43 / 52
第六章 亀と兎
異種合同会議。
しおりを挟む
エルフェンをパーティーに加えたことが決定したすぐ後だった。
突然若いエルフ女性が駆け込んでくるとプルパに報せた。
「大変ですプルパ様!魔物の大群がこちらに迫ってきております!」
「なんと!数は!」
「担当の報告によりますと数はおそらく百体以上かと!」
どうやらこの本社に向かって魔物が一直線に進んできているらしい。この樹海に生息する魔物は全て中級以上なのでそれが百体も迫ってきているとなれば大事であろう。
疑問に思ったのは何故一斉に百体もここへ向かってきているのだろうかだ。
「獣避けと光の結界が機能していたはずなのにどうして…」
「それが、拠点のすぐ近くで大規模な相属性反応が起きた為に装置が異常を起こしたらしく。」
…え?つまりそれってあの時の衝突で結界に綻びでも出来てしまったということだろうか。
だとしたらこれはこちらにも責任があると言わざるおえない。
まあこんなにも強者が集う場所なだけに例え襲撃されたところで迎撃されるのが当たり前。それが百体であろうとも時間はかかるだろうが同じ結果となるはずだ。
(ともあれこれは使えるかもしれないな。)
中級から上級の魔物ならば悪くない戦力になる。
ここは一つ我が責任を果たすのも兼ねてその百体を手中に収めても誰も文句は言えないだろう。
「おい、どの方角だ?」
「え?あの、南西からです。」
「なるほど、南西だな。」
確かこの建物の出入口は南を向いていたので出てから右手にいけば出会えるということだな。
「どれ、ここは我が止めてきてやろう。」
「なんと、出来るのですか?」
「我を誰だと思っているプルパよ。かつて七百七十七の眷属を従えていた大魔将軍だぞ。百体の魔物など朝飯前だ。」
連中に言い放ってから我は会議室を出る。当然ゾドラもついてきてくれるが今回はエルフェンも宣言通り同行をし〔大地の守り人〕本社を出た。
ゾドラとエルフェンを背に南西に進んで森に入る前に地鳴りに近い足音が視線の向こうから聞こえてきたので足を止めた。
「二人はそのまま後ろにいなさい。あと耳は塞いでおくように。」
これからすることへの配慮をゾドラとエルフェンに伝えてから盾と共に元の姿に戻る。多少の環境破壊音を響かせながらやってくる魔物達を前に我は盾の一部を変形させ拡声器を取り出し音量調節をしてから軽く溜めて放ってみせた。
「魔物達よぉ!駆け込みは今すぐお止めになってくださぁい!」
魔力の衝撃波付きで地鳴りをかき消す声量の停止を呼びかけてあげると物音が無くなりシーンとした静寂が訪れる。
ちょっと大きさを間違えてしまったせいですぐ近くの木々が折れてしまったが最小の被害と言えよう。
「ええ我は大魔将軍である。こちらから攻撃はしないので君達の代表だけ姿を見せなさい。」
続いて自分達がいる開けた場所に代表者を呼ぼうと試みる。百体もの魔物が一斉に動くということはそれを率いる者達が必ずいるということに他ならない。
そしてもし古株の類いならば我の魔力を知っているはずだから素直に応じると思ったからだ。
しばらくして重い足音と共に三つの影が近づいてくるのが確認できた。
三メートルほどある足音の元であろう大きな影、百八十センチ前後の中くらいの影、子ども姿のエイムくらいの小さい影が木々を抜けて我々の前に姿を見せた。
「オオォ…ホンモノだぁ。あのオ姿はマチガイないぃ…!」
「本当だ!本当だ!昔とお変わりない大魔将軍様だ!」
大きい影は歩く大木というべきトレント族、小さい影はネズミ頭のラット族であった。
そして最後に姿を見せたのはドレス調に形作った白木の身体の前世でいう顔無しのマネキン。だが頭からは鹿の角のように枝木が生えているティムバー族だ。
二体より前に出たそのティムバー族は我の前で種族故に軽く会釈する形ながら敬意を示してきた。
「お久しぶりです大魔将軍様。この世の時間で早五十年。復活をお祝いいたします。」
中性的な声で丁寧に挨拶してくれたティムバー族の代表に我は返事をしてあげる。やはり我のことを知っている者で正直よかった。
それにしてもこのティムバー族だけでなく他の二体にも親近感が湧くというか既視感を感じるという気持ちになるのは何故だろうか?
