したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

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愛情は感じるもの

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 亜純が車内で鬱々と考えていると、千景が勢いよく車のドアを開けた。

「亜純! ねぇ、今送られてきたやつ聞いたんだけど」

 亜純が運転席側に視線を移すよりも先にそう言われて、亜純は息を飲んだ。1人になったところで連絡を確認したのだろう。
 2時間ほど前に送った音声をたった今聞いたのだ。車内にいる亜純から送られてきたと思った千景は不思議に思ったが、受信時間を確認して血相を変えた。

「うん、あのね……」

「付き合ってた男に殴られたの?」

 まるで千景の方が被害者のような顔をしていた。とても傷付いたような、怯えたような目だ。

「うん……。なんか、付き合ってたっていうのも私の1人よがりだったみたい」

 こんな時に亜純は千景に嬉しくてたまらなかったデート内容を話したことを思い出す。千景は何も言わずに話を聞き、よかったねと一言言ってくれた。
 それなのにそのデートすら、自分を騙す段階の1つだったと思うと情けなくてたまらない。

 恥ずかしくて穴があったら入りたいほどだった。

「よかったよ、無事で」

 そんな亜純の気持ちなどおかまいなしに、千景は車に乗り込むとそのままギュッと亜純を抱きしめた。
 一時は心地よいと思った悠生の温もりとも、甘えん坊で力強い依の抱擁とも違った。

 当然千景に抱きしめられたのは初めてのことで、亜純は状況を飲み込めずにいた。しかし、すぐに守られているという実感が湧いてきて、自然と涙が頬を伝った。
 躊躇うことなく、千景の背中に腕を回し、頬を胸に預けた。

 無事に帰ってくることができたのだと改めて安心した瞬間だった。

「頼ってくれたのにすぐに気付けなくてごめん」

 そんな言葉までもらったら、何も考えられなくなった。勝手に舞い上がり、信用して騙されたのは自分だ。
 ほとんど無理やりのセックスを拒絶できなかったのも自分だ。最初に金がなくなった時、その原因を探らずにそのままにしたのも自分だ。

 今日のことは回避しようと思えばできたはず。それなのに悠生の思い通りに行動してしまった自分が悪い。そんなことは誰が見ても明らかなのに、千景はそんな亜純を責めることなく優しく包み込んでくれた。
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