したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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それぞれの生活

06

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 初デート当日を迎えた亜純は、朝から落ち着かなかった。デート服は結局美希に選んでもらい、髪も配信動画を見ながら自分でアレンジしてみた。
 仕事中はほとんどノーメイクだし、休日だってフルメイクをすることも少ないが、今日は早くから支度を始めて頑張ってみた。

 こんなふうに誰かのために時間をかけて支度をするのは初めてに近い。依は恋人というより始まりが同級生だったし、仲のいい友達も子供がいればラフな服装で派手なメイクを避けている者が多いため、亜純も同じように気軽に会っていた。

 世の中の女子たちはこんなふうにデート前に時間をかけるのかと28歳にしてようやく知ることになった。

 緊張の中待ち合わせ場所に行くと笑顔で手を振られた。亜純は軽く会釈をして挨拶を交わす。既にレストランを予約してくれていたようで、案内された建物を見てやっぱり綺麗めのワンピースにしてよかったと顔を綻ばせた。
 けれど亜純の不安も的中する。あまり高級なレストランなど行ったことがない。テーブルマナーは大丈夫だっかと緊張が走る。

 メニューを見ても何がなんだかよくわからない。値段も書いていないから、どれを選んだら失礼にあたらないのか考えるのに苦労する。
 メニューと睨めっこする亜純に、悠生は「どうしてもってものがなければ俺のオススメでもいいですか?」と向かいから声をかけた。

 時間がかかる亜純に痺れを切らしたのかとも思えるが、亜純にとっては助け舟に思えた。

「あ、はい! お願いします。メニューがたくさんあって決められなくて……どれも美味しそうで」

 適当に誤魔化したが、悠生が「ですよね。俺もいつも迷うんです」と言って笑ったから、少しだけほっとした。けれど同時に「いつも」という言葉がひっかかる。
 どうやら普段から訪れている店のようだ。こんな高級店に頻繁に通えるなんて自分とは住む世界が違うのではないかと萎縮した。

「あの……新井さんはよくこのお店にいらっしゃるんですか?」

「はい。友人が経営している店なんです。ここの物件を薦めたのも俺で」

「あ……そうだったんですね」

「友人だから言うわけじゃないんですが、ここの料理が凄く美味しいので是非亜純さんにも食べてほしいなって思ったんです」

 彼は、にっこりと歯を出して笑う。友人の顔を立てるような言い方にも好感が持てた。
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