「大魔将軍様はお忘れでしょうが我々はあなたからの大恩を決して忘れず生きてきました。そして今日、あなた様の魔力を感じましたので一部の仲間を連れて参りました。」
続けてティムバー族から言われたことにより我の闇属性を感知してやってきたようでこの者は実力も大したものだと言えた。
しかもどうやらこの者達と前に出会ったことがあるようだが、やはり思い出せない。
進化したりすると身長とか容姿がガラリと変わるのもいるのでそれもあるのだろうが申し訳ない気持ちになる。
「オールドトレントのぉバオムぅ。」
「チチチ。ベアラットのトーポ!」
「エレメントティムバーのラオブ。今ここに大魔将軍様の配下に加わることを望みます。」
そこへ三体が自ら名前を出してくれたことでやっと思い出した。
トレント族のバオム、ラット族のトーポ、ティムバー族のラオブ。
このマヤト樹海で不届きにもガレオに挑んできた三体組だ。
このマヤト樹海に勇者一行と初めて入ってきたところ当時本当にいたずらっ子だったこの三体によって目的地までの道のりをさんざん迷わせられた。
これは何かしらあると見て探知スキルを使えば我は三体を見つけて密かに捕獲してやったのだ。
正体を明かしてやると三体は怯えて素直に反省してくれたので根は樹海を守りたい良い者達だと感じた我は眷属にしなかったが名前を与えた。
魔族において上の者が下の者に名前を与えることはいずれ配下にしてやるという口約束レベルの先約であった。
だから三体が力をつけたところでまた会おうと告げて逃がしてあげたのだ。
おかげで次の日にはあっさりと目的地に到着したことに勇者達が不思議がっていた様子は少し笑えたものだ。
しかしまさか半世紀も我のことを忘れず待っていてくれたとは律儀な者達である。
ともかくこの者達は大変な戦力となる。種族上炎と雷属性の魔法には弱いが援護に回せば脅威的な武力となるだろう。
三体のステータスを確認しても上の中くらいの強さを持っているから断る理由はなかった。
「うむ、その忠義見事である。よかろう、今この時よりお前達を我が軍勢に加えることを宣言する!」
将軍らしくポーズを決めて言ってあげるとバオムとトーポは大いに喜びラオブは胸にあたるところに手を添えて静かに感謝を伝えてきた。
「では大魔将軍様。早速ですがあそこの建物を攻撃してもよろしいでしょうか?結界がない今、千載一遇の好機を共に行動したいと思っております。」
顔を上げたラオブからの発言でバオムとトーポもすぐに戦いの気持ちを出してきながら〔大地の守り人〕本社に顔を向ける。
そういえばこの者達の目的を聞いていなかったがやはり襲撃が目的だったようだ。
まあ向こうにとっては樹海の異物を追い出そうという心意気なのだろうがここはストップをかけさせてもらうとする。
「違いますよあなた達。あそこはもう大魔将軍様が占拠したのです。よってあそこはもはや大魔将軍様の所有物。手を出してはいけませんよ。」
止めようとした矢先にゾドラが三体に言ってくれた。
どうやら我の気持ちを汲んで発言してくれたようでついでにエルフェンのことも紹介してくれた。
彼女から言われたことに三体はさすがと我を称賛してくれたのは嬉しいが本当は手を組んだだけで占拠したわけではない。
でもこれでこの場所が結界無しでも攻撃されることが失くなるかもしれないので良しとする。
なので別の話題に切り替えるとしよう。
「このタイミングでお前達に会えたのは運命やもしれん。よく聞け、これから我々は人間族に戦を仕掛ける。」
出した話題にラオブ達が驚く中で詳細を伝えてあげた。
その話の中に建物にいるヒト族達も協力者であることも含めて伝えてあげると三体は意気揚々となった。
「オオォ!大魔将軍様ト戦えるヒヲ待っテおりましタぁ…!」
「やった!やった!殲滅だ!人間族をやっつけろ!」
「私達に異論などございません。必ずやお役に立てることを証明してみせます。」
三体からの意気込みに相槌を打ってから彼らの戦力について話し合う。
これが済んだら一度エイムとミケラに連絡してマヤト樹海へと呼んでから作戦会議をしロックガーデン国に攻め入ろうとする連合軍を進軍する前に叩く。
ちょっと詰め込んだスケジュールになってしまうかもしれないが準備万端で現地に赴くとしよう。
***
ーー…退屈だ。すごく退屈でしょうがない。
目の前で息切れしているエルフ族の戦士を前に僕はそう思った。
マスターが出掛ける前は言われたことにいい暇潰しになるかもと思えた。
でもやり合ってみて気づかされる。パーサーを除いたここにいるエルフの戦士達はそこそこの強さしかない。
訓練だからと最初二割の力で相手してあげたらひどい惨状になってしまった。
北の大地による寒さもあるだろうけど動きに無駄があってエルフの戦士達は反撃することすら出来なかった。
仕方ないので昔マスターが言っていた相手に合わせた訓練をしようというのを思い出して二人一組にし僕は魔法を使わず変身のみともっと加減して訓練してあげた。
それから随分日にちが経ってしまったがまあまあ動ける程度にしか成長してくれない。
パーサーはこちらの攻撃の合間にしっかり反撃してくれるのだけど他はお互いを補いながらやっと反撃するが限界だ。
(はあ…こういう時マスターならどうするんだろう?)
