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第五章 激闘!漆黒対影!
ヒトの強さとは。
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「ひっ…!?」
短い悲鳴を漏らしてメビは仰向けに倒れた。
突然倒れた彼女に見ていたイランダが駆け寄る。三度目の呼び掛けと揺さぶりでメビはハッと目を覚ますと大きく咳き込んでから起き上がって自分の身体を見る。
だが空いてるはずの胸に穴がなかったことにメビは困惑する。あの時自分には確かに竜人の可能性がある女性と目が合った気がした。
その直後に胸を鋭いもので射ち抜かれた感覚が今でもしっかり残っているのだ。
心配してくれるイランダに起きたことをメビは尋ねみたが彼女は悲鳴を聞いて振り向いた時には倒れようとしているところだった為に何か飛んできたとかは見ていない。
「本当に大丈夫かいメビ?代わってあげるからちょっと休みな。」
先輩の言葉にメビはすみませんと素直に受け入れて休息することにしたが疑問が払えなかった。
あの時自分は幻術でも受けたのだろうか?
だとしたら部隊の一人が魔力を感じ取って知らせているはずだ。
それにもう自分のせいで居場所が相手に気づかれている可能性ができてしまった。
そう思ったメビは急いで隊長の元に向かった。
***
ーー…いけないいけない、ついやってしまいましたわ。
旦那様に言われてこの世界の本屋と呼ばれる建物から書物を持ってきてほしいと頼まれたから向かったけれどもたくさんあったから適当に集めて袋に入れてしまいました。
でもこの身体になって良かったことがまた増えた。
半世紀前は旦那様やエイムみたいな大きさでないと自分で読めなかった書物が一人で読めるようになったから。
特に今読んでいる恋愛小説というのは素晴らしいものね。
読み進めるとなんだか子どもみたいに次の展開にワクワクさせられてしまうわ。
(はあ…こんな風に旦那様とデートしてみたいものです。)
それはさておき、ヒトの浮かれていたところを覗き見していた悪い子には気の毒なことをしてしまいました。
恥ずかしさを隠す為にと咄嗟に殺気を飛ばしてしまうなんてまだまだこの身体に慣れていない証拠です……
まあ余程心の弱い者でなければ心臓が止まることはないでしょうから大丈夫でしょう。
それにしても書物を城に持ってきてどうしようとするのでしょうか?
あそこにだって元の主の趣味満載の書庫があったと記憶しておりますが。
ともかく旦那様に褒めてもらう為にももう一袋ほど回収してから戻るといたしましょう。
次の寄った本屋は先ほどと違ってほとんど薄い本ばかりで開くと文字より挿し絵が多かった。
多分これが絵本というこの世界の子どもに向けた書物なのだろう。そういえば旦那様はなるべく子どもが読むものをと注文していた。
ということはここにある本は全て回収しておけばお喜びになるかもしれません!
(よし!さっさと回収して帰りましょう!)
そう意気込むと読み途中だった小説は胸の谷間に入れてから早速作業を始める。
龍魔法を駆使して棚から本を集めて重ね、店に置いてあった紐で縛って固定すれば持ち上げて城へと戻ることにした。
中庭が見えてくると旦那様は昨日と同じく捕虜の素性を聴取しておりました。
その作業も終盤に差し掛かっており列は短くなっている。呼び掛けながら旦那様の後ろに着地してみせた私にあの方は振り返っておかえりと返していただいた。
「頼んだものは回収できたか?」
「はい、こちらでよろしいかと。」
持ってきた書物を見せてあげると旦那様は絵本の方に気を向けてこれだこれだと頷いてくれる。小説より絵本の方を選んだことを尋ねてみれば旦那様は単純にここにいる子ども達に与える為だと返してきた。
なんでも子どもが退屈な姿を見ているのは可哀想だという旦那様の慈悲の心故でありさすがと私は感心してしまいました。
「続けて悪いがゾドラ。その絵本を各グループに配ってあげなさい。ついでに子ども達を観察してみなさい。今のお前ならばいい経験になろう。」
「え?あ、承知いたしました。」
次の指示を受け私は返事と一礼をしてからエルフ、ドワーフ、獣人の順番で声をかけて子ども達を集めれば絵本を見せてあげる。
久しぶりだったのか子ども達は瞳を輝かせて絵本を手に取る。多少取り合いも起きたが保護者として同伴していた大人が仲裁してあげたりして騒ぎにはならなかった。
そんな中で私は知った。
「ありがとうお姉ちゃん。」
「絵本をくれてありがとう。」
「お姉さん、ありがとうございます。」
絵本を渡す時に子どもが笑顔になって感謝を伝えてくる度に胸のあたりがほわっと暖かくなる感覚。
半世紀前なら石ころ、いや砂粒程度にしか見えなかった存在から受け取る感謝の気持ちがそうさせていることに私は気づかされた。
そう、これは先ほど読んでいた恋愛小説にも書いてあった母性を感じる時の表現である。
(はっ!…そういうことなのですね旦那様!)
