漆黒の大魔将軍は勇者に倒されたはずでした!?

武家桜鷹丸

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第二章 盾は何処へ。

眷属契約。

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 作業開始から早二週間。
 現在は穴の拡張工事が終わり、石積みによる補強工事が進行中である。
 ケット・シー達が精力的に頑張っている中ジリリリリ!といううるさい音が皆の耳に入ってきた。

「皆ぁ、休憩の時間だよー。」

 そう大声で繰り返し伝えながら一匹のケット・シーが通路を走り抜けていくと工事していた者達がわらわらと穴から出てきて各々休憩を取り始める。
 穴の近くには少々禍々しい直径二十センチ弱の円盤が木組みの枠に鉄の鎖で吊り下げられており先ほどの音はこれが出していた。
 そう、この円盤には長い針と短い針があり指定した時間になると数十秒間鳴り続けるという目覚まし時計の役割を果たしてくれる我の道具の一つである。
 我が命じた工事なのか、ケット・シー達は朝から晩まで働こうとしていた。
 しかし我は元スーパーの店長。
 季節のイベント以外ではどうしても仕方ない事情を除いて残業は極力させないやらせないがモットーであった。
 なので我は目覚まし時計を取り出し休憩時間を入れた八時間労働を設定した。
 我の為なら身を粉にして働きたいと言ってきた者達もいたが…。

「精を尽くし命を縮めるより、我は長く働く者を求めておる!」

 と少し強めに言い聞かせてあげるとケット・シー達は素直に従ってくれた。
 そしてこの二週間で我はケット・シー達を観察していた。
 長老以外にリーダーシップができる者はいないかを確かめる為だ。
 観察した結果、三匹が目に留まった。
 力自慢で兄貴分のある黑白模様の雄猫クロニ。
 冷静かつ与えたブラックスケルトンを上手く扱う知性的で多分イケメンなのだろうアメショー柄の雄猫のシーバ。
 そして素早い行動と若い子達の先導が上手いミケラと呼ばれるあの時我の背中を押してくれた三毛猫だ。
 この三匹に絞った我はいよいよ行動に移すことにした。
 候補者を選んだ明くる日、我はケット・シー達を集めて言った。

「お前達に集まってもらったのは他でもない。これから我と[眷属契約けんぞくけいやく]をする者を選別する。」

 唐突に伝えたことにケット・シー達がざわめく中、我はまず説明してあげた。
 [眷属契約]とは我の直属の配下にする為の儀式であり、前の人生で我が経験したパートから正社員になるというのが例えになるだろう。
 もっともその時は働き始めてから約十五年は経ってからだったが…。
 話を戻してこの[眷属契約]を結ぶことによって様々な恩恵が与えられる。
 まずはスキル【念間話術トランシーバー】が使えるようになる。
 これは離れたところでも我と会話ができるようになり中間報告や緊急時の状況報告などに役立ち尚且つ魔力消費が微少で使い勝手のよいスキルだ。
 次に我の眷属に見合ったステータスにまで能力の上昇と進化する。
 例を出すなら今の我がゴブリンを眷属契約すれば一気にゴブリンキングまで進化する。
 ここまでだとメリットばかりだと思うだろうがデメリットもある。
 一度契約したら二度と解約することが出来ないし契約主は任意で眷属の居場所をGPSのように確認することが出来たりとプライベートに抵触してしまうことも出来てしまう。
 何より主の命令には絶対服従する形になり反乱しようものならダメージを受け最悪死んでしまうほどの効力も持つ。
 我はケット・シー達に眷属契約の説明を終えると候補者三匹の名前を呼び前に出てもらう。

「お前達三匹の中から投票で一匹に我の眷属契約を行う。」

 そう伝えると我はブラックスケルトンを一体呼び人差し指を立てた手と上腕を抜き取り即席の棒を手に持ってささっと振れば遅れて地面に長方形と正方形を組み合わせた計六マスの図が描かれる。
 三つの正方形には候補者を立たせ、長方形には猫なので足跡を使った投票をさせようという方式だ。
 しかし図面を描き三匹に移動するよう告げた時、候補者の一匹シーバが手を挙げた。

「恐れながら大魔将軍様に申し上げます。」
「うむ、申してみよ。」
「はい、僕自身がミケラを推薦致します。」

 シーバから出た意見にミケラが驚く中、我が理由を聞こうとする前にクロニも同じ意見を伝えてきた。
 聞けば二匹は以前ミケラに助けられたことがあると言う。
 クロニは猪を相手にして窮地に追い込まれた時にミケラが仲間を引き連れさらに罠を使って倒した勇気を讃えた。
 シーバは意外にも知識だけではどうにも出来なかった自分の恋の悩みを無事に解決し夫婦になれた時のミケラの機転さを称賛した。
 そして最後に老若男女に慕われているミケラこそリーダーに相応しいことを二匹は我に伝えた。

「ですから大魔将軍様、その【眷属契約】ってのは是非ともミケラにしてやってくだせえ。」
「ふむ、双方それでよいのだな?強くなれる機会を譲ることになるのだぞ?」
「はい。僕もクロニも、強くなったミケラに従います。」

 最後に平伏してみせるクロニとシーバ。
 二匹に目配せしてから我はミケラを見つめる。
 称賛を受けても自覚がなかったミケラは困惑していたが我の視線に気づくと直立して次の言葉を待ってくれた。

「さてミケラよ。皆がお前を推薦した。故に問おう。」

 二、三歩歩み寄りミケラを見下ろしながら我は続けた。

「ミケラよ、我が眷属となり絶対服従をここに誓うか?」
「は、はい!あたしは、大魔将軍様の眷属になります!」

 両手を合わせて返事をしたミケラに我がよかろう!と頷けば双方を囲むようにして黒き魔方陣が地面に展開する。
 魔方陣を踏みそうになったクロニとシーバに離れるよう指示してから我は両手の平をミケラを向けながら契約の準備を始めた。