マスターは昔から下の者を育てるのが上手かった。
見て確認して足りないものはこっそりアドバイスしてその者の成長に繋げてみせていた。
この前影女将シャッテンを配下にした報告が届いてからはまた音信不通なので次の連絡を待つばかりだ。
「エイム様。少し休憩をもらってもよろしいでしょうか?」
「いいよー。その間に見回りしてくるからー。」
パーサーの提案を受け入れて返事すると僕は大黒林の見回りを始めた。
と言ってもマスターがこの森を支配下に置いてから誰も手出ししなくなったし、生息する獣は僕を恐れて逃げ出すばかりだ。
(あーあー、いっそのこと戦争でも起きないかなぁ…。)
退屈に空を眺めてそう思ったまさにその直後だった。
感じたものに僕は腰をほぼ直角に後ろへ反らす。そのすぐ後にミケラの左足が僕の上を通り過ぎた。
「にゃにゃんと!?」
「はい残念。」
左手部分をスライムに戻してミケラの左足に絡ませると円を描くようにブンブン振り回して彼女の目を回してあげてから地面に下ろしてあげた。
ふにゃあ~と仰向けで声を出すミケラの顔を覗き込んで僕は言ってあげる。
「ダメだよミケラ。奇襲したいなら例え遠くからでも声を出してから攻撃したら。耳がいい奴ならバレちゃうよ。五十七点です。」
「はうぅ…気をつけますみゃあ……」
だからもう一つ暇潰しとしてミケラも鍛えることにした。
ご飯の時間とパーサー達の訓練時間以外ならいつでも攻撃して構わないから考えて攻撃し、失敗したら反省してからまた挑むことと告げておいた。
おかげで多少は刺激的な時間を貰えている。
「はふ、そういえばエイムさんはこの前大魔将軍様から連絡を受け取ったと聞きましたが向こうは今どうなっているのですか?」
「んんー、マスターはシャッテンを下して島一つもらったらしくて今後については追って連絡するとは言ってたけどまだこないんだよねぇ。」
復活したミケラの問いに答えてから僕は空を眺めた。
マスターは遠くに行くとよく仕事を増やしてしまうところがあるからきっと今もその増やしてしまった仕事を片している最中なのかもしれない。でも今は眷属が全然いないんだから僕にも頼って欲しいものだよ全く。
『…あー、エイム、ミケラ。聞こえるか?こちらは大魔将軍である。』
なんて思っていたら想いでも通じたのかマスターからの【念間話術】が聞こえてきた。しかも僕だけでなくミケラにも入るマスターが言っていた店内通話というものだ。
マスターから告げられた話だとあのエルフェンを仲間にししかもマヤト樹海の魔物も配下にしたとのこと。
さらに獣人族と人間族の戦争に介入するから僕らも参加するようにとのことだった。
なんて素晴らしいことだ。きっとこれがマスターの言う天からのご褒美というやつに違いない。半世紀経ってまだ人間族の小隊くらいしか戦えてなかったから大規模な戦闘はとても楽しみだ。
「わ、私に務まるでしょうか大魔将軍様?」
『問題ない。各々の役目も決めてあるから合流した後で伝える。というわけでエイムよ。ミケラを連れてマヤト樹海まできてくれ。』
「うん!わかったよマスター!すぐ行くね!」
元気よく返事をして通話を終えると僕はミケラに駆け寄ってひょいっと持ち上げれば急いで拠点に戻る。
戻ってからパーサーに事情を伝えれば彼らはお任せくださいと了承してくれた。
「よおし!それじゃあマヤト樹海に向かうよミケラ!」
ミケラを上にその場で変身を始めて中型の飛竜に成れば背にいる彼女にしっかり掴まっているよう言ってから翼を動かし森を出るとマヤト樹海に向かって一直線に飛んだ。
待っててマスター!久しぶりの大規模戦闘は僕がいっぱい活躍して一番の功績を出してあげるからね!