母性とは字の如く子どもの母親が抱くと言われる感情。
すなわちこうして子どもと接することでいずれ母親になる私の教養としてくれるということ。
つまり!旦那様は私を雌として、又生涯のパートナーとして見ているということ!
そこまで考えて私にこの役目をお与えになったとはさすが旦那様!ならば私は旦那様の妻を目指して学ばさせていただきます!
少し興奮して鼻息が漏れてしまいながら私は恋愛小説の主人公を真似て子どもに接してあげることにした。
***
指示したことになんだかウキウキしながら絵本を配っていくゾドラを視界の端に入れつつ我は聴取を続けている。列も最後尾が見えてきたのでこれならお昼に入るか入らないかのあたりで終わることだろう。
「はい、では次の方。」
「俺だ。名はアズベルト。」
ぶっきらぼうに席に着いたのはあの獣人のアズベルトであった。
我に対して横暴な振る舞いに後列から動揺が起きる。こちらに屈しない精神か、はたまた無知故かはわからないが質問は変わらない。
「アズベルト君、出身は?」
「アースデイ国。」
「元の職業はあるか?」
「……戦士。」
考える間があったが得た情報を紙に書いてから終了したので次を呼ぼうとした。
「なあ、あんたは人間の敵か?それともヒトの敵か?」
席を立たずに唐突な質問をしてきたアズベルトに見ていた者はハラハラした表情になる。
こちらとしてはわからないことは聞いてくれた方がいいと思っているので素直に答えてあげた。
「今は人間だけの敵だ。今の世にした勇者に問い詰めてやりたいと常日頃思っている。」
「ならなんですぐ行かないでこんな得にならないことをしてるんだ?」
答えたら次の疑問を出してくるアズベルト。若さ故か種族としてかはわからないがこういうのは感心に値する。
「…旦那様。この愚か者に制裁の許可を。」
でも部下にとってはやはり不敬罪になってしまうようだ。
いつの間にかアズベルトの背後で左手を上げて冷たい視線を向けるゾドラに受けた本人は耳と膨らんだ尻尾をピンと立てて固まってしまう。
やれやれという意味でため息をついてから手を振って許可しないとゾドラに伝えてあげれば彼女は不満そうにだが手を下ろしテーブルを迂回して我の隣に立つ。
「アズベルト君、君は国は何で出来ていると思う?」
両肘をテーブルに着け組んだ手の甲に顎部分を乗せて一つ尋ねてあげた。
確かに彼の言い分は正しい。本来の目的はシャッテンに会いに行く為に今は黒影島と呼ばれる島に行く為の情報収集にオサカの街によっただけに過ぎない。言うなればこの慈善活動もシャッテンまでの過程だ。
街を占拠した時点で後は好きにしなさいと言って去ることだって出来た。
でもそれをしなかったのは我のほっとけない精神のせいだ。
でも口に出したところでアズベルトのような青年達には偽善だと思われるだろう。だからここは魔族として話すことにした。
こちらからの唐突な問いかけにアズベルトは肩を揺らしてから考えて言う。
「やっぱり、王様と大臣じゃねぇの?」
「ふ、それだけか?」
「あ、えと、あとは軍隊とか?」
どうやら深く考えず答えているようなので少しヒントを与えることにした。
「我は君達になんて言ったか忘れたか?」
「…民にしてやる?」
「そうだ。国とは民、つまりヒトなのだ。」
人は石垣、人は城。
前世の残した武将の一文は我の行動方針における柱の一本となっている。
人がいてこそ田畑が生まれ、人がいてこそ道が作られ、人がいてこそ家が建ち、人がいてこそ街が築かれ、国と成す。その過程の中で王や大臣、軍隊が出来るのだと我は常日頃思っている。
「つまり、あんたはいずれ俺達を使って戦争しようって言うのか?」
下を向いて言うアズベルトの問いに我が黙っていると彼は震わせた拳をテーブルに叩きつけて言った。
「ふざけるな!結局俺達を道具として扱うってことだろう!だったらお前も人間や勇者と変わらない最低最悪の奴だ!」
感情を剥き出しにして怒鳴ったアズベルトに周りの者達は大きく動揺する。我に対して暴言を吐いてみせるなんて彼自身の問題ではなくなったと考えているかもしれないからだろう。
中には腰を抜かしてしまった者もいるがそれはきっと我のせいではない。
こちらの制止がなければ今すぐにでもアズベルトの首を飛ばしていただろうゾドラの脅威的な殺気のせいだ。
せっかく昨日から頑張って堅苦しい空気を和らげようと努力してきたつもりだったが、これがいわゆる若さ故の過ちというやつなのか。
「アズベルト君、これは何故我が君達を助けたのかという問いかけではなかったのかな?」
