したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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それぞれの生活

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 帰宅してから千景の連絡先を表示させる。亜純はどこか誇らしかった。千景には散々醜態を晒してしまった。
 悲しい思いに浸りながら全てをぶちまけた。その結果、自分の恋愛も結婚生活も他人の手によるものだと千景にも知られてしまった。

 当時は知ってもらって慰めてもらってかなり心が楽になった。けれど、いつも俯瞰して亜純を見ている千景にも自分の力で恋愛できることを示したかった。
 30目前にもなって、自分の道を自分で選択できないだなんて思われたくはなかった。それほどまでに亜純にとって千景は、大切な友達であると同時に敷居の高い人物だった。

 強い志しを持っていて、それは絶対にブレない。自分の人生のためなら、恋愛は後回しにでもできる。だからといって他人の生き方を決して否定したりはしない。けれど、それがまた千景に認めてもらいたいと思う理由でもあった。

 千景に褒められたり認められたら、人間として少しレベルが上がる気がした。結婚も出産も一度は失敗したが、自分の手で再度幸せを構築できたら、千景は今度こそ心から祝福してくれるだろう。

 そんなふうに思った。

「もしもし、亜純?」

「あ、千景! 今忙しい?」

「ううん。いいよ」

 千景はいつも忙しいとは言わない。それは多分いつでも忙しいからだ。少し時間をずらしたところで、忙しさは変わらない。
 だからこうやって相手の都合に合わせて時間を作ってくれる。

「手短に済ますから」

「うん。なに?」

「あのね、デートしてた人。付き合うことになった」

「ああ、そうなんだ。あれから会ったんだね」

「うん。昨日ね」

「昨日? 早い報告だ」

 そう言って千景はふふっと電話越しで笑う。相手にちゃんと付き合う意思があったことで千景も少なからず安堵した。やめとけと言わなくてよかったかな、と思えた。
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