漆黒の大魔将軍は勇者に倒されたはずでした!?

武家桜鷹丸

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第五章 激闘!漆黒対影!

誰にだってあることだと思っています。

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 メビの報告でセプトはうつ伏せの態勢になって監視を続けていた。
 相手にこちらの居場所が気づかれてしまった可能性があるのならばうかつ接近することが難しくなった。
 特に竜人の女性には要警戒が必要だと理解した。
 メビの話から出た胸を射ぬかれた幻覚を受けたというのにセプトは聞き覚えがあった。
 圧倒的実力差がある場合にのみ起きると言われている死をイメージさせる殺気。
 おそらくメビが体験したのはそれだとセプトは判断した。
 つまりあの竜人はいつだってこちらを潰せる実力者であると言う事実に他ならないからだ。

「どうするんだい隊長?このまま撤退することも視野に入れるべきじゃないかい?」

 イランダの意見にセプトは望遠鏡を下ろして考える。
 自分達の存在がバレてしまった以上、いつ目の前に現れてもおかしくない。
 相手はかの大魔将軍と竜人の二人しかいないが勝機は皆無だろう。
 現在大魔将軍は昨日と同じで面談をし竜人の女性は子どもに本を配っていてこちらへの注意が弱くなっている為、今なら撤退しても追いかけてはこないだろう。
 あの面談している男が本物の大魔将軍ならば尚更だ。
 半世紀前もかの魔族は敗走を追撃する真似はあまりしなかった。

「…うわ、なんか雰囲気悪くなってません?」

 セプトが思考に気を取られていた間に見ていたラッダが言う。改めてセプトが見れば面談の相手が椅子から立ち上がっており、列にいた何人かが腰を抜かしていたのが確認出来た。
 どうやら大魔将軍相手に不敬を買ったのかもしれない。現にいつの間にか竜人の女性は大魔将軍の隣で身体から魔力の揺らぎを出していた。
 一触即発かと思いきや大魔将軍は席から立って手を使いながら話す様子を見せて場の空気を落ち着かせてみせる。その時に何かを持ちながらサリサムが姿を見せ面談を中断したのか行列は解散した。
 あの場で大魔将軍か竜人が彼に手を出さなかったのはだった。
 その上大魔将軍はサリサムと話し合い彼を驚かせてから城へと走らせると次はドワーフのグループに向かった。
 やってきた相手にドワーフ達は先の騒動から頭を下げて礼儀を見せる中で大魔将軍は指示したのか数人を前に出してからまた城に向かわせた。
 メビの話を踏まえるならばもしかしてこちらに見えないようにして何か作業させようとしているのではとセプトは考える。
 それがもし兵器開発ならばこちらにも危険が及ぶ可能性が出てきた。

(…やむを得ないか。相手が悪すぎる。)

 任務遂行か隊員の生存かを天秤に掛けることすら難しいほどの相手にセプトは撤退と応援要請を視野に入れもうしばらく様子を見ることにした。
 その保留の判断が後になって自分も運が良かったとセプトは思うことになった。
 


「ーー…よろしかったのですか旦那様?」
「何がだ?」

 城に行かせたドワーフを見送っていればゾドラから言葉を掛けられる。聞けばアズベルトについて処罰しなくてよかったのかというものだった。

「ふ、我々の十分じゅうぶんの一にも満たない者達の意見に目くじらを立てるのは時間の無駄なだけだ。」

 若気の過ちは最初大目に見てあげるべきだというのを一応支配者としての言葉に置き換えて返してから我はサリサム達が戻ってくるのを待った。
 少しして多少息を切らせながらサリサム達が布と手提げの篭を持って戻ってきた。

「お待たせしました大魔将軍様。ご要望通り布と裁縫道具です。」

「うむ、では各々指示通りに分かれて作業せよ。サリサムのグループは向こうで緑を、ドワーフのグループは向こうで赤を、残りの青は我がやる。」

 グループ分けと指示を伝えてからドワーフ達の持っていた青い布地と裁縫道具一式を受け取ればゾドラを連れて面談に使っていたテーブルに移動する。

「よいかゾドラよ。ここからは共同作業だ。」
「っ!?き、共同作業ですか!旦那様と!?」
「う、うむ、お前にとっては初めての作業になるだろうから最初は手取り足取り教えていく。しっかり学ぶように。」