とりあえず彼を落ち着かせる為に話題を最初に戻すことにしてから続けて話してあげた。
「別に君達を兵士にするつもりなど全く考えていない。今の時代なら国一つ攻めるくらい何の苦労も人手もなく我と優秀な彼女だけでも終わらせられる。」
そう言ってあげるとゾドラから殺気が消えてウキウキしているのが伝わってきた。
本当に今の姿になってから感情表現がわかりやすくて助かるしこちらも安心する。
「っ!…俺達は弱いってことかよ。」
「そうだ。半世紀の間にお前達は弱くなった。それで向こうは調子に乗って好き放題している。違うか?」
今の言葉でアズベルトだけで聞いていた者も悔しげに俯くのが視界に入っていた。
彼らにも自覚があるという証拠だろう。
人間というのは本当に傲慢が強い。魔王軍という世界の敵がいなくなった途端に土地や富を求めて自ら敵を作って戦をしてみせるのだから。
前世のように厳しくて共通の法律がないこの世界では抗う力を弱めればすぐに人間は付け入り私利私欲を振るう。
技術や欲を手に入れればもっと上をと思う気持ちはエルフやドワーフ、獣人より人間の方がダントツで強いのもある。
「まあ、だからこそお前達の信仰する神が呼んだのかもしれないぞ。我という〔世界の敵〕を。」
そう告げると我は席を立って身長差からアズベルトを見下ろしながら続けて言った。
「君はこの行為を得にならないと言った。当然だ。我は損得を考えていないからだ。それは弱者を支えることに善意や悪意は二の次なのだと我は考えている。」
魔界にいた頃だってそうだった。
弱肉強食の戦国時代のあの場所でケットシーやホブゴブリン等の低級に入る種族を周りは駒や物としか見ていなかった。
だがその者達にも心があり、命があり、生きているのだ。
健気に働こうとする者達を使い捨てにするなんて我には出来なかった。
上に立つ者となった時からその者らに見合う仕事を与えることから始めた。
力はなく小柄で素早い者には偵察を、力は強くても鈍足な者には強固な盾を与え攻撃を防がせるだけでなく威圧感で敵の士気を下げさせる。
短所を長所に変えるなんてよく言うがそれは少し違う。
短所は小さく長所を大きくすることが我のやり方である。
周りはそんなことに時間を掛けるなど無駄だと言ってきたが国を攻めた時の損害は我が率いる軍がいつも最小限だった。
故に部下から信頼され魔王軍として貢献してきたのだ。
自分にとって損か得かではない。下の者達が生き残ることが第一なのだ。
死んだら何も残らない、だが生き残ればそれが〈経験〉となって次に活かせる。
そしてアズベルトを含む今ここにいる者達にも我は適応させるつもりだ。
「君達が故郷に帰るならそれでいい。生き残れば次に繋げられる。もっとも、君達が人間と戦う意思がもうないならばせいぜい我に文句を言わず邪魔もせず静かに暮らしていることだ。」
この煽り文句でアズベルトは本当に悔しそうな表情になる。きっと嫌というほど辛酸を味わってきたからだろう。
彼だけで他の者も見れば後悔、苦悶、無力感の色が見えた。
悔しいと思えるということは良いことだ。
本当に敵と戦う気力もない者はそんな顔をしない。
負けた後の強さとはそうやって得るものなのだ。
「…今の世で知ってるのはエルフくらいかもしれないが、我に勇者は四度挑んできた。四度もだ。内二度は我が完勝だった。三度目で勇者は初めて我に傷つけてみせた。そして四度目で我に勝ってみせたのだ。」
唐突に語り出したことにアズベルトはそれがなんだと返してきたが我は続けた。
「あいつはな、ずっと一人で戦ってきたわけではない。魔王を倒す為に勇者となったわけではない。ただ聖女を助けたかっただけなのだ。」
始めはただ大きくなったら冒険者になって世界を見てみたいと語る青年だった。
それが我と出会い、目の前で大切な人を拐われて海に落とされた青年は古びた聖剣を手にし友人の戦士ヴァンクと聖女を助ける旅を始めた。
幾多もの出会いと死別、後悔と反省、そして決意を経験する中で勇者は仲間と共に成長していったのだ。
「そんな彼の強さは何だろうと思った。そして三度目に戦った時に理解したのだ。勇者の言動から導き出された強さの理由は諦めが悪いことだった。」
三度目の戦いで仲間は倒れ、一人錆びた聖剣を振るって挑んできた勇者。怒り任せの攻撃は我に届かず十回くらい弾き飛ばしてやった。
地面を転がり建物の壁に叩きつけられボロボロになろうとも勇者は立ち上がり挑み続けた。
あの時はさすがにこいつ本当に人間か?なんてちょっと恐怖感があったのを覚えている。