***
ーー…戦力を得てから翌日。
こうして集まると面子がすごいなと思ってしまうのは魔族故だろうか。
場所は〔大地の守り人〕本社、の前の開けたところ。
そこに魔族側とヒト族側に分かれた形で主要人物が並んでいた。
「オホン、ええでは参謀として語らせていただきます。」
プルパが発言して杖を前に出せば探知スキルの初級魔法である【地図情報】を地面に発動させて地形を表示してくれた。
ロックガーデン国を端に置いた地図には幾重にも山々があり通るには細い山道と三つの関門が待っている仕組みだ。
しかし残念ながら人間族が使う簡易魔法装置と兵力によって既に二つの関門は突破されてしまったとのこと。
残る関門を突破されてしまえばあとは国のみなのでその前に挟撃できないだろうかというのが向こうから届いた親書の内容だった。
「なるほど。それで敵の兵力はざっとどれくらいだ?」
「はい、三つの国が合わさったことで兵力は多少減っていたとしてもおそらく二万五千は越えるかと。」
プルパの返事にトーポとミケラは大いに驚いてみせた。
確かにそれだけの数ならば簡易魔法装置の数も相当あるだろう。
離れたところから魔法を連発されたら関門なんてあっという間に攻略されたに違いない。
それに挟撃というのは悪くない話だが数が数だけに少数精鋭で〔大地の守り人〕が向かったところで焼け石に水程度ぐらいにしかならない可能性がある。
多分だけどプルパ達側はそれで悩んでいたかもしれない。
とならばここは絶好の助け船となってあげようではないか。
「二万五千か。ううむ、お前達は何人くらいか答えてみよ。」
「はい!僕は三千!」
「では私は旦那様のご期待に応えたいので五千。」
「む!やっぱり僕も五千!」
「みゃ!?ええとええと、じゃあミケラは新米なので二千で。」
我の問いかけにいきなり数字を出してきた眷属達にプルパ側が急にどうしたと不思議がる。
その様子を内心笑いつつせっかく参加してくれた三体にも尋ねる。
「私達は皆様の邪魔をなさらないよう援護に徹します。それでも三千くらいは狙ってみたいと思います。」
代表でラオブが発表してくれたので軽く計算する。
エイムとゾドラが五千ずつ、ミケラが弱気に二千、ラオブ達が三千と言ってきたから今のところ合計で一万と五千か。
まあ残りの一万くらいは我がもらってやるとしよう。
なんて考えていたらやっと意味を理解したエルフェンがまさかとこちらを見て尋ねてきた。
「まさかお前達、今言った数字の兵を討ち取る気でいるのか?」
エルフェンの言葉でプルパ側は大いに驚いてみせた。
と言ってもプルパ本人と何人かは予想していたようで表情は変えてなかった。
そこはやはり慣れということになるかもしれない。
「その通りだ。だが安心しろ。その中に獣人族はいない。それにこれだけいれば確実に捕らわれている者達を救出する作戦も出来る。」
我の発言にもう作戦まで用意していたのかという反応を見せてくれる各々を眺めてから地図を指差して早速語ってあげた。
時間にして約三十分弱くらいで役割等を説明してあげればさすがのプルパも唸って感心してくれた。
「なんとなんと、これは確かにこちらだけでは出来なかった大胆不敵な策ですの。」
「ふふふ、お前達が厄介者にしていたのを味方にすれば被害を最小限となることも可能なのだ。」
プルパの感想に腕を組んだ態勢で言い切ってみせる。
この作戦はエイムとミケラがやってくるまでに考えたここにいる皆が活躍する為のものだ。
殲滅と救出という少し矛盾した目的を達成するには双方の強みを生かしていかなければ完全にとは成らない。
後はその為の人員と数の準備となるだろうが半世紀ぶり、いやそれ以上の大移動となるから向こうがびっくりして攻撃してこないかが懸念材料ではある。
「よいか。人間族の軍勢が最後の関門に到着する前に我々は到着しなくてはならない。各々の迅速な準備に期待する。解散!」
将軍の立場で全員に向けて言うと返事をしてからプルパ側は急いでその場を去っていった。
こちらも【次元転移】する準備に移行しようと思ったところにエルフェンから呼び止められる。どうやら二人だけで話がしたいそうだ。
こちらとしては対話は大歓迎なので了承し、眷属にはラオブ達の準備に手を貸す指示を出してからエルフェンと共に人気の無いところまで移動した。
「それでエルフェン。話とはなんだ?」
「…大魔将軍。お前は私以外に誰かと会えたか?あともうあいつに会ってはいるのか?」
エルフェンの質問はかつての勇者パーティーのメンバーについてだった。
あいつというのはきっと勇者本人のことだろうが今では名前すら口に出したくないほどエルフェンは嫌悪しているのかもしれない。
質問に対し我は正直にヴァンクは直接会ってはいないのでエルフェンが一番で勇者もまだだと伝えた。
理由については今の世界情勢をきちんと理解してから行おうとしていたとも話すとエルフェンは腕を組んでそうだったのかと呟く。
