【完結:R15】蒼色の一振り

雪村こはる

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神室歩澄の正室【32】

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 皇成は煌明の言葉に、洸烈郷の評判がよくないことを承知していたのかと驚いた。洸烈郷は、煌明が絶対的な戦闘力を誇っている故、その力に憧れて支持している民が多い。剣術や武道の大会に熱中し、力こそ強さだと信じて疑わない洸烈郷の民にとっては、煌明は偉大な統主である。
 しかし反対に、暴動を嫌い争い事を好まぬ他郷の民からは、力で民を捩じ伏せるような横暴な統主なのではないかと恐れられていた。
 洸烈郷の英雄勧玄は、全ての郷の民からの憧れであったが、煌明が同じように洸烈郷一の強さを誇ったところで勧玄のようにはいかない。
 それは煌明が民に対する興味が希薄であり、己の利益を優先するからである。勧玄とは人柄も男気も異なる。悔しいながらも、それを一番理解しているのは煌明自身であった。

「だからとりあえず、だ。本当にそんなことをすればこちらとて民からの信頼をなくす。一度正室をその気にさせておけば、我等が王になった時にまた考えればよいではないか。
 その頃には王なのだぞ? 正室も他郷統主も誰も逆らえない存在となるのだ。王にさえなってしまえば今ほどの大口も叩けまい」

 こそこそと小声で言う皇成に煌明はぐっと険しい顔をする。

「それはそうだが……だがその時騙されたとでも言って癇癪を起こせばどうなる?」

「うーん……。で、では、王妃と正室の両方を設けたらどうだ!」

「……何を言っておるか……王の正室が王妃であろうが」

「それをだ、変えるのだ! 王妃となる条件は、匠閃郷出身の者だ。そのため新たに正室を娶らねばならぬ。しかし、歩澄の場合は正室が匠閃郷出身だからそのまま王妃となる条件を満たすのだ」

「何が言いたい! それは先ほど話したではないか!」

「ああ、そうなのだ! 王妃に匠閃郷出身の者を置き、正室の座には今まで通り正室を置いておく」

「言っている意味がわからぬ」

「だから、王妃が王の正室であるとするからややこしいのだ! 王も王妃も統主同様役職にしてしまえばいいとは思わぬか!」

 煌明はその言葉を聞いて、目を見開いた。まさかそんな提案をされるなどとは思ってもみなかった。
 統主の正室に役がないように、王の正室にも役を持たせぬというもの。代わりに王妃は役職とし匠閃郷出身の娘から選ぶ。王族としての養子縁組をし、妻としては迎えなければ正室の体裁は保たれるということである。

「貴様……よくもそのようなことを思い付くな……」

「それなら全てが上手くいくではないか! 王妃が役職であるとするならば、政務を全うしようとする聡明な娘が候補となる。王の寵愛と優雅な生活だけを求める娘から名乗りを上げるものはいなくなるであろう。
 さすれば、自ずと民を優先させる王妃が誕生し、王族の贅沢な暮らしをよく思わぬ民からは支持を得られるであろう」

 皇成はこんなに良い考えは他にないと目を輝かせる。煌明も同じように希望の光が見えたが、ふと冷静になり目を細める。

「だが、それは生涯王妃としての役職に附するということであろう? 王の寵愛も得ず、養子縁組だけするとなると王以外の者へ嫁ぐことになるのか? その場合、時期王はどうなる? 世継ぎは本来王と王妃との子であろう? 正室との子を世継ぎにしては匠閃郷出身の王妃を就かせた意味がなくなるのではないか?」

 煌明に正論を言われ、皇成は笑みを消して肩を落とした。その姿をみた煌明は、「馬鹿め……」と頭を抱えた。
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