だからうっかり我は素直に負けを認めて諦めたらどうだと言ってやった。
そしたら聖剣を支えに覚束ない足で立ち上がりながら勇者は言った。
『僕は、僕は諦めない!皆の言葉で僕は気づかされたんだ!僕は世界の前に、彼女を護れる男になると!一人の女性の笑顔も護れない奴になんて勇者を語る資格はないんだって!』
息切れを起こしながらも言い切ってみせた勇者の気迫には鬼気迫るものを感じた。
まさにその瞬間、聖剣はまとわりついていた錆びを吹き飛ばして輝きを放ったのだ。
怒りや復讐という邪念が失くなりヒトを、愛する者を護るという一心が聖剣本来の力を目覚めさせた瞬間だった。
直後に放たれた聖剣の一撃は我の障壁を破ってきた為に咄嗟に左へ回避を試みたが不覚にも間に合わず右腕部と召喚したアンデッド軍を失う結果になった。
別に予備のパーツがあるので手痛い損失ではないのだがその時は足止めのアンデッドだけの単機できたのと討ち取られるかもという不安要素を考慮して退くことにしたのである。
「ふ、少々思い出話が長くなってしまったが、我がお前達に今何を伝えたいかわかるか?」
我はアズベルト含めて聞いていた者達に問いかけてみた。
皆どの言葉が最良なのかと悩んでしまう中で我は意見が出るまで待ち続けた。
「つまり私達ヒトの強さは〔心の強さ〕であるということでしょうか?」
城側から出た意見にゾドラと一緒に振り返ればあのサリサムがいた。
手には筒状に丸められた布がありそれを見て我は出来たのだなと思いつつ頷いて語る。
「そうだ。ヒトの強さはどんな敵にも抗おうとする心の強さにある。我が敗れた時も、聖属性を持たない、聖剣に選ばれたわけでもない勇者の仲間達の力が合わさり絶大な力となってみせた。」
ここまで語ってあげればいい加減理解してきた者もいるだろうと信じたい。
今の君達には人間に抗う心力はもう残っていないのかと。
我という盾を得て止めてしまった足を今一度前に踏み出す気はないのかと。
「ですが大魔将軍様。人間はあなたが復活なさる半世紀の間に力を得てきました。我々と対等に、いやそれ以上に戦えるほどに。」
そこへ聞いていたサリサムが意見する。
人間は捕まえたエルフやフェアリーを利用して魔法の技術を高め、ドワーフや獣人族を前線に立たせて盾扱いにする。これに【簡易魔法装備】が開発されたことでより戦いを有利させてきた。
唱えて放つエルフの魔法が唱える必要なく放たれること。
ドワーフの技術で堅牢なものを作ってもただ魔力があれば誰でも使える為に数の暴力で破られたこと。
それは当時の二種族にとって衝撃的な話だっただろう。
例え一回勝利しようともその後何倍にもなって敗北を味わされる現実が戦う意思を削がれ逃げるか隠れて暮らすしかないという気持ちにさせられたのかもしれない。
「大魔将軍様。あなたの中には人間をどうしたいと思っているのかお聞かせ願えますでしょうか?この若者も、ここにいる皆もあなたの本心を聞きたいのです。」
サリサムの提案に我は腕を組んで軽く空を見上げる。
人間をどうしたいかなんて今は亡き魔王軍幹部達が聞いたら絶対に家畜兼食料と断言するだろう。
だが昔の我ならきっと利用価値のある存在とか言って茶化していたかもしれない。
しかし、ここまでで知った人間の愚行の数々は前世故の慈悲や愛着というものを大いに失くす結果となった。
それこそ以前語った城ごと王族を消し飛ばした時の気分が常にあるようだ。
「人間は傲慢に堕ちた。ならば我にとって民にも家畜にも値しないものだ。いっそのこと、珍種にしていいかもしれない。」
「ち、珍種…?」
「ふ、見つけるのが難しいほどにという意味だ。」
回りくどく説いた意味を理解した者は表情を青ざめた。
大魔将軍がその気になればこの世界に生きるヒトの種族割合がガラリと変わってしまうかもしれないと思ったからだろう。
「さて、少し話が長くなってしまったな。休憩を入れてから再開するので一旦解散してくれたまえ。」
聴取の中断を伝えるとアズベルトは席を立って逃げるようにその場から去ってしまった。
彼の後ろ姿と解散する人々を見送ってからゾドラを連れてサリサムに改めて話しかける。
「それが完成品か?」
「はい、後は向こうに見えるように高い場所で使えればいいのですが。」
サリサムの意見に確かにと思った。
ここから向こうとは距離も高低差もあるのではっきり見せるのであれば城を囲む城壁まで上がった方が良いかもしれない。
「ただ、これは少し小さくないか?」
「え?一応広ければ自分の倍はあるほどですが…?」
なんだそれくらいしかないのか?