「逆に聞きたいエルフェン。お前の方はどうなのだ?エルフの連絡方法で話し合っていないのか?」
以前フィールがやった特殊な手紙はエルフェンも使えるはずなので尋ねてみればそんなに便利なものではないのだと説明を交えて返された。
あの連絡方法はあくまでも自身か血縁者に届く仕組みになっており距離と天候次第では届く日数にも差ができるのだとか。
「だからヴァンクからの手紙にガレオの名前が出たのにも驚いたがその時点でもうオサカの街が侵略された後だったのをここに来て知ったのだ。」
「なるほど、では勇者を除いて他から連絡は?」
続けて尋ねたことにエルフェンは首を横に振ってみせてから他の二名について話してくれた。
「テルナトは西を探ると言って別れたきりもう二十年近く連絡はない。カテジナとはもう四十年もだ。彼女に関してはもしかしたらも、覚悟している。」
後半を少し表情を暗くさせながら言うエルフェン。
魔法科学者カテジナ・タニール。
魔法使いの家系に生まれながら魔導具と呼ばれるものを開発してみせた発明家でもある赤髪でタヌキの獣人族の女性。
口調は多少粗さがあるのに反して計算や開発となれば科学者らしい見解を口に出してきたりそれを戦闘に生かしていく様は正に戦う科学者と言えた。
挙げ句に闇属性の制御をテーマにガレオの鎧を研究しようとしてくる探求心には末恐ろしさを感じたものだ。
あと本人はケモミミを見られたくないからと常にヘルメットっぽい帽子を被る変な一面もあったが。
「…確かにそうだな。人間族よりちょっと長命程度の寿命な獣人族では高い可能性ではある。」
現実としてそう返してやればエルフェンの気持ちはより沈む。世界を救った仲間が亡くなっているかもしれないというのは彼女にとって辛いものだと。
慰めの一つでもかけてやるべきなのが優しさだろうが、それは今ではない。
「顔を上げよエルフェン。我々はこれから人間族に反旗を、しかも壮大な逆襲を始めるのだ。先頭を切る者が沈んだ顔を配下に見せるでない。」
「先頭、って私がか?」
「当たり前だ。我はこの世界に生きる魔族の代表。貴様はエルフ族の代表として活躍してもらう。そこでだエルフェン、戦の前にあの〔合体技〕を完成させてみないか?」
唐突に出した我の言葉にエルフェンは大きく肩を揺らして動揺してみせる。それから二人っきりなのに左右を見回して誰もいないことを確認してから口を開く。
「あ、あれをまだ覚えていたのか!?だいたいお前が扱えないからと断ったじゃないか!」
「あの時は我に見合う品質のものが無かったのと盾が変形することを知られるのは勇者やヴァンクらに正体がバレると判断したが故だ。本当はちゃんと使えるぞ。」
軽く胸を張って言ってやれば理由に納得してくれたのかエルフェンは少し唸ってからため息をついた。
皆の準備が済んで我が現地に【次元転移】するまで早くて二日。
実に短い期間となるが成長したエルフェンならば間に合うはずだ。
「さあて、我とお前で思いっきり人間を蹴散らす様をロックガーデン国に見せてやろう!」
「何で味方になのよ!?そこは敵国にでしょうが!」
エルフェンの素早いツッコミに我はそれでこそお前だと高らかに笑ってみせるのであった。
突然若いエルフ女性が駆け込んでくるとプルパに報せた。
「大変ですプルパ様!魔物の大群がこちらに迫ってきております!」
「なんと!数は!」
「担当の報告によりますと数はおそらく百体以上かと!」
どうやらこの本社に向かって魔物が一直線に進んできているらしい。この樹海に生息する魔物は全て中級以上なのでそれが百体も迫ってきているとなれば大事であろう。
疑問に思ったのは何故一斉に百体もここへ向かってきているのだろうかだ。
「獣避けと光の結界が機能していたはずなのにどうして…」
「それが、拠点のすぐ近くで大規模な相属性反応が起きた為に装置が異常を起こしたらしく。」
…え?つまりそれってあの時の衝突で結界に綻びでも出来てしまったということだろうか。
だとしたらこれはこちらにも責任があると言わざるおえない。
まあこんなにも強者が集う場所なだけに例え襲撃されたところで迎撃されるのが当たり前。それが百体であろうとも時間はかかるだろうが同じ結果となるはずだ。
(ともあれこれは使えるかもしれないな。)
中級から上級の魔物ならば悪くない戦力になる。
ここは一つ我が責任を果たすのも兼ねてその百体を手中に収めても誰も文句は言えないだろう。
「おい、どの方角だ?」
「え?あの、南西からです。」
「なるほど、南西だな。」
確かこの建物の出入口は南を向いていたので出てから右手にいけば出会えるということだな。
「どれ、ここは我が止めてきてやろう。」
「なんと、出来るのですか?」
「我を誰だと思っているプルパよ。かつて七百七十七の眷属を従えていた大魔将軍だぞ。百体の魔物など朝飯前だ。」
