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今夜は同窓会

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 男が失禁し、血液か尿がわからないもので床が濡れた。強い臭いが漂って、真白は嫌そうに顔を歪めた。
 母は血塗れになった男の姿を見てガクガクと震えていた。まさかこんなことになるなんて思わなかった。彼女の目はそんなふうに言っていた。

 真白は無言でテーブルの上に置き去りにされていた布巾でゴルフクラブのグリップ部分を拭うと、布巾越しに掴んだまま母の目の前に差し出した。
 震える母の手にそれを握らせた。

「え……? は?」

 母は呆然と自分の手の中にあるゴルフクラブを見つめた。娘は平然としているし、夫は血塗れで倒れている。
 これはどういう状況なのかと震える中、真白はスマホを取り出してどこかへ電話をかけ始めた。

「……助けて下さい。母と、父が大変なんです」

 そんな声が上から聞こえて、思考が停止した。どこに助けを求めたのか。大変とは? 私とあの人が? 大変なことをしたのはコイツじゃないか。こんなことが世間様に知られたらどうなることか。やっと生活が楽になったのに。
 パートだけで自分に使えるお金もできたのに。なんでそれを奪われなきゃいけないの?

 そんな考えが頭の中を駆け巡り、自分の娘だったはずの少女に殺意すら沸いた。コイツが私の人生をめちゃくちゃにした。色気を振りまいて男を誘惑し、私から夫を奪った。そして今度は生活まで奪おうとしている。
 こんなヤツ、産むんじゃなかった。

 ふーふーと息を荒らげてグリップを握る手に力を込めた。「殺してやる……」そう呟きながら。何度も何度もグリップを握り直した。

「へぇ。娘のためには戦えないのに自分のためには娘を殺せるの?」

 氷のように冷たい言葉が降ってきた。

「お前が死ねよ」

 次の瞬間、側頭部に大きな衝撃が走った。リビングの椅子が降ってきたのだ。

「ぐぁ……ぁ……」

 息ができなくなってまたその場にうずくまる。今まで殺意でいっぱいだったのに、途端に恐怖に支配された。

「どう? 怖いでしょ? 殴られ続けると次の衝撃で更に怖くなるのよ。私は何年もその恐怖と苦痛に耐えた。お前が何もしてくれなかったからな」

 そう言って母の腹を蹴り飛ばした。

「ぎゃっ!」

「ねぇお母さん。私ね、アイツの子供を妊娠したんだよ」

 痛みに耐えながら、母は大きく目を見開いた。

「それに気付いたアイツがこうやって私のお腹を蹴ったの。赤ちゃんが死ぬまでね」

 そう言って真白は、自分がされた時と同じように母の腹部を蹴り続けた。
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