【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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失われた村【27】

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 澪は歩澄に呼ばれたことで顔を上げ、頼寿との会話を切り上げた。
 歩澄と秀虎と共に栄泰城を後にし、城下に降りた。

 馬を降りて手綱を引いて歩く。

「よくもまあ見事に手に入れたものだな」

 歩澄は穏やかな表情で言った。まだ店は並んでおらず、砂利道が続いているだけだ。少し向こうに多くの店が出ている。
 商店街には入らず左に逸れた砂利道をひたすら行けば、自ずと潤銘郷の大きな門が見えてくる。

 このように其々の郷の城は、民達が住む城下から離れており、仮に他郷から襲撃された場合に民を巻き込まぬように離隔されている。
 そのため神室軍が匠閃城へ攻め込んだ際も民を巻き込む事はなかった。しかし、爆薬や鉄砲を用いて襲撃をすれば民を巻き込むこともある。
 統主達は、その辺りも考慮して他郷との交流を図っていかねばならなかった。

「はい。頼寿様が手加減してくれたおかげです」

「やはりそうであったか。あの程度の的でしくじるなどあやつらしくもないと思っていたが……」

 歩澄は顔をしかめてそう言った。澪が無表情のまま「あの程度の的でしくじったのは私ですが……」と言うと、歩澄は慌てて「お前の腕前を貶しているつもりはない! 頼寿の腕前は確かなものなのだ」と弁解した。

「それも、澪の体力には敵わなかったな。あのように暴れてくるとは……」

 秀虎は、最後まで息を乱すことのなかった澪を思い出し、ふっと微笑んだ。

「だって万浬ですよ!? どの刀よりも取り返したかった刀です! 八雲様がただの女人好きで目利きのできない馬鹿統主でよかったです!」

 澪が満面の笑みを浮かべる。歩澄と秀虎は顔をひきつらせた。

「お前……本当にどこまでも口が悪いな」

 秀虎は苦虫を潰したかのような顔でそう言うと、大きなため息をついて頭を抱えた。

「ですが、民の事はちゃんと考えているのですね……」

 澪の言葉に歩澄はぴくりと眉を上げ、「ああ……そこが煌明とは違うところだ。皇成は馬鹿だが、民の事には熱心だからな」
と言った。

「はい。実は、頼寿様から聞いた話なのですが……」

 澪は、遊郭での事件について話して聞かせた。ついでに千依についての想いも。

「ふん……今更何を言おうと千依が生き返ることはない」

 秀虎は悔しそうにそう言った。しかし、そのまま「だが、皇成に仕えてさえいなければもっと違った幸せがあっただろうな」と加えた。

「皇成は女が関わると人が変わったように冷淡になる節があるからな。巻き添えを食ったとも言えるが……己が選んだ主だ。どのような由があろうとも千依の命よりも皇成を選んだ事には変わりない」

 歩澄がそう言った事で、澪は既に二人が頼寿の千依に対する想いに気付いていたのだろうと悟った。

「それよりも城下に降りていたのがそんな理由だったとはな……」

 そこまでは見抜けなかったと言うように秀虎は難しい顔をしている。

「あの、歩澄様……お願いがあるのですが……」

 澪が遠慮がちに歩澄を見上げてそう言うと、小首を傾げた歩澄が次の言葉を待つ。

「あの商店街に寄ってもよろしいですか?」

「……お前、まさかその事件に首を突っ込もうと思っているのではあるまいな」

 じっと疑うような視線を向けられた澪は、ギクリと肩を震わせた。

「ち、違いますよ! そりゃ、少しは気になりますが……純粋に栄泰郷の店を見てみたいと思いまして……」

(鋭いところを突くな……。流石、歩澄様。ただ店を見て回りたいだけなどと安易な考えには至らないか。然れど、私が知りたいのは八雲皇成の人柄についてだ。八雲が民を想って城下に出向いていたとしても、民は女人好きの八雲をどう思っているのか……)

 澪とて、他郷の事件に首を突っ込もうとは考えていなかった。しかし、今後王座争いをする相手として思った以上に手強くなるのは、民の信頼が厚い統主。
 この目で八雲皇成の評判を確かめようと思っていたのだ。

「……そういう事ならいいが、あまり他郷の事に関わるでないぞ。私達とて、我が郷と匠閃郷の事で手一杯なのだ」

「はい。わかっています。ただ、栄泰郷は潤銘郷とはまた違った店があると聞いたので、興味が湧いたのです」

「ああ、そうだな。それはある。潤銘郷に比べて見世物小屋も多いし子宝を祈る神社も多い。陰陽師も多くいる故、女人には占術も人気のようだな」

「占術ですか!?」

 歩澄の思わぬ言葉に、本来の目的よりもそちらに興味のいく澪。
 占術に興味津々の澪が先陣を切って商店街へと向かう運びとなった。
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