連中に言い放ってから我は会議室を出る。当然ゾドラもついてきてくれるが今回はエルフェンも宣言通り同行をし〔大地の守り人〕本社を出た。
ゾドラとエルフェンを背に南西に進んで森に入る前に地鳴りに近い足音が視線の向こうから聞こえてきたので足を止めた。
「二人はそのまま後ろにいなさい。あと耳は塞いでおくように。」
これからすることへの配慮をゾドラとエルフェンに伝えてから盾と共に元の姿に戻る。多少の環境破壊音を響かせながらやってくる魔物達を前に我は盾の一部を変形させ拡声器を取り出し音量調節をしてから軽く溜めて放ってみせた。
「魔物達よぉ!駆け込みは今すぐお止めになってくださぁい!」
魔力の衝撃波付きで地鳴りをかき消す声量の停止を呼びかけてあげると物音が無くなりシーンとした静寂が訪れる。
ちょっと大きさを間違えてしまったせいですぐ近くの木々が折れてしまったが最小の被害と言えよう。
「ええ我は大魔将軍である。こちらから攻撃はしないので君達の代表だけ姿を見せなさい。」
続いて自分達がいる開けた場所に代表者を呼ぼうと試みる。百体もの魔物が一斉に動くということはそれを率いる者達が必ずいるということに他ならない。
そしてもし古株の類いならば我の魔力を知っているはずだから素直に応じると思ったからだ。
しばらくして重い足音と共に三つの影が近づいてくるのが確認できた。
三メートルほどある足音の元であろう大きな影、百八十センチ前後の中くらいの影、子ども姿のエイムくらいの小さい影が木々を抜けて我々の前に姿を見せた。
「オオォ…ホンモノだぁ。あのオ姿はマチガイないぃ…!」
「本当だ!本当だ!昔とお変わりない大魔将軍様だ!」
大きい影は歩く大木というべきトレント族、小さい影はネズミ頭のラット族であった。
そして最後に姿を見せたのはドレス調に形作った白木の身体の前世でいう顔無しのマネキン。だが頭からは鹿の角のように枝木が生えているティムバー族だ。
二体より前に出たそのティムバー族は我の前で種族故に軽く会釈する形ながら敬意を示してきた。
「お久しぶりです大魔将軍様。この世の時間で早五十年。復活をお祝いいたします。」
中性的な声で丁寧に挨拶してくれたティムバー族の代表に我は返事をしてあげる。やはり我のことを知っている者で正直よかった。
それにしてもこのティムバー族だけでなく他の二体にも親近感が湧くというか既視感を感じるという気持ちになるのは何故だろうか?
「大魔将軍様はお忘れでしょうが我々はあなたからの大恩を決して忘れず生きてきました。そして今日、あなた様の魔力を感じましたので一部の仲間を連れて参りました。」
続けてティムバー族から言われたことにより我の闇属性を感知してやってきたようでこの者は実力も大したものだと言えた。
しかもどうやらこの者達と前に出会ったことがあるようだが、やはり思い出せない。
進化したりすると身長とか容姿がガラリと変わるのもいるのでそれもあるのだろうが申し訳ない気持ちになる。
「オールドトレントのぉバオムぅ。」
「チチチ。ベアラットのトーポ!」
「エレメントティムバーのラオブ。今ここに大魔将軍様の配下に加わることを望みます。」
そこへ三体が自ら名前を出してくれたことでやっと思い出した。
トレント族のバオム、ラット族のトーポ、ティムバー族のラオブ。
このマヤト樹海で不届きにもガレオに挑んできた三体組だ。
このマヤト樹海に勇者一行と初めて入ってきたところ当時本当にいたずらっ子だったこの三体によって目的地までの道のりをさんざん迷わせられた。
これは何かしらあると見て探知スキルを使えば我は三体を見つけて密かに捕獲してやったのだ。
正体を明かしてやると三体は怯えて素直に反省してくれたので根は樹海を守りたい良い者達だと感じた我は眷属にしなかったが名前を与えた。
魔族において上の者が下の者に名前を与えることはいずれ配下にしてやるという口約束レベルの先約であった。
だから三体が力をつけたところでまた会おうと告げて逃がしてあげたのだ。
おかげで次の日にはあっさりと目的地に到着したことに勇者達が不思議がっていた様子は少し笑えたものだ。
しかしまさか半世紀も我のことを忘れず待っていてくれたとは律儀な者達である。
ともかくこの者達は大変な戦力となる。種族上炎と雷属性の魔法には弱いが援護に回せば脅威的な武力となるだろう。
三体のステータスを確認しても上の中くらいの強さを持っているから断る理由はなかった。
「うむ、その忠義見事である。よかろう、今この時よりお前達を我が軍勢に加えることを宣言する!」
将軍らしくポーズを決めて言ってあげるとバオムとトーポは大いに喜びラオブは胸にあたるところに手を添えて静かに感謝を伝えてきた。
「では大魔将軍様。早速ですがあそこの建物を攻撃してもよろしいでしょうか?結界がない今、千載一遇の好機を共に行動したいと思っております。」
