【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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強者の郷【24】

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「それにしても詳しすぎます」

「私に言わせてもらえば、お前さんが知らなすぎるのだよ。統主の娘のくせに」

「う……」

「まあ、どこの国でも女は政に口を挟むななんて言われるからね。お前さんが国の情勢についてなにも知らないのは無理もない。ところで、本来の目的はなんだい?」

 あっさりと話題を変えられてしまい、言うべきか言わぬべきか澪は迷った。じっと座卓の木目を見つめ、暫く考える。
 そうこうしている内に楊の方が「洸烈郷から帰って来たばかりでそんな顔をしていれば、むこうで何かがあった事くらいは察しがつくよ。幼なじみと喧嘩でもしたかい?」と尋ねた。

「いえ……」

「ふーん。じゃあ、煌明と一戦交えそうになったか」

「……間違ってはいません」

「それはそれで問題だがね。そんなことがありながら三人が無傷で帰って来たところをみると、煌明の方が手を引いたか……」

 楊は、筆のように伸びた顎髭を右手で撫でながらどこかを見つめ、やがて「煌明は正室に惚れているからね。まあ、戦は避けたいだろうね」と納得したように頷いてみせた。
 澪はすっと顔を上げ、やはり楊は知っているのだと勘づく。

「……洸烈郷を統治しているのは正室の朱々様だそうです」

「そんなに大事なことをたかだか薬師に言ってもいいのかい」

「……楊様は知っているのでしょう?」

「知っていようがいまいが、私の勝手だろう?」

 動揺する素振りもなく薬草の整理を再開させた楊に、澪はやはり……と息をのむ。

「どうしてそんな大切な情報を知っていながら、歩澄様には言わなかったのですか?」

「ん? お前さん、何か勘違いしていないかね? 前に言わなかったかい? 私は歩澄に仕えているわけじゃない。対等な利害関係なんだよ。洸烈郷の秘密を知ったからと言ってそれを歩澄に報告する義務など私にはない。貴重な毒草と交換で私から情報を得るならまだしも、どうして易々と私が情報をくれてやらねばならぬのだ」

「……そうでした。楊様はそういうお方でしたね」

 歩澄の味方のような顔をして、時に突き放すような態度を取る楊。最初は楊のこういうところが苦手だったと出会ったばかりの頃を思い出した。

「おや……歩澄の味方をしないものだから怒っているのかね」

「怒ってなどいません!」

「怒っているじゃないか。まあ、歩澄だから言う必要もないというのも本音だよ」

「え?」

「あれは頭が切れるからね。どれ程かかっても自ら辿り着かねば意味がない。王になるのなら尚更ね。お前さんはお馬鹿さんだから教えてやるが、朱々はちょいと危険な女だよ」

「おっ、おば……って、危険とは!?」

「朱々の周りではよく人が死んでいるんだ。まあ、これはあくまでも噂話だけどね、どうやらゴロツキやならず者とも縁があるようだよ。煌明が知らないなんてことはないと思うが……」

「え? あの、よくわからないのですが……」

「はぁ……本当に馬鹿娘だね。話をしていて頭が痛くなるよ。歩澄はなんたってこんなのがよかったのかね」

 楊は大きな大きな溜め息をついて、目頭をぐっと押さえた。澪は憤りでピクピクとひきつる頬を必死で押さえ、笑顔を作ろうと努力までした。
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