我は遠慮なく素材を使っていいと言ったのだから絨毯でも無駄に長い敷物でも使えばもっと大きく出来たであろう。
仕方ない、久しぶりに指を動かすとしよう。
「もっと大きくして数も増やそう。サリサムよ、ヒトを使って城にある布地を持ってこい。それと針と糸もだ。」
「え?ここで作業させるのですか?」
「そうだ。さらに作業グループを三つに分ける。その一つには……」
我の指示を聞いてサリサムは手にある布を落としかけるほど驚いてしまった。
彼の様子を見てきっと今も監視しているだろう向こうの連中も同じ反応をしてくれるだろうと我は期待した。
短い悲鳴を漏らしてメビは仰向けに倒れた。
突然倒れた彼女に見ていたイランダが駆け寄る。三度目の呼び掛けと揺さぶりでメビはハッと目を覚ますと大きく咳き込んでから起き上がって自分の身体を見る。
だが空いてるはずの胸に穴がなかったことにメビは困惑する。あの時自分には確かに竜人の可能性がある女性と目が合った気がした。
その直後に胸を鋭いもので射ち抜かれた感覚が今でもしっかり残っているのだ。
心配してくれるイランダに起きたことをメビは尋ねみたが彼女は悲鳴を聞いて振り向いた時には倒れようとしているところだった為に何か飛んできたとかは見ていない。
「本当に大丈夫かいメビ?代わってあげるからちょっと休みな。」
先輩の言葉にメビはすみませんと素直に受け入れて休息することにしたが疑問が払えなかった。
あの時自分は幻術でも受けたのだろうか?
だとしたら部隊の一人が魔力を感じ取って知らせているはずだ。
それにもう自分のせいで居場所が相手に気づかれている可能性ができてしまった。
そう思ったメビは急いで隊長の元に向かった。
***
ーー…いけないいけない、ついやってしまいましたわ。
旦那様に言われてこの世界の本屋と呼ばれる建物から書物を持ってきてほしいと頼まれたから向かったけれどもたくさんあったから適当に集めて袋に入れてしまいました。
でもこの身体になって良かったことがまた増えた。
半世紀前は旦那様やエイムみたいな大きさでないと自分で読めなかった書物が一人で読めるようになったから。
特に今読んでいる恋愛小説というのは素晴らしいものね。
読み進めるとなんだか子どもみたいに次の展開にワクワクさせられてしまうわ。
(はあ…こんな風に旦那様とデートしてみたいものです。)
それはさておき、ヒトの浮かれていたところを覗き見していた悪い子には気の毒なことをしてしまいました。
恥ずかしさを隠す為にと咄嗟に殺気を飛ばしてしまうなんてまだまだこの身体に慣れていない証拠です……
まあ余程心の弱い者でなければ心臓が止まることはないでしょうから大丈夫でしょう。
それにしても書物を城に持ってきてどうしようとするのでしょうか?
あそこにだって元の主の趣味満載の書庫があったと記憶しておりますが。
ともかく旦那様に褒めてもらう為にももう一袋ほど回収してから戻るといたしましょう。
次の寄った本屋は先ほどと違ってほとんど薄い本ばかりで開くと文字より挿し絵が多かった。
多分これが絵本というこの世界の子どもに向けた書物なのだろう。そういえば旦那様はなるべく子どもが読むものをと注文していた。
ということはここにある本は全て回収しておけばお喜びになるかもしれません!
(よし!さっさと回収して帰りましょう!)
そう意気込むと読み途中だった小説は胸の谷間に入れてから早速作業を始める。
龍魔法を駆使して棚から本を集めて重ね、店に置いてあった紐で縛って固定すれば持ち上げて城へと戻ることにした。
中庭が見えてくると旦那様は昨日と同じく捕虜の素性を聴取しておりました。
その作業も終盤に差し掛かっており列は短くなっている。呼び掛けながら旦那様の後ろに着地してみせた私にあの方は振り返っておかえりと返していただいた。
「頼んだものは回収できたか?」
「はい、こちらでよろしいかと。」
持ってきた書物を見せてあげると旦那様は絵本の方に気を向けてこれだこれだと頷いてくれる。小説より絵本の方を選んだことを尋ねてみれば旦那様は単純にここにいる子ども達に与える為だと返してきた。
なんでも子どもが退屈な姿を見ているのは可哀想だという旦那様の慈悲の心故でありさすがと私は感心してしまいました。
「続けて悪いがゾドラ。その絵本を各グループに配ってあげなさい。ついでに子ども達を観察してみなさい。今のお前ならばいい経験になろう。」
「え?あ、承知いたしました。」
次の指示を受け私は返事と一礼をしてからエルフ、ドワーフ、獣人の順番で声をかけて子ども達を集めれば絵本を見せてあげる。
久しぶりだったのか子ども達は瞳を輝かせて絵本を手に取る。多少取り合いも起きたが保護者として同伴していた大人が仲裁してあげたりして騒ぎにはならなかった。
そんな中で私は知った。
「ありがとうお姉ちゃん。」
「絵本をくれてありがとう。」
「お姉さん、ありがとうございます。」
絵本を渡す時に子どもが笑顔になって感謝を伝えてくる度に胸のあたりがほわっと暖かくなる感覚。
半世紀前なら石ころ、いや砂粒程度にしか見えなかった存在から受け取る感謝の気持ちがそうさせていることに私は気づかされた。
そう、これは先ほど読んでいた恋愛小説にも書いてあった母性を感じる時の表現である。
(はっ!…そういうことなのですね旦那様!)
