したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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将来の夢

01

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『私の将来の夢は保育園の先生になることです』

 亜純は、自分が授業でそう答えるようになったのはいつからだったかと考えていた。亜純自身、共働きの両親のもとに生まれ、保育園で長い時間を過ごした。
 だから、同じ子供に関わる仕事でも選んだのは幼稚園ではなく保育園だった。幼稚園と保育園では必要な資格も違うため、進路を決めるにあたって最初から選択する必要があった。

「私は子供たちに教育がしたいんじゃなくて、働くお母さんたちの支えにもなりたいの」

 そう誇らしげに言ったのは、初めての彼氏ができる前のこと。当然亜純は、自分も時がくれば自然と結婚をして、妊娠・出産するものだと思っていた。セックスレスに悩む日がくるなんて、考えもしなかった。

 亜純は、仕事を終えると職員駐車場へ向かった。黒色の軽自動車に乗り込むと、エンジンをかける前に1件電話をかけた。スマーフォンの画面には【緒方おがた 千景ちかげ】と表示されていた。

「もしもし、亜純?」

 相手はとても穏やかな声で亜純の名前を呼んだ。耳障りのいい、低くて柔らかい声だ。

「あ! 出た。仕事大丈夫?」

「大丈夫。今ちょうど休憩しようかと思ってたところ」

「売れっ子は忙しいでしょうに。私のような一般人に時間を割いていただいて」

「何言ってんの、やめてよ。亜純までそんなふうにからかうの」

 千景は笑いながらも、面白くなさそうに息を吐いた。キィっと電話の向こう側で音がして、亜純は椅子から移動したのかなと情景を想像した。

「ふふ、ごめんごめん。あのね、今日子供たちに絵本読んだよ」

「あ、ほんと?」

「うん! すっごく面白かった! っていっても届いて直ぐ私が先に読んだんだけどね」

「そう。よかった。亜純が面白いって言ってくれたら安心する」

 ほわっとした空気が伝わってきて、亜純も何となく気持ちが柔らかくなった気がした。千景は8年前、絵本のコンテストで受賞し絵本作家としてデビューを果たした。当時、少し話題にはなったものの人気となるまでにはいかなかった。
 それが3年前、ママタレントの1人が千景の絵本を地上波で紹介したことがきっかけで、彼の仕事が増えることになった。デビュー当時まだ学生だった千景は顔を出さずに活動していたが、インタビューを機に顔出しを許可したところ『イケメン絵本作家』として一躍有名になってしまったのだ。
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