「我、ここにいる者を我が眷属として迎え入れ、主従のくさびを打ち込まん…【眷属契約】!」

 唱え終えるとミケラの白い腹部に地面に展開したものと同じ魔方陣が現れふわりとミケラの身体が宙に浮いた。
 ミケラが軽く背中を逸らせる態勢になれば腹部に出来た魔方陣の中心から黒い鎖が飛び出し我の手の平と繋がる。
 これで【眷属契約】は完了となり、次にミケラへと恩恵が与えられる。
 地面の魔方陣から出た黒い膜のようなものが繋がったミケラの身体を覆い隠し球体を形成する。
 少しして中から大きな鼓動とともに球体も大きくなり卵形へと変形した。
 その様子にケット・シー達は声を漏らしながら見つめ我は静かに見守る。
 そして鎖が消滅してから少しして頭頂部から膜が霧散するとそこにミケラはいなかった。
 現れたのは片膝を着いた態勢でいる灰色の肌に茶髪のヒト。
 ただ頭と臀部から三毛猫特有の色合いの猫耳と尻尾が生えていた。

(ほお、これは面白い。まさか〈ムーンライダー〉にまで進化するとはな。)

 我は結果を見て大いに感心した。
 〈ムーンライダー〉とはケット・シー族の進化の中で上位種の一つに入りその戦闘力はエルフ族すら苦戦するほどだ。
 【眷属契約】の恩恵でここまで進化したケット・シーは我の知る限り稀なのでミケラの潜在的能力がそれだけ高かったことが伺えた。
 瞼を開け金色の瞳を見せたミケラは立ち上がった時に首を傾げてから左右を見る。
 彼女が立ち上がった時に我は失念していたと反省した。
 元が何も着ていないのだから進化してもそのまま身一つの姿。
 しかも出てるところが出てる美しい身体が丸見えのままなのだ。
 転生前の我だったならば恥ずかしくて目を向けることも出来なかっただろう。
 だがこの世界で数々の妖艶な容姿を見てきたのと種族的に羞恥心が疎くなっているおかげで一切動じることはなくなっていた。

「ふわっ!?なんか目線が高くなってます!」

 左右を見てから第一に気づいたことを口に出すミケラ。
 そんな彼女に我は懐かしさを覚えて微笑する。

「ほらミケラよ、これがお前の新しい顔だ。」

 我はそう言って腕を横にして前に出し光沢のある面を鏡代わりにしてミケラに見せてあげた。
 黒い面に映る自分の顔を前にミケラは両手でペタペタと触り終いには頬を左右に引っ張ってからまた驚いてみせる。

「ほえぇっ!?私ヒト族になってしまったんですか!?」
「違うじゃろミケラよ!巫女様と同じ姿になったのじゃ!」

 すかさず長老が指摘してくれたおかげでミケラはそっかぁ!と気づかされる。
 長老の言ったことは正確には違う。
 ミケラは〈ムーンライダー〉だが、巫女は〈サンウォーカー〉と呼ばれる魔法向けの種族だからだ。
 その間に我は【異空間倉庫】に手を入れて濃い紫色に複雑な模様が描かれたフラフープほどの輪を出す。

(えーっと、ムーンライダーだからセットJにしとくか。)

 指先から魔力を注ぎ入力させれば模様が光り準備が整ったのでミケラに止まって腕を上げるように指示をする。
 指示通りミケラがするのを確認してから輪を斜め上に投げれば彼女の真上で止まってからゆっくり降りていく。
 そこでケット・シー達はまたまた驚く。
 輪がミケラを通り抜けるといつの間にか見たことない格好に変わっていたからだ。
 対する我はといえば時が経ってもちゃん自分の道具が使える確認が取れた。
 ミケラに使った輪の正式な名前は〔魔術師の輪イリュージョンリング〕。
 これは我が考案して作らせた言うなれば早着替え出来るリングだ。
 倉庫にしまっている装備を予めリングに入力し登録しておくことによって輪を抜けると自動的にその装備が対象の体型に合わせて装着されるという便利な物だ。
 ちなみにこのリングの開発にはとある青いロボットからアイディアを頂戴したというのは我だけの秘密になっている。
 このリングにセットがAからKまであり先ほど我が選んだセットJはムーンライダーであることから身軽さを重視した軽装備の組み合わせになっている。
 我が設計した日本伝統の袴着に肩当てと胸当て、頭には鉢金という大和撫子をテーマにした防具。
 武器は両手を駆使した攻撃が出来るように手甲型のしかも内部の引き金によって鋭利な三本の波形の爪が出る打撃と斬撃を両立させたナックルにした。
 見た目は少し目立つだろうがどちらも魔界の一級品で袴着だけでもこの世界の並の剣ならば刺すことも斬ることも出来ず弾くことが出来るほどだ。

「ミケラよ。まずはその新しい身体に慣れることから始めておけ。とりあえず森中を走り回ってこい。」
「はい!了解しました!」

 我の指示を素直に聞いてミケラは軽く身を屈めれば土煙を上げて姿を消した。
 ケット・シー達にはそう見えただろうが、我には近くの大木に飛び移ってから去っていくのが見えていた。

「さて、今後お前達にも契約のチャンスはあると覚えておけ。しかし今は与えられた仕事をしっかりこなしてくれることを期待している。」

 残されたケット・シー達に言葉をかけて本日の作業を開始させると我はとある場所に向かって飛び立った。 
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