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神室歩澄の正室【1】
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雲一つない快晴。秋晴れの風は優しく地をそよぐ。街はいつも以上に賑わい、皆が皆まるで己の祝いのようにめかしこむ。
いくつもの店が並び、高価な装飾品を身に付け、街そのものがきらびやかに沸き立つ。
富裕層ばかりが集う富の郷、潤銘郷である。
本日はとうとう匠閃郷統主の娘である澪が神室歩澄へ嫁入りするとあって、城内も城下も他郷さえも大忙しである。
澪は朝から歩澄が用意させた美人の湯へゆっくりと浸かり、古傷を撫でていた。心なしかほんの少しばかり傷が薄くなってきたような気がする。
些細な変化に過ぎないが、それでも澪は満足であった。
政を自ら学び、歩澄と共に政務の内容に目を通すようになった澪は、すっかりご無沙汰になってしまった絃から祝言をもらいご機嫌である。
また、歩澄の計らいで城には梓乃が来ていた。直接梓乃と澪が会話をするのは、梓乃が婚前の挨拶に伺って以来の事だ。
澪の髪を梓乃の侍女が櫛で梳かしていく中、梓乃は興味深そうに澪の髪を見つめていた。
「この髪が本当に煌めく程美しい赤髪になるのですか?」
食い入るような視線に、澪はどうにも落ち着かない。此のように他人に髪を梳かされることなど姫として扱われた幼少期以来のことである。
歩澄以外の人間に背後をとられるのは未だに慣れない。しかし、ただの侍女に何ができようか。戦闘力を持たぬ侍女だからこそ、髪を触ることを許している部分もある。
「はい。水に濡れたり月明かりの下では赤く見えるのです。実際に髪の色が変わるのではなく、目の錯覚のようですが……」
「まあ……そうですの。早く見たいわ」
少女のように目を輝かせている梓乃の姿は、千両の首飾りを目にした時の紬と朱々を思い出させた。
後日しっかりと千二百両を納めた皇成と煌明の元に渡った首飾り。潤銘郷の経費も増え、潤銘城も一層活気に満ちている。
「お嬢様、あせらずともしかと私が澪様を美しくお支度させていただきますから」
澪の後ろでふふっと笑みを溢す侍女。二人の穏やかな雰囲気に包まれ、澪は祝福されているくすぐったさを感じた。
「そうね。緒果の腕は確かだわ。緒果は私が屋敷を与えられた時からずっと世話をしてくれている侍女なんです。きっとお義姉様はもっと美しく、お綺麗になります。保証しますわ」
相変わらず異国の血を思わせる白金色の髪は、梓月にそっくりである。そして、丸びを帯びて光を反射させる瞳は、澪が思わず嫉妬した程の美しさ。
そんな梓乃が何の躊躇もなくお義姉様などと呼ぶものだから、あちこちむず痒くて仕方がない。
「あの……梓乃様、ここまでしていただかなくても……」
「ダメです! 歩澄様の正室となるお方を一目見ようと他郷からも人々がやってくるのですよ! 巷では、赤髪の麗しい姫だとか歩澄様のお眼鏡にかなった絶世の美女だとかいう噂がある中、噂とは似ても似つかぬ貧相な娘だとか、男勝りのじゃじゃ馬なんていう声も聞かれているのですからね! 他の者達を制圧させる程の美しさを一度見せつけなくてはいけませんよ!」
くわっと表情を変え、捲し立てるように言う梓乃。上品な見た目とは裏腹に、早口な物言いは梓月を怒る時の瑛梓にそっくりで、澪は思わず笑ってしまいそうになる。
いくら上品に振る舞おうとも元々は町娘である。父親に襲われる前は、天真爛漫な娘だったことだろうと澪は親近感を覚えた。
いくつもの店が並び、高価な装飾品を身に付け、街そのものがきらびやかに沸き立つ。
富裕層ばかりが集う富の郷、潤銘郷である。
本日はとうとう匠閃郷統主の娘である澪が神室歩澄へ嫁入りするとあって、城内も城下も他郷さえも大忙しである。
澪は朝から歩澄が用意させた美人の湯へゆっくりと浸かり、古傷を撫でていた。心なしかほんの少しばかり傷が薄くなってきたような気がする。
些細な変化に過ぎないが、それでも澪は満足であった。
政を自ら学び、歩澄と共に政務の内容に目を通すようになった澪は、すっかりご無沙汰になってしまった絃から祝言をもらいご機嫌である。
また、歩澄の計らいで城には梓乃が来ていた。直接梓乃と澪が会話をするのは、梓乃が婚前の挨拶に伺って以来の事だ。
澪の髪を梓乃の侍女が櫛で梳かしていく中、梓乃は興味深そうに澪の髪を見つめていた。
「この髪が本当に煌めく程美しい赤髪になるのですか?」
食い入るような視線に、澪はどうにも落ち着かない。此のように他人に髪を梳かされることなど姫として扱われた幼少期以来のことである。
歩澄以外の人間に背後をとられるのは未だに慣れない。しかし、ただの侍女に何ができようか。戦闘力を持たぬ侍女だからこそ、髪を触ることを許している部分もある。
「はい。水に濡れたり月明かりの下では赤く見えるのです。実際に髪の色が変わるのではなく、目の錯覚のようですが……」
「まあ……そうですの。早く見たいわ」
少女のように目を輝かせている梓乃の姿は、千両の首飾りを目にした時の紬と朱々を思い出させた。
後日しっかりと千二百両を納めた皇成と煌明の元に渡った首飾り。潤銘郷の経費も増え、潤銘城も一層活気に満ちている。
「お嬢様、あせらずともしかと私が澪様を美しくお支度させていただきますから」
澪の後ろでふふっと笑みを溢す侍女。二人の穏やかな雰囲気に包まれ、澪は祝福されているくすぐったさを感じた。
「そうね。緒果の腕は確かだわ。緒果は私が屋敷を与えられた時からずっと世話をしてくれている侍女なんです。きっとお義姉様はもっと美しく、お綺麗になります。保証しますわ」
相変わらず異国の血を思わせる白金色の髪は、梓月にそっくりである。そして、丸びを帯びて光を反射させる瞳は、澪が思わず嫉妬した程の美しさ。
そんな梓乃が何の躊躇もなくお義姉様などと呼ぶものだから、あちこちむず痒くて仕方がない。
「あの……梓乃様、ここまでしていただかなくても……」
「ダメです! 歩澄様の正室となるお方を一目見ようと他郷からも人々がやってくるのですよ! 巷では、赤髪の麗しい姫だとか歩澄様のお眼鏡にかなった絶世の美女だとかいう噂がある中、噂とは似ても似つかぬ貧相な娘だとか、男勝りのじゃじゃ馬なんていう声も聞かれているのですからね! 他の者達を制圧させる程の美しさを一度見せつけなくてはいけませんよ!」
くわっと表情を変え、捲し立てるように言う梓乃。上品な見た目とは裏腹に、早口な物言いは梓月を怒る時の瑛梓にそっくりで、澪は思わず笑ってしまいそうになる。
いくら上品に振る舞おうとも元々は町娘である。父親に襲われる前は、天真爛漫な娘だったことだろうと澪は親近感を覚えた。
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