑んだ。
 澪は少しだけ眉を上げた。頼寿の笑みには禍々しい雰囲気などなく純粋に勝負を楽しんだ人間の顔をしていた。
 
(……このような者がなぜ千依様を利用したんだろうか……)

 澪にはどうも頼寿が己の出世欲のためだけに妻を利用する男には見えなかった。

「何故……手加減して下さったのですか?」

 澪はそう尋ねた。勝負開始の二本目が頼寿の気遣いであったと気付いていたのだ。あの小さな木の実を狙える腕前であれば、わざと真ん中を外すことくらい容易にできるであろうと勝負中から思っていた。

「手加減? 何のことだか……」

「隠さなくてもよろしいです。あの二本目、わざとですね」

「……お前も、あの腕前があったのなら最初から真ん中を狙えたのではないか?」

「弓矢をもったのはとても久しぶりだったもので……感覚を取り戻すのに時間を要しました」

「そうか。それにしても体力のあるおなごだ。俺も鍛え直さねばならんな」

 頼寿は先程の勇ましい澪の姿を思い出し、おかしそうに笑った。

「そんなことよりも、何故手加減なさったのかを知りたいのです」

 澪が詰め寄ると、頼寿は困ったように眉を下げ、こめかみの辺りを右の人差し指で軽く掻いた。

「……こんなことで罪滅ぼしになるとは思っていないが……千依を死なせてしまったことを少しでも詫びたいと思ってな……」

 頼寿はそう言って顔を伏せた。改めてそう口にすると、千依の死を実感していくようで頼寿の胸はきつく痛んだ。

「……千依様は本当に最初から駒として娶ったわけではないのですか?」

「違う! それは断じて違うと誓おう。千依のことは本当に愛していた……利用する形になってしまったことは本当にすまないと思っている。だが、今後も俺は千依と共に生きていくつもりだったのだ」

 頼寿の顔は、嘘をついているようには見えなかった。しかし、そうとなれば気になるのは、秀虎が報告した黎明になると城下に降りていくという不可解なもの。

「……秀虎様から聞きました。黎明になると皇成様と城下に出かけるそうですね。噂では遊郭で女人を買っているのだとか……」

「なっ……なぜ、それを……」

 頼寿はぎょっとして目を泳がせた。動揺している証である。澪は目を細め、「噂は本当なのですね? 千依様というものがありながらそのようなたわむれを……それでよくも愛していたなどという嘘が……」と言いかけた。
 しかし、頼寿は慌てて「待て待て、誤解だ。たしかに遊郭で女人を買った。然れどそれは情報を集めに行ったに過ぎない」と否定した。

「……情報?」

「……他郷の者に言うことでもないが……俺も遊んでいると思われたままでいるのは腑に落ちんのでな……」

 頼寿はそう前置きをした後、「近頃遊郭で遊女達が不審な死を遂げていてな……その実態を探るべく忍んでいたのだ」と言った。

「ご統主とその重臣ともあろう者がですか」

 澪は尚も目を細め、じっと頼寿の目を捕らえた。

「ああ、本当のことだ。他郷はどうだか知らぬが、皇成様は郷の情勢は全て己の目で確認してからでないと気が済まないお方でな……。自らの目で見たものしか信じぬのだ。
 小さな事件であれば奉行に一任するが、こうも死人が出たとなれば放っておくわけにもいかぬ。皇成様の側室には、名を馳せた遊郭の花魁もいる。死人の中には第八夫人と第十二夫人が可愛がっていた遊女もいたようなのでな……皇成様も心をお痛めになり自ら情報を集めようとしているのだ」

 頼寿は観念したかのように全てを語った。
 澪は、想像していたものとは違い、物騒な真実を聞き瞳を揺らした。
 楊がいつぞや皇成は全ての村をその足で回ると言っていたことを思い出し、嘘ではないのやもしれぬと納得したところだった。
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