母性とは字の如く子どもの母親が抱くと言われる感情。
すなわちこうして子どもと接することでいずれ母親になる私の教養としてくれるということ。
つまり!旦那様は私を雌として、又生涯のパートナーとして見ているということ!
そこまで考えて私にこの役目をお与えになったとはさすが旦那様!ならば私は旦那様の妻を目指して学ばさせていただきます!
少し興奮して鼻息が漏れてしまいながら私は恋愛小説の主人公を真似て子どもに接してあげることにした。
***
指示したことになんだかウキウキしながら絵本を配っていくゾドラを視界の端に入れつつ我は聴取を続けている。列も最後尾が見えてきたのでこれならお昼に入るか入らないかのあたりで終わることだろう。
「はい、では次の方。」
「俺だ。名はアズベルト。」
ぶっきらぼうに席に着いたのはあの獣人のアズベルトであった。
我に対して横暴な振る舞いに後列から動揺が起きる。こちらに屈しない精神か、はたまた無知故かはわからないが質問は変わらない。
「アズベルト君、出身は?」
「アースデイ国。」
「元の職業はあるか?」
「……戦士。」
考える間があったが得た情報を紙に書いてから終了したので次を呼ぼうとした。
「なあ、あんたは人間の敵か?それともヒトの敵か?」
席を立たずに唐突な質問をしてきたアズベルトに見ていた者はハラハラした表情になる。
こちらとしてはわからないことは聞いてくれた方がいいと思っているので素直に答えてあげた。
「今は人間だけの敵だ。今の世にした勇者に問い詰めてやりたいと常日頃思っている。」
「ならなんですぐ行かないでこんな得にならないことをしてるんだ?」
答えたら次の疑問を出してくるアズベルト。若さ故か種族としてかはわからないがこういうのは感心に値する。
「…旦那様。この愚か者に制裁の許可を。」
でも部下にとってはやはり不敬罪になってしまうようだ。
いつの間にかアズベルトの背後で左手を上げて冷たい視線を向けるゾドラに受けた本人は耳と膨らんだ尻尾をピンと立てて固まってしまう。
やれやれという意味でため息をついてから手を振って許可しないとゾドラに伝えてあげれば彼女は不満そうにだが手を下ろしテーブルを迂回して我の隣に立つ。
「アズベルト君、君は国は何で出来ていると思う?」
両肘をテーブルに着け組んだ手の甲に顎部分を乗せて一つ尋ねてあげた。
確かに彼の言い分は正しい。本来の目的はシャッテンに会いに行く為に今は黒影島と呼ばれる島に行く為の情報収集にオサカの街によっただけに過ぎない。言うなればこの慈善活動もシャッテンまでの過程だ。
街を占拠した時点で後は好きにしなさいと言って去ることだって出来た。
でもそれをしなかったのは我のほっとけない精神のせいだ。
でも口に出したところでアズベルトのような青年達には偽善だと思われるだろう。だからここは魔族として話すことにした。
こちらからの唐突な問いかけにアズベルトは肩を揺らしてから考えて言う。
「やっぱり、王様と大臣じゃねぇの?」
「ふ、それだけか?」
「あ、えと、あとは軍隊とか?」
どうやら深く考えず答えているようなので少しヒントを与えることにした。
「我は君達になんて言ったか忘れたか?」
「…民にしてやる?」
「そうだ。国とは民、つまりヒトなのだ。」
人は石垣、人は城。
前世の残した武将の一文は我の行動方針における柱の一本となっている。
人がいてこそ田畑が生まれ、人がいてこそ道が作られ、人がいてこそ家が建ち、人がいてこそ街が築かれ、国と成す。その過程の中で王や大臣、軍隊が出来るのだと我は常日頃思っている。
「つまり、あんたはいずれ俺達を使って戦争しようって言うのか?」
下を向いて言うアズベルトの問いに我が黙っていると彼は震わせた拳をテーブルに叩きつけて言った。
「ふざけるな!結局俺達を道具として扱うってことだろう!だったらお前も人間や勇者と変わらない最低最悪の奴だ!」
感情を剥き出しにして怒鳴ったアズベルトに周りの者達は大きく動揺する。我に対して暴言を吐いてみせるなんて彼自身の問題ではなくなったと考えているかもしれないからだろう。
中には腰を抜かしてしまった者もいるがそれはきっと我のせいではない。
こちらの制止がなければ今すぐにでもアズベルトの首を飛ばしていただろうゾドラの脅威的な殺気のせいだ。
せっかく昨日から頑張って堅苦しい空気を和らげようと努力してきたつもりだったが、これがいわゆる若さ故の過ちというやつなのか。
「アズベルト君、これは何故我が君達を助けたのかという問いかけではなかったのかな?」
とりあえず彼を落ち着かせる為に話題を最初に戻すことにしてから続けて話してあげた。
「別に君達を兵士にするつもりなど全く考えていない。今の時代なら国一つ攻めるくらい何の苦労も人手もなく我と優秀な彼女だけでも終わらせられる。」
