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新しい風

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 亜純は安心したように1つ息をついた。

「そう……だよね。でも、なんで依とはして千景とはしなかったんだろう」

「誘われたとしても乗らないよ。俺は好きじゃない子は抱かない」

 1つの曇りもなくそう言う千景を見て、亜純は全く疑うことなくそりゃそうだと頷いた。考えてみれば自分にとっても千景にとってもそれが当然だった。
 真白と依が性に奔放だっただけで、自分たちが特殊なわけではないと亜純は思う。

「なんとなくだけど、依の方から真白に取り持ってもらおうと頼んだからなのかなとは思った」

「ん?」

「わかんないけどね。俺もじゃあ亜純と付き合いたいってあの時言ったら誘われたのかもしれないし」

「うん……」

「でも、真白は俺とはしなかったと思う」

「……私も、なんとなくだけどそう思う」

 亜純も千景も感覚的なものでそう思った。依のことは単に信用がなかっただけ。直接そうは言わないが、真白が試そうとしたような気は感じ取れた。

「依と揉めてるって言った時もまだ亜純と付き合う気はないのかって言われてさ。まだ言ってるんだって思ったけど……高校の時から本当は俺と亜純をくっつけるつもりだったのかな」

「……何のために?」

「少なくとも俺には真白が本気で依に怒っているように見えたよ。だからなんで余計に亜純が嫌がるようなことをしたのか全くわからない」

「私も……。私と依が付き合ってからは2人の関係はなかったって依は言ったの。それどころか依は真白のことを嫌ってるみたいに見えて……でもそれならなんでえっちしたのかなって……」

 今になってもわからなかった。この件については散々考えた。長い時間をかけても答えが出なかったものだ。時が経って冷静になってもやはりわからないものはわからない。

「メッセージ……読んでみようと思う」

 亜純は続けてそう言った。今まで到底許せるものではないと思っていたから、真白からの弁解を聞いたってどうにかなるものではないと見るも起きなかった。
 けれど、今ならちゃんと向き合える気がした。本当の意味で依との区切りをつけるということは、こんなふうに新たな恋心と向き合って他人の幸せを思えるような余裕ができることなのではないかと思えた。

 その概念で言えば、亜純が悠生との恋愛に走ったのも合理的である。
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