顔を上げたラオブからの発言でバオムとトーポもすぐに戦いの気持ちを出してきながら〔大地の守り人〕本社に顔を向ける。
そういえばこの者達の目的を聞いていなかったがやはり襲撃が目的だったようだ。
まあ向こうにとっては樹海の異物を追い出そうという心意気なのだろうがここはストップをかけさせてもらうとする。
「違いますよあなた達。あそこはもう大魔将軍様が占拠したのです。よってあそこはもはや大魔将軍様の所有物。手を出してはいけませんよ。」
止めようとした矢先にゾドラが三体に言ってくれた。
どうやら我の気持ちを汲んで発言してくれたようでついでにエルフェンのことも紹介してくれた。
彼女から言われたことに三体はさすがと我を称賛してくれたのは嬉しいが本当は手を組んだだけで占拠したわけではない。
でもこれでこの場所が結界無しでも攻撃されることが失くなるかもしれないので良しとする。
なので別の話題に切り替えるとしよう。
「このタイミングでお前達に会えたのは運命やもしれん。よく聞け、これから我々は人間族に戦を仕掛ける。」
出した話題にラオブ達が驚く中で詳細を伝えてあげた。
その話の中に建物にいるヒト族達も協力者であることも含めて伝えてあげると三体は意気揚々となった。
「オオォ!大魔将軍様ト戦えるヒヲ待っテおりましタぁ…!」
「やった!やった!殲滅だ!人間族をやっつけろ!」
「私達に異論などございません。必ずやお役に立てることを証明してみせます。」
三体からの意気込みに相槌を打ってから彼らの戦力について話し合う。
これが済んだら一度エイムとミケラに連絡してマヤト樹海へと呼んでから作戦会議をしロックガーデン国に攻め入ろうとする連合軍を進軍する前に叩く。
ちょっと詰め込んだスケジュールになってしまうかもしれないが準備万端で現地に赴くとしよう。
***
ーー…退屈だ。すごく退屈でしょうがない。
目の前で息切れしているエルフ族の戦士を前に僕はそう思った。
マスターが出掛ける前は言われたことにいい暇潰しになるかもと思えた。
でもやり合ってみて気づかされる。パーサーを除いたここにいるエルフの戦士達はそこそこの強さしかない。
訓練だからと最初二割の力で相手してあげたらひどい惨状になってしまった。
北の大地による寒さもあるだろうけど動きに無駄があってエルフの戦士達は反撃することすら出来なかった。
仕方ないので昔マスターが言っていた相手に合わせた訓練をしようというのを思い出して二人一組にし僕は魔法を使わず変身のみともっと加減して訓練してあげた。
それから随分日にちが経ってしまったがまあまあ動ける程度にしか成長してくれない。
パーサーはこちらの攻撃の合間にしっかり反撃してくれるのだけど他はお互いを補いながらやっと反撃するが限界だ。
(はあ…こういう時マスターならどうするんだろう?)
マスターは昔から下の者を育てるのが上手かった。
見て確認して足りないものはこっそりアドバイスしてその者の成長に繋げてみせていた。
この前影女将シャッテンを配下にした報告が届いてからはまた音信不通なので次の連絡を待つばかりだ。
「エイム様。少し休憩をもらってもよろしいでしょうか?」
「いいよー。その間に見回りしてくるからー。」
パーサーの提案を受け入れて返事すると僕は大黒林の見回りを始めた。
と言ってもマスターがこの森を支配下に置いてから誰も手出ししなくなったし、生息する獣は僕を恐れて逃げ出すばかりだ。
(あーあー、いっそのこと戦争でも起きないかなぁ…。)
退屈に空を眺めてそう思ったまさにその直後だった。
感じたものに僕は腰をほぼ直角に後ろへ反らす。そのすぐ後にミケラの左足が僕の上を通り過ぎた。
「にゃにゃんと!?」
「はい残念。」
左手部分をスライムに戻してミケラの左足に絡ませると円を描くようにブンブン振り回して彼女の目を回してあげてから地面に下ろしてあげた。
ふにゃあ~と仰向けで声を出すミケラの顔を覗き込んで僕は言ってあげる。
「ダメだよミケラ。奇襲したいなら例え遠くからでも声を出してから攻撃したら。耳がいい奴ならバレちゃうよ。五十七点です。」
「はうぅ…気をつけますみゃあ……」
だからもう一つ暇潰しとしてミケラも鍛えることにした。
ご飯の時間とパーサー達の訓練時間以外ならいつでも攻撃して構わないから考えて攻撃し、失敗したら反省してからまた挑むことと告げておいた。
おかげで多少は刺激的な時間を貰えている。
「はふ、そういえばエイムさんはこの前大魔将軍様から連絡を受け取ったと聞きましたが向こうは今どうなっているのですか?」
「んんー、マスターはシャッテンを下して島一つもらったらしくて今後については追って連絡するとは言ってたけどまだこないんだよねぇ。」
復活したミケラの問いに答えてから僕は空を眺めた。
