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それぞれの生活

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 亜純はどうやら初デートというものに緊張しているようだった。依と出かける時には当然明るく行ってくる! と顔が強ばることなくどこへ行くかを話したが、今回ばかりはことある事に「あー……緊張してきた」「何話そう……」などとその日の日程を想像しては表情をコロコロと変えた。

 依以外の男のことで亜純が悩む姿を見ることになるなんて思わなかった。最初はそんなふうに思いながらただただ不思議だったが、その内もし付き合ったら~なんて先の話までするものだから「ちょっと気が早いんじゃない」と千景が行き過ぎた想像を止めたりもした。

 千景は、自分も亜純のようにあまり恋愛で悩んだことがなかったなと思った。それも、依のように独占欲でいっぱいになるほど誰かを愛したことがなかったからだ。

 あそこまで人を好きになってしまったら、毎日その人のことで頭がいっぱいで仕事どころじゃないんだろうなと考える。千景には想像もできないことだ。
 切り替え上手な千景は、いつだって仕事モードで集中することができた。というよりも、作家の仕事そのものが千景の夢だったから、仕事が趣味みたいなもので1番夢中になれるものだった。

 千景にとってそれほど大きな存在と同等のものを他者に感じることができなかっただけの話だ。今までの彼女も好きではあったが、仕事優先だったし、理解できない彼女なら一緒にいることも苦痛に変わってしまった。

 依が亜純に抱くような執着とも取れる好意はどんなものだろうかと興味はあった。作家の夢を想い続けて、寝ても醒めても作品の事ばかり考えるように、作品を子供のように大切に思うほどに、他人を慈しめるものなのだろうかと他人事のように思う。

 確実に他人事なはずなのに、亜純の恋愛の行方は気になった。依に抱いた他人への愛情に対する興味と同じ好奇心なのか、それとも相手の男性側からの亜純に対する好意への興味なのかはわからないまま。
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