 テーブルの上に布を広げながら我が伝えるとゾドラは尻尾を犬みたいに揺らしながら迫るように聞いてきたので優しく作業手順を話してあげた。
 昔エイムにもこれを教えてあげたのだがそれをまさかあの巨大だったゾドラにもする日がこようとはなんだか時の流れを感じる気分である。

「ちゃんと見ておくのだぞ?これはとても繊細な作業なのだからな。」

 我が行う作業を見ていた者達はそんなまさかと思う。
 指が太いので魔法を使って針穴に糸を通し先に玉を作れば我は左手で布を、右手に針を持ちチクチクと裁縫を始めた。
 見ていた周りはぎょっとした顔で固まる中で我は機械的な動きで縫い糸で横線を並べた直線を作ってみせた。
 前世の独り暮らし時代に培ったこの技能は魔界でも役立った。
 寒そうに寝ているケット・シー達を見て我は狩った獲物の素材を使って敷物や掛け布団、ベストを作ってあげたことがあった。

「ゾドラよ。こんな感じで反対側から我に向かって縫ってもらいたい。魔法を使っても構わん。一緒に作業していこう。」
「旦那様と、一緒に…!」

 そして手先の器用な者にはこうして裁縫を教えてあげたりもした。
 おかげで物珍しいことを好むタイプの魔族には友好の証などに贈り物として利用できた。
 そういえば教えてあげた一人であるメディアなんか応用して我のマントのデザインをいくつか作ってくれたこともあったな。
 少し派手なのもあって遠慮したことが懐かしい。

「旦那様自ら地道にやっておられるのに魔法に頼りたくありません!是非とも隣で作業させて下さいませ!」

 魔法を使っていいと言ったのだがゾドラが手作業を望んできたのでそれでいいならと椅子を持ってこさせ隣で教えてあげることにした。
 ここにエイムがいれば分身を使って時間の短縮も可能だろうがそれは高望みというものだろう。
 簡単に説明してあげるとさすがは学習力の高い龍なのかゾドラはすぐに針に糸を通し我の真似で縫ってみせた。
 それを褒めてあげると彼女の作業スピードが増していくのを横目に我も地道に縫っていく。
 青い布に斜めに直線を三本、内真ん中を長く左右を太めにしたのを縫い目で作ってみせる。
 まるで引っ掻き傷のような形の線を縫ってみせるとゾドラが聞いてきた。

「ところで旦那様。これで完成なのでしょうか?」
「いいや、これは片割れとでも言うべきだな。今サリサムとドワーフの方でも残りを製作してくれている。我々が少々速すぎたようだが。」

 何せこちらは機械的な動きでスピードを上げ前世の電動ミシンに負けない作業効率で作ってみせたからだ。
 なのでここからはゾドラにドワーフ達の方を、我はサリサム達の方を手伝ってあげる為に向かった。

「作業は順調かサリサム?」
「こ、これは大魔将軍様…!」

 手先の器用な女性エルフと細身の男性が緑色の布を囲んで針を通していた。
 我がやってきて作業が止まってしまうも手を貸しにきたと伝えれば恐縮ですとサリサムが了承の言葉を返してくれたおかげで作業が再開される。

「どこか未完のところはあるか?」
「でしたら、弓の部分をお願いいたします。」

 サリサムのお願いに我は二つ返事で了解すれば胡座をかいて作業を始めた。
 我が針を動かし布に糸を通す姿に女性エルフが意外という顔をうっかり見せるのについ笑みを溢してしまう。

「予想外であろうな。これでも我が故郷に裁縫は存在していたのだぞ。」
「はあ、しかしまさか大魔将軍様も嗜んでおられるとは誰も思っていなかったでしょう。」
「ふふふ、どんな強者であろうとも必ずあるものだろう?というものがな。」

 我がそう言ってやるもサリサムはあなたにも?という感じの苦笑いを浮かべるだけで終わる。
 ともかく言われた通りに弓の図を青い布地に作ってみせた。
 見えやすくする為に少し大きめに作ってみたせいで他の矢と葉っぱの図が小さく見えてしまうだろうが許容範囲であろう。
 あとはドワーフグループのが出来上がればいよいよ仕上げとなる。
 だがその前に休憩と言っておきながら作業に集中してしまいすっかりお昼の時間になってしまったのでゾドラの様子見がてら報せに行ってやるとした。

