したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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想いの矛先

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 散々千景に亜純のいいところを言わせたあと、次の休みにでも服を選びに行くか……と亜純は頭の片隅で思う。

「あー……千景と話してたらお腹空いてきちゃった」

「食べてきたんじゃないの?」

「色々話しかけられて食事どころじゃなかった。お腹空いた」

「食べるものないの?」

「今日は会場で食べるからって何も用意してなかった」

「そう。んー……飯行く?」

 千景は少し考えてから言った。かくいう自分も夕食を食べていないことに気付いたのだ。ずっと締め切りに追われて作業していたから、食事のことなどすっかり忘れていた。
 亜純に電話をかける少し前にようやく原稿を描きあげて、フォルダを編集者に送ったところだった。

 これで返信がくるまではゆっくりできるといった今、亜純が空腹を訴えたことにより千景まで腹を鳴らした。

「え? 今から?」

「うん。明日仕事か」

「仕事だけど……まあ、いいや。うん、お腹空いたし行こうかな」

 千景に誘われたのは意外だった。今までは依の目があったから、千景と2人で食事などもちろんしたことはない。しかし、今となってはお互いそんなことを気にする必要もなかった。

「じゃあ、俺が迎えに行くよ。明日の縛りないし」

「そうなの? 仕事ない?」

「一旦提出したから大丈夫。支度して待ってて」

 千景はあっさりそう言って電話を切った。同窓会で会った時、千景も地元に帰ってきていることを知った亜純。仕事の都合で東京にいたこともあったが、今の時代、仕事のやり取りはほとんどリモートでできるからと住み慣れた場所に戻ってきたとのことだった。

 だから当然実家に戻ってきた亜純ともそう遠くはない距離に住んでいるのだ。
 簡単に着替えをして階段を降りると、まだリビングでテレビを見ていた母と目が合った。

「こんな時間に出かけるの?」

 母は心配そうに眉を下げた。

「うん。千景とご飯に行ってくる」

「あれ? 千景くん? 珍しいじゃない」

「うん。去年同窓会で再会してからちょくちょく連絡取ってるの」

「あらそう。じゃあ、真白ちゃんも一緒?」

 母にそう言われて、亜純はドキリと飛び上がった。
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