そう言ってあげるとゾドラから殺気が消えてウキウキしているのが伝わってきた。
本当に今の姿になってから感情表現がわかりやすくて助かるしこちらも安心する。
「っ!…俺達は弱いってことかよ。」
「そうだ。半世紀の間にお前達は弱くなった。それで向こうは調子に乗って好き放題している。違うか?」
今の言葉でアズベルトだけで聞いていた者も悔しげに俯くのが視界に入っていた。
彼らにも自覚があるという証拠だろう。
人間というのは本当に傲慢が強い。魔王軍という世界の敵がいなくなった途端に土地や富を求めて自ら敵を作って戦をしてみせるのだから。
前世のように厳しくて共通の法律がないこの世界では抗う力を弱めればすぐに人間は付け入り私利私欲を振るう。
技術や欲を手に入れればもっと上をと思う気持ちはエルフやドワーフ、獣人より人間の方がダントツで強いのもある。
「まあ、だからこそお前達の信仰する神が呼んだのかもしれないぞ。我という〔世界の敵〕を。」
そう告げると我は席を立って身長差からアズベルトを見下ろしながら続けて言った。
「君はこの行為を得にならないと言った。当然だ。我は損得を考えていないからだ。それは弱者を支えることに善意や悪意は二の次なのだと我は考えている。」
魔界にいた頃だってそうだった。
弱肉強食の戦国時代のあの場所でケットシーやホブゴブリン等の低級に入る種族を周りは駒や物としか見ていなかった。
だがその者達にも心があり、命があり、生きているのだ。
健気に働こうとする者達を使い捨てにするなんて我には出来なかった。
上に立つ者となった時からその者らに見合う仕事を与えることから始めた。
力はなく小柄で素早い者には偵察を、力は強くても鈍足な者には強固な盾を与え攻撃を防がせるだけでなく威圧感で敵の士気を下げさせる。
短所を長所に変えるなんてよく言うがそれは少し違う。
短所は小さく長所を大きくすることが我のやり方である。
周りはそんなことに時間を掛けるなど無駄だと言ってきたが国を攻めた時の損害は我が率いる軍がいつも最小限だった。
故に部下から信頼され魔王軍として貢献してきたのだ。
自分にとって損か得かではない。下の者達が生き残ることが第一なのだ。
死んだら何も残らない、だが生き残ればそれが〈経験〉となって次に活かせる。
そしてアズベルトを含む今ここにいる者達にも我は適応させるつもりだ。
「君達が故郷に帰るならそれでいい。生き残れば次に繋げられる。もっとも、君達が人間と戦う意思がもうないならばせいぜい我に文句を言わず邪魔もせず静かに暮らしていることだ。」
この煽り文句でアズベルトは本当に悔しそうな表情になる。きっと嫌というほど辛酸を味わってきたからだろう。
彼だけで他の者も見れば後悔、苦悶、無力感の色が見えた。
悔しいと思えるということは良いことだ。
本当に敵と戦う気力もない者はそんな顔をしない。
負けた後の強さとはそうやって得るものなのだ。
「…今の世で知ってるのはエルフくらいかもしれないが、我に勇者は四度挑んできた。四度もだ。内二度は我が完勝だった。三度目で勇者は初めて我に傷つけてみせた。そして四度目で我に勝ってみせたのだ。」
唐突に語り出したことにアズベルトはそれがなんだと返してきたが我は続けた。
「あいつはな、ずっと一人で戦ってきたわけではない。魔王を倒す為に勇者となったわけではない。ただ聖女を助けたかっただけなのだ。」
始めはただ大きくなったら冒険者になって世界を見てみたいと語る青年だった。
それが我と出会い、目の前で大切な人を拐われて海に落とされた青年は古びた聖剣を手にし友人の戦士ヴァンクと聖女を助ける旅を始めた。
幾多もの出会いと死別、後悔と反省、そして決意を経験する中で勇者は仲間と共に成長していったのだ。
「そんな彼の強さは何だろうと思った。そして三度目に戦った時に理解したのだ。勇者の言動から導き出された強さの理由は諦めが悪いことだった。」
三度目の戦いで仲間は倒れ、一人錆びた聖剣を振るって挑んできた勇者。怒り任せの攻撃は我に届かず十回くらい弾き飛ばしてやった。
地面を転がり建物の壁に叩きつけられボロボロになろうとも勇者は立ち上がり挑み続けた。
あの時はさすがにこいつ本当に人間か?なんてちょっと恐怖感があったのを覚えている。
だからうっかり我は素直に負けを認めて諦めたらどうだと言ってやった。
そしたら聖剣を支えに覚束ない足で立ち上がりながら勇者は言った。
『僕は、僕は諦めない!皆の言葉で僕は気づかされたんだ!僕は世界の前に、彼女を護れる男になると!一人の女性の笑顔も護れない奴になんて勇者を語る資格はないんだって!』
息切れを起こしながらも言い切ってみせた勇者の気迫には鬼気迫るものを感じた。
まさにその瞬間、聖剣はまとわりついていた錆びを吹き飛ばして輝きを放ったのだ。