***

 サリサム戦士長と話してから大魔将軍が始めたのはまさかの裁縫であった。
 しかも明らかに手慣れた動きに加え竜人に教えてみせる余裕すら見えた。

「も、もうダメだ。理解が追いつかなくなりそうだよ。あれが話に聞く大魔将軍なのかい?料理して裁縫して、あんな家庭的な魔族だったなんて知らなかったよ……」
「隊長、これもう向こうへ姿を見せた方がいいのではないでしょうか?」

 隊員達からも安全に交渉出来るのではないかという意見が増えていく中でセプトは悩む。
 あの恐れられた大魔将軍の意外過ぎる一面に彼の中では偽物ではという疑問が浮かんでしまったからだ。
 セプトにとって大魔将軍は畏怖の存在であり、あんなにも周りに気遣いを見せることは信じがたいからだ。

「…皆さん惑わされてはいけません。相手は魔族なのですよ。」

 そこへフード深く被った一人の女性が意見する。周りが彼女に注目すると女性はフードを後ろに下ろしてエルフ特有の耳を出し閉じていた瞼を開いて白く濁る瞳で見つめ返す。

「魔族はどこまで行っても魔族です。魔王を退けてから半世紀経とうとも、奴らがしてきた非道な行いは決して消えません。」
「そうは言ってもさクーナ。メビのことはあんたも察知出来なかったじゃないか?それに対話出来るならそれにこしたことはないと思うよ。」

 イランダの意見を聞いてもクーナは首を横に振る。彼女は先の大戦で捕虜となった時に家族と視覚を失った被災者な為に魔族を嫌うのは知っていたセプトは部隊内で対立が起きないよう指示を出す。

「二人とも今は任務中だ。クーナも私情は持ち込むな。どうやら向こうは昼食に入るようだから各々も腹に何か入れておけ。今日中にまた何か行うだろうからな。」

 セプトの指示にクーナは不満そうにだが承知しましたと言ってその場を後にするのを見ながらイランダはため息をつく。。
 捕虜に指示をし、何か聴取するところまでは軍人という風格を感じられて監視に集中できた。
 だが自ら料理をし、裁縫してみせる格好に全く合わない行動をしてきた大魔将軍を見て次にどんな行動をしてくるのか予想がつけられない状況に不安や不満を感じても仕方ないと思った。
 だからイランダはをつけるべきだと判断した。

「隊長、この際あたしが白旗持って向こうに行ってもいいかい?」

 イランダの提案に周りは驚いてから止めに入る。それでもイランダは自信ありげに交渉役になると名乗り出た。
 言っても聞かないイランダにセプトは黙考する。イランダは戦士でありパーティーの盾役としてのスキルも多く持つ。万が一相手が攻撃してきても凌いで逃げ切る可能性が一番高いのもイランダだけだろう。

(それにこいつはいざというときの運もある奴だったな。)

 戦友としての立場になったセプトは口端を少し上げてから頷く。

「わかった。だが上からではなく正面から向かうんだ。声が届く距離になったら交渉を開始しろ。本物の大魔将軍なら必ず攻撃せずに応えてくれるはずだ。」
「ありがとよ隊長。声には自信があるからね必ず話をつけてみせるさ。」

 隊長の承認によって他の者も渋々受け入れるのを見てイランダは自身の獲物であるバトルアックスを背に即席で作った白旗を手にそれじゃ行ってくるよと予め用意していた街側に降ろしたロープを伝って降りる。
 薄暗い路地裏を抜けて金の区画の大通りに出たイランダは誰一人いない光景に鼻で笑う。あの昼夜喧騒が止まなかった場所が今じゃ鼠一匹見かけない道の真ん中を堂々と歩いていくのは偉いヒトにでもなった気分だ。
 この区画の名物だったオークション会場の跡地をわざわざ踏んで通っていけばいよいよ目的地の城が見えた。

(このあたりかね。)

 自分の声量が城に届く距離まで接近したイランダは白旗を立て深呼吸を繰り返してから大きく息を吸えば口を開く。

「頼も~!大魔将軍殿はおられるかぁ~!頼もぉぉ~!」
「うむ、いるぞ。何用か?」

 力を入れる為に瞼を閉じて叫んだが数秒後にしかも近くから返事が聞こえたことにイランダは固まる。
 瞼を開けて正面を見れば視界に光沢のある漆黒の鎧が入ってきた。
 そこから視点を上に動かすとあの大魔将軍が自分を見下ろしていたことにイランダは反射的に後ろへ跳んだ。

