したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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想いの矛先

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「う、ううん。真白は忙しいみたいだから。今日は一緒じゃないの」

 亜純は笑って誤魔化した。未だに真白からのメッセージを開けていないのだ。あれから真白の方から連絡がくることもない。
 千景は真白と連絡が取れなくなったと言ってからその後どうなったかの報告はないから、未だに連絡は取れずにいるのだろうと思えた。

「あら、そう? たまには遊びにいらっしゃいって言っておいて」

「うん……。また、会ったら言っとく……」

 亜純はそう言いながら、今後会うことなんてあるだろうかと考えた。メッセージの中身を見たら二度と会いたくないと思うかもしれない。
 それが怒りなのか悲しみなのかはわからないが、真白の裏切りを実感してしまう気がした。

 私に好きな人ができて、依のことを完全に過去にできたなら、その時ようやく真白の行動も過去として水に流せるんだろうな。
 そう思うとやはり今はまだ会うべきではないし、メッセージももう少しそのままにしておいた方が良さそうだと思った。

 千景の到着を待って家を出る。思えば千景が運転する車に乗るのもどんな車に乗っているのか知るのも初めてだった。
 亜純は大きなSUVのサイドステップに足をかけてうんしょと大きく踏み込んでから座席に身を任せた。

「お待たせ」

「ううん。ありがとう。何食べる?」

「この時間だとやってる店限られてくるね」

 行き先を決めながら、亜純は先程の母の言葉を思い出す。

「ねぇ……千景はまだ真白と連絡取れない?」

 ポツリと言った亜純をチラリと横目に見る千景。視線を前に戻して「取れないよ。あれから何度も連絡しようとしてるわけじゃないからわからないけど、今後も連絡取る気があるなら向こうからくる気がする」と言った。

「そうだよね。……ごめん、なんでもないの。連絡が取りたいわけでもない。ちょっとね、不意に思い出して」

「うん。そういう時もある。あまり思い出したくないなら俺が会ったことある絵本作家の話させてよ」

 千景はそう言って話題を変えた。亜純はじんわり胸が温かくなるのを感じながら、千景の穏やかな声に耳を傾けた。
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