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想いの矛先

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 ちょうどタイミングよく千景からの着信があった。スマホ画面をじっと見つめていた亜純は飛び上がってスマホを放り投げた。

「わわっ!」

 手で空を掻き、スマホを何度かバウンドさせた後、床に落とす間一髪のところで捕らえた。ほっと息をついて電話に出る。

「も……もしもし」

 すっかり疲れてしまった亜純は低いトーンで言った。

「あ、夜遅くにごめん。今大丈夫だった?」

「うん、大丈夫。ちょうど今帰ってきたところ」

「出掛けてたの?」

「うん。実は婚活パーティーというやつで……」

 亜純はかくかくしかじか、経緯を説明した。そして、たった今デートの誘いを受けたところだということも。

「へぇ……。そんなにすぐに前を向けないかと思ってたけど、進展があってなにより」

「うん、まぁ……。でもデートってどうするんだったかなって思って……。依以外の男の人と2人で食事なんてしたことないからさ」

 はは……と亜純は笑うが、少し気恥しさもあった。この歳になって男性とデートしたことがないだなんて、自分は本当に人生経験が浅いのだと思い知らされる。
 依とはキスやハグはしていたけれど、恋人というよりかは家族愛に近いものだった。セックスレスになってからは余計にだ。

「まあ、何も考えずに楽しんだらいいんじゃない? 結婚するなら自然体でいられる人の方がいいだろうし」

 照れる亜純とは逆に、千景は穏やかに言った。千景の方がよほど恋愛経験も結婚経験もありそうな態度だと亜純は思った。

「うん……。千景はさ、そろそろ結婚とか考えてる? 同窓会の日にさ、とりあえずは作家になることが夢だったって言ってたけど、それは叶ったわけだし」

「さぁ、どうだろうね。彼女もいないしね」

「どのくらいいないの?」

「んー……5年くらい?」

「そんなに!?」

 亜純は目を丸くして声を上げた。散々自分の相談には乗ってもらったが、千景の恋愛話は聞いた事がなかった。
 彼女がいたっているとは言わないし、付き合ったことも知らなければ当然別れたこともしらない。
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