***

 昼食の配膳中に向こうから動きがあった。
 どうやら単体で誰かが外壁から街へと進行してきたようだ。
 個人的な意見を言うならやっと侵入してきたのかと思ったが一人ということは完全に偵察、しかもより細かい情報を得る為に探知系スキルを持った者を出してきたと判断した。
 こちらは別に調べられて困ることはあまりない。というよりきっとステータスの差で我とゾドラは一部くらいしか見れないだろう。
 相手の情報を得るスキルにはレベル差で見れる情報が限られ大差があれば名前とレベルくらいしか表示されない。
 我レベルのステータスを全て見ることが出来るのはかの勇者パーティーの一人である魔法科学者が使っていた我も持つ【情報開示サーチ】くらいであろう。
 なのでこちらから手を出さないようゾドラに指示して昼食の配膳を続けた。
 ところが予想外のことが起きる。まさか単体で堂々と我を呼び出してきたのだ。
 全く向こうの指揮官は何をやっているのだ。
 部下が勝手な行動を起こしたのなら止めるか追いかけて連れ戻すべきだろう。
 まあ向こうから声を掛けてくれた以上応えてあげないとゾドラが先に動いてしまいそうなので周りには昼食は続けるよう伝えてから地面すれすれに浮いた低空飛行で向かい今に至る。

「ふむ、ドワーフの女戦士か。やはりサリサムの言ったことは当たっていたというわけだな。」

 腕を組んだ態勢で仁王立ちしながらまずはサリサムの名を出して反応を見る。すると女性ドワーフはこちらに敵意がないことを察したのか会釈してみせた。

「はじめまして大魔将軍殿。あたしはイランダ。サリサム戦士長から聞いているという言葉を信じるならあたし達は争うつもりはない。交渉の為に参った、いや参りました。」

 どうやら敬語慣れしないところが見受けられる女性ドワーフのイランダから言われたことに我はそうかと頷いて返す。

「なるほど、君達が〔大地の守り人〕なのだな。そして名乗られたからには我もそうしよう。我が名は大魔将軍。今はこの世界の弱者を守る盾である。」

 ちょっとカッコいい感じに名乗ってみればイランダは気圧されたのか冷や汗を見せた。

「さて、我と交渉しにきたのであればちょうどよい。あと少しで完成するからこの際君にも協力してもらおう。」
「え?あたしに協力って?」

 自分を指差して聞き返してきたイランダに我は返事してからとりあえずついてきなさいと指示して背を向ける。この時点で襲いかかるかどうかで次の行動を決めるつもりだったがどうやらイランダに戦う意思はないようだ。 
 城門を通ってイランダを連れてくればドワーフのグループから声が上がってきた。

「あれは!もしかしてイランダ様では!?」
「なんだと!ご無事であられたか!」

 どうやらドワーフの世界でなかなかの有名人らしいイランダを連れて向かったのは調理場であった。

「さて、まずは腹ごしらえをしてくれたまえ。我は向こうで仕上げをしているから食べ終わってから来るがよい。」
「え?いや、あたしは……」

 何か話したそうなイランダを無視して料理人達に頼むと我は作品の完成を目指して作業を再開した。
 サリサム達とちょっとだけ我が手入れして作り上げた緑の生地に弓矢の刺繍がされたもの。
 ドワーフとゾドラが作り上げた赤い生地に金槌の刺繍がされたもの。
 そして我とゾドラで高速に作り上げた青い生地に爪痕のような三本線を入れたもの。
 この三つを刺繍を避けて二等辺三角形に裁断してから合わせて一つの長方形に形作り縫い合わせた。
 ここまで解説すればわかる者がいるだろう。
 ずばりこれは【旗】である。
 完成した旗の出来栄えに満足しつつそれを我が大盾に付けてあげればはっきりと見えることだろうと考える。
 サリサムから〔大地の守り人〕のシンボルとして三種族の代表的なものを合わせた旗を作って外壁から監視している者達に見せることで敵意はないことを示してはどうかという提案を採用し製作することにしたのだ。
 ちなみに何故獣人族のを自分らだけでやったのは先のいざこざで関係がギクシャクしたので頼んでも命令と受け取ってしまい強制感が出てしまうと危惧したからだ。
 だが削れた信頼を修復することは忘れない。
 これは大きな旗だが後でこれの複製を獣人を入れて各種族に製作させる。
 一枚だけより複数あった方が見ている者にちゃんと伝わるはずだからな。
 イランダの方に視線を向けるとテーブルを挟んでサリサムと話し合っていた。
 彼女の方が何度か会釈して返事している様子からしてサリサムは先輩ポジションなのかもしれない。食事と会話が済んだ二人は一緒に我のところにやってきた。

