したい夜はきみとじゃない

雪村こはる

文字の大きさ
213 / 243
新しい風

06

しおりを挟む
 千景の家に足を踏み入れると、亜純は途端に緊張感が増すのを感じた。今までなら千景の自宅にきたって何とも思わなかったはず。
 けれど今日は今後の2人について話し合い、もしかしたらその先も……なんて考えて慌てて思考を停止させる。

 まだ唇も痛み、昨日悠生に乱暴に抱かれたばかりだ。それを知っている千景がすぐに亜純に手を出すとは考えづらい。
 自宅に招いてくれたのだって私のことを考えてくれてのことだよね! 千景はあの人とは違うんだから。
 そう思いながら、亜純は通されたソファーにちょこんと座った。リビングにはあまり物がない。

 書斎として使っている部屋にはたくさんの資料と絵本があるのを知っている。そこは絵本作家らしい空間だが、リビングだけ見ればとても綺麗に片付けられた普通の成人男性の家だ。

「冷たいものの方がしみないよね?」

 そう言って出してくれたのは冷たい烏龍茶だ。グラスの中に透き通った茶色がキラキラと輝いて見えた。緊張で喉が渇いていたから、とても美味しそうに見えて、亜純はありがたくそれを3口飲んだ。

「適当になにか作るから待ってて」

「……千景って自炊するんだね」

「うん。面倒臭いと宅配頼むけどね」

「今、届けてくれるところ多いもんね。でも、家知られるの困るんじゃない?」

 千景はメディアで取り上げられたこともあるから、一部の人間はその顔を知っているのだ。アイドル並みの人気があるわけではないが、一定の層にはオタク並のファンがいる。

「そうだね。だから、ほとんど自炊する。でもまあ、俺のこと知らない人の方が多いからそんなに困ってはないけど」

「千景が自炊できるなんて知らなかった」

「俺は依が料理してたことの方が驚きだよ」

 そう言いながら千景は鍋に火をかけた。亜純と依の生活状況を聞いて初めて依が料理することを知った千景は、亜純のためならそこまでできるのかと感心したものだ。
 しかし、そんな依も子供だけは作ってやれなかった。

 キッチンカウンターを挟んでリビングにいる亜純を見る千景。今更依がどれだけ後悔したところで、もう身を引く気はさらさらなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...