【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

文字の大きさ
241 / 275

楽しいお茶会……?【13】

しおりを挟む
「しかし、他郷の経費から出させてどうするつもりなのだ? このままでは栄泰郷と洸烈郷の民達の困窮は免れないぞ」

 歩澄はそこは考えているのかと少し目を細めた。しかし、澪は冷静に頷く。

「大丈夫です。あの者達があの経費を持っていたところで適切な使い方などできないのですから、それなら歩澄様が持っていた方が今後の役に立ちます」

「なっ……」

 己の考えの斜め上をいく澪の考え方に、歩澄は表情を失った。

「王になるのは歩澄様なのですから、その後栄泰郷と洸烈郷の民の生活を改善させるよう歩澄様が手を回せばよいのです。匠閃郷と同じように」

「……これではどちらが統主かわからぬな」

 歩澄は目頭を押さえて軽く息をついた。

「私は、歩澄様に守られてばかりいるのは嫌なのです。貴方についていくと決めたのですから、時には共に悪者にもなりますよ」
 
 肩をすくめて笑う澪に、歩澄の心はじんと暖かくなった。冷酷非道の名を一人で背負ってきた歩澄。慈悲はなく、雪のように冷たい目をした残酷な統主。そう言われ続けてきた。
 秀虎さえ本当の己を理解してくれていればそれでいい。そう思ってここまでのし上がってきた歩澄だが、凍てついた心まで溶かしてくれるのは、後にも先にも澪しかいないだろうと思わずにはいられなかった。

「……期待している。私は王となり、ゆくゆくはより多くの国と貿易を結ぶ大国にする」

「はい! とりあえずこれで潤銘郷は黒字に戻りましたし、幸先いいですね!」

 目の前の統主達と比較して、実に幸せそうな空気を纏う潤銘郷。
 歩澄と澪に挟まれて、全てのやり取りが筒抜けの秀虎は、なんとも恐ろしい姫を味方につけたものだと身震いした。


 その後の茶会は滞りなく終わりを告げた。皇成と煌明だけは肩を落としていたが、上機嫌な紬と朱々に連れられ城へと帰っていった。
 澪は栄泰郷の珍しい茶を振る舞われ、いつまでも味比べをしていた。

 そこへ話しかけてきたのは伊吹である。澪の隣へと椅子を持っていき、嬉しそうに腰かける。

「先程は見事であった。まさかあの話の流れから潤銘郷の名産である碧空石を売り付けるとは。しかも千二百両ときた。そなたは商人に向いているやもしれぬな」

 声を弾ませて言う伊吹の首もとを掴み、後ろにぐっと引く。その刹那、ぬっと現れたのは歩澄である。
 先程まで秀虎を挟んだ向こう側に座っていたはずだと視線だけを動かす。

 黒の布地に金糸で模様を纏った上質な着物を握ったまま、歩澄は「油断も隙もない男だ。澪と話したくば私を通せ」と言った。

「何を言うか。私は翠穣郷統主として、匠閃郷の姫を褒めているだけのこと」

「貴様……そのような言い訳を」

「落様、本当に歩澄様が王になったあかつきには民の応援をお願いできるのでしょうか?」

 まるで気にも止めていない様子の澪は、茶器を持ったまま、歩澄の腕を掴んで睨み合っている伊吹に問い掛けた。

「あ、ああ……。あの意見には俺も賛同したい。まあ……濾過機の設計図を提示するかいなかは悩むところだが、翠穣郷の不利益に繋がらないよう明確な計画が聞けるようになれば、前向きに検討しよう」

「それはありがたいです! 全ての郷の民が飢えも争いも知らずに生活できる時が訪れるといいですね!」

 澪が屈託のない笑みを向けたことで、伊吹の心臓は撃ち抜かれたかのような衝撃を受けた。
 顔を紅潮させ、歩澄の腕を掴んでいた手で己の鼻と口を覆った。ツンとした痛みが鼻の奥で疼いたのだ。

「……鼻血が出そうだ」

「貴様、今すぐ斬り殺してやろうか」

 髪が逆立つ程に殺気を放つ歩澄は、今にも刀を抜きそうである。それをまあまあと宥める秀虎。

 澪は、伊吹の申し出に満足し二人のやり取りなどお構いなしに茶を堪能するのであった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...