「大魔将軍様。向こうで待機している者達にも私の知り合いが何人がいらっしゃるようです。」
「そうか、ならば交渉はサリサムにも来てもらうとしよう。」

 そう返してサリサムからも了承を貰えば次に旗の複製を指示してあげた。
 完成した旗と一回り小さな旗二枚くらいあればメッセージとしては十分伝わるはずだろう。
 当然イランダにも旗作りに参加してもらう。彼女が手伝ってくれることでより注目を集めて向こうの連中の敵意を一気に削いでやる為だ。
 指示してあげるとイランダはあたしもかいと素の驚きを見せるもサリサムに絆されて参加することに同意してくれた。
 昼食が終わり獣人はゾドラに監視を任せた旗作りが再開される中、我は残った自己申告も再開させる。数が少なかったのと先のいざこざのせいか自己申告はスムーズに終わった。
 旗作りは半分くらい進んでいたので我は明日に向けて動くことにした。

「ーー…君は医者と言っていたが回復魔法は?あと診察は得意か?」
「は、はい、私は小さな里の者ですので回復魔法は初級ぐらいしか使えません。診察が得意かはわかりませんが医者として六十年続けてきた誇りはあります。」

 テーブルを挟んで今面接しているのは申告で医療関係に携わってきたと言ってきた者達である。
 一人一人話を聞いてから明日行おうとしていることを話してあげると大いに賛同してもらい中には涙を見せながら感謝を伝える者までいた。
 それだけこの者達は助けられる命を救うことが出来なかったことを悔いていたのだと察した。

「よろしい。では明日の為に必要な物があれば事前に城から取ってくるがよい。」

 最後に集めた者達に言ってあげると皆一同に頭を下げてお礼を言ってから動き出してくれたのを見送ってから旗作りチームの元に向かう。
 作業はすでに大詰めで三つのシンボルを縫い合わせているところであった。

「ところでイランダよ。交渉しにきたということは君は隊長ではないのだな?」
「あ、そうだよ…ではなくはい。あたしらの隊長はセプトという名前です。」

 セプト……どこかで聞いたような気がする。半世紀前の侵攻でもしかしたら戦っているかもしれないな。
 まあ顔を見ればきっと思い出すだろうと内心考えつつイランダから交渉の内容を先に聞くことにした。

「あたし達の目的は一つ、要人の救出です。サリサム戦士長とアズベルトの。」

 イランダから出た名前の一人に我はん?と首を傾げる。今我に噛みついてきたアズベルトの後ろに王子と聞こえたからだ。
 
「そのアズベルトとは誰のことだ?」
「えーと、あちらの青い髪の青年です。彼こそアースデイ国で行方不明になっていた王子で間違いありません。」

 問いかけにイランダが示したのはやはりあのアズベルトであった。
 同名の者かと思いたかったがまさか彼がアースデイ国の王子だったとは予想外だ。
 しかし彼は何故自分が王子であると名乗らなかったのだろう?
 魔族である我を警戒してか、それとも王族としてのプライドか。
 しかしこれは少し面白いことになった。
 何せ我はこれで王子を救った恩人になれたのだからな。今後アースデイ国に立ち寄れる機会を作っておいた方がいいかもしれない。

「なるほど、なら連れていっても構わない。しかし他の特に女子ども達も救出することは出来ないのか?」

 了承からの続けて言った我の提案にイランダはまた予想外という顔をする。てっきり他は手元に置きたいとでも思っていたようだ。
 なのでこの際イランダを通して〔大地の守り人〕に伝えてもらえるよう一週間の予定を話してあげた。
 三日目に行われる健康診断にそれが終わってからの故郷へ帰りたいかの意思表示等の日程を説明してあげるとイランダは唖然とした。

「つ、つまり大魔将軍殿がその気になればこの場にいる者達全員を帰せると?」
「直接は無理だがな。近場に飛ばしてやることは出来る。だが我がいちいち帰るまで側にいてやることは時間がかかる。誰かが護衛に付いてくれれば助かるのだが?」

 意味深に言ってやるとイランダはすぐに隊長に相談してみますと言ってくれた。
 即決したのはおそらく我が人間達を転移魔法で飛ばしたところを見ていたからだろう。
 さて旗も完成したし、交渉人との話もついた。
 後はこれからやってくる責任者との談合を楽しみにするとしよう。
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