怒りや復讐という邪念が失くなりヒトを、愛する者を護るという一心が聖剣本来の力を目覚めさせた瞬間だった。
直後に放たれた聖剣の一撃は我の障壁を破ってきた為に咄嗟に左へ回避を試みたが不覚にも間に合わず右腕部と召喚したアンデッド軍を失う結果になった。
別に予備のパーツがあるので手痛い損失ではないのだがその時は足止めのアンデッドだけの単機できたのと討ち取られるかもという不安要素を考慮して退くことにしたのである。
「ふ、少々思い出話が長くなってしまったが、我がお前達に今何を伝えたいかわかるか?」
我はアズベルト含めて聞いていた者達に問いかけてみた。
皆どの言葉が最良なのかと悩んでしまう中で我は意見が出るまで待ち続けた。
「つまり私達ヒトの強さは〔心の強さ〕であるということでしょうか?」
城側から出た意見にゾドラと一緒に振り返ればあのサリサムがいた。
手には筒状に丸められた布がありそれを見て我は出来たのだなと思いつつ頷いて語る。
「そうだ。ヒトの強さはどんな敵にも抗おうとする心の強さにある。我が敗れた時も、聖属性を持たない、聖剣に選ばれたわけでもない勇者の仲間達の力が合わさり絶大な力となってみせた。」
ここまで語ってあげればいい加減理解してきた者もいるだろうと信じたい。
今の君達には人間に抗う心力はもう残っていないのかと。
我という盾を得て止めてしまった足を今一度前に踏み出す気はないのかと。
「ですが大魔将軍様。人間はあなたが復活なさる半世紀の間に力を得てきました。我々と対等に、いやそれ以上に戦えるほどに。」
そこへ聞いていたサリサムが意見する。
人間は捕まえたエルフやフェアリーを利用して魔法の技術を高め、ドワーフや獣人族を前線に立たせて盾扱いにする。これに【簡易魔法装備】が開発されたことでより戦いを有利させてきた。
唱えて放つエルフの魔法が唱える必要なく放たれること。
ドワーフの技術で堅牢なものを作ってもただ魔力があれば誰でも使える為に数の暴力で破られたこと。
それは当時の二種族にとって衝撃的な話だっただろう。
例え一回勝利しようともその後何倍にもなって敗北を味わされる現実が戦う意思を削がれ逃げるか隠れて暮らすしかないという気持ちにさせられたのかもしれない。
「大魔将軍様。あなたの中には人間をどうしたいと思っているのかお聞かせ願えますでしょうか?この若者も、ここにいる皆もあなたの本心を聞きたいのです。」
サリサムの提案に我は腕を組んで軽く空を見上げる。
人間をどうしたいかなんて今は亡き魔王軍幹部達が聞いたら絶対に家畜兼食料と断言するだろう。
だが昔の我ならきっと利用価値のある存在とか言って茶化していたかもしれない。
しかし、ここまでで知った人間の愚行の数々は前世故の慈悲や愛着というものを大いに失くす結果となった。
それこそ以前語った城ごと王族を消し飛ばした時の気分が常にあるようだ。
「人間は傲慢に堕ちた。ならば我にとって民にも家畜にも値しないものだ。いっそのこと、珍種にしていいかもしれない。」
「ち、珍種…?」
「ふ、見つけるのが難しいほどにという意味だ。」
回りくどく説いた意味を理解した者は表情を青ざめた。
大魔将軍がその気になればこの世界に生きるヒトの種族割合がガラリと変わってしまうかもしれないと思ったからだろう。
「さて、少し話が長くなってしまったな。休憩を入れてから再開するので一旦解散してくれたまえ。」
聴取の中断を伝えるとアズベルトは席を立って逃げるようにその場から去ってしまった。
彼の後ろ姿と解散する人々を見送ってからゾドラを連れてサリサムに改めて話しかける。
「それが完成品か?」
「はい、後は向こうに見えるように高い場所で使えればいいのですが。」
サリサムの意見に確かにと思った。
ここから向こうとは距離も高低差もあるのではっきり見せるのであれば城を囲む城壁まで上がった方が良いかもしれない。
「ただ、これは少し小さくないか?」
「え?一応広ければ自分の倍はあるほどですが…?」
なんだそれくらいしかないのか?
我は遠慮なく素材を使っていいと言ったのだから絨毯でも無駄に長い敷物でも使えばもっと大きく出来たであろう。
仕方ない、久しぶりに指を動かすとしよう。
「もっと大きくして数も増やそう。サリサムよ、ヒトを使って城にある布地を持ってこい。それと針と糸もだ。」
「え?ここで作業させるのですか?」
「そうだ。さらに作業グループを三つに分ける。その一つには……」
我の指示を聞いてサリサムは手にある布を落としかけるほど驚いてしまった。
彼の様子を見てきっと今も監視しているだろう向こうの連中も同じ反応をしてくれるだろうと我は期待した。
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