マスターは遠くに行くとよく仕事を増やしてしまうところがあるからきっと今もその増やしてしまった仕事を片している最中なのかもしれない。でも今は眷属が全然いないんだから僕にも頼って欲しいものだよ全く。
『…あー、エイム、ミケラ。聞こえるか?こちらは大魔将軍である。』
なんて思っていたら想いでも通じたのかマスターからの【念間話術】が聞こえてきた。しかも僕だけでなくミケラにも入るマスターが言っていた店内通話というものだ。
マスターから告げられた話だとあのエルフェンを仲間にししかもマヤト樹海の魔物も配下にしたとのこと。
さらに獣人族と人間族の戦争に介入するから僕らも参加するようにとのことだった。
なんて素晴らしいことだ。きっとこれがマスターの言う天からのご褒美というやつに違いない。半世紀経ってまだ人間族の小隊くらいしか戦えてなかったから大規模な戦闘はとても楽しみだ。
「わ、私に務まるでしょうか大魔将軍様?」
『問題ない。各々の役目も決めてあるから合流した後で伝える。というわけでエイムよ。ミケラを連れてマヤト樹海まできてくれ。』
「うん!わかったよマスター!すぐ行くね!」
元気よく返事をして通話を終えると僕はミケラに駆け寄ってひょいっと持ち上げれば急いで拠点に戻る。
戻ってからパーサーに事情を伝えれば彼らはお任せくださいと了承してくれた。
「よおし!それじゃあマヤト樹海に向かうよミケラ!」
ミケラを上にその場で変身を始めて中型の飛竜に成れば背にいる彼女にしっかり掴まっているよう言ってから翼を動かし森を出るとマヤト樹海に向かって一直線に飛んだ。
待っててマスター!久しぶりの大規模戦闘は僕がいっぱい活躍して一番の功績を出してあげるからね!
***
ーー…戦力を得てから翌日。
こうして集まると面子がすごいなと思ってしまうのは魔族故だろうか。
場所は〔大地の守り人〕本社、の前の開けたところ。
そこに魔族側とヒト族側に分かれた形で主要人物が並んでいた。
「オホン、ええでは参謀として語らせていただきます。」
プルパが発言して杖を前に出せば探知スキルの初級魔法である【地図情報】を地面に発動させて地形を表示してくれた。
ロックガーデン国を端に置いた地図には幾重にも山々があり通るには細い山道と三つの関門が待っている仕組みだ。
しかし残念ながら人間族が使う簡易魔法装置と兵力によって既に二つの関門は突破されてしまったとのこと。
残る関門を突破されてしまえばあとは国のみなのでその前に挟撃できないだろうかというのが向こうから届いた親書の内容だった。
「なるほど。それで敵の兵力はざっとどれくらいだ?」
「はい、三つの国が合わさったことで兵力は多少減っていたとしてもおそらく二万五千は越えるかと。」
プルパの返事にトーポとミケラは大いに驚いてみせた。
確かにそれだけの数ならば簡易魔法装置の数も相当あるだろう。
離れたところから魔法を連発されたら関門なんてあっという間に攻略されたに違いない。
それに挟撃というのは悪くない話だが数が数だけに少数精鋭で〔大地の守り人〕が向かったところで焼け石に水程度ぐらいにしかならない可能性がある。
多分だけどプルパ達側はそれで悩んでいたかもしれない。
とならばここは絶好の助け船となってあげようではないか。
「二万五千か。ううむ、お前達は何人くらいか答えてみよ。」
「はい!僕は三千!」
「では私は旦那様のご期待に応えたいので五千。」
「む!やっぱり僕も五千!」
「みゃ!?ええとええと、じゃあミケラは新米なので二千で。」
我の問いかけにいきなり数字を出してきた眷属達にプルパ側が急にどうしたと不思議がる。
その様子を内心笑いつつせっかく参加してくれた三体にも尋ねる。
「私達は皆様の邪魔をなさらないよう援護に徹します。それでも三千くらいは狙ってみたいと思います。」
代表でラオブが発表してくれたので軽く計算する。
エイムとゾドラが五千ずつ、ミケラが弱気に二千、ラオブ達が三千と言ってきたから今のところ合計で一万と五千か。
まあ残りの一万くらいは我がもらってやるとしよう。
なんて考えていたらやっと意味を理解したエルフェンがまさかとこちらを見て尋ねてきた。
「まさかお前達、今言った数字の兵を討ち取る気でいるのか?」
エルフェンの言葉でプルパ側は大いに驚いてみせた。
と言ってもプルパ本人と何人かは予想していたようで表情は変えてなかった。
そこはやはり慣れということになるかもしれない。
「その通りだ。だが安心しろ。その中に獣人族はいない。それにこれだけいれば確実に捕らわれている者達を救出する作戦も出来る。」
我の発言にもう作戦まで用意していたのかという反応を見せてくれる各々を眺めてから地図を指差して早速語ってあげた。
時間にして約三十分弱くらいで役割等を説明してあげればさすがのプルパも唸って感心してくれた。
「なんとなんと、これは確かにこちらだけでは出来なかった大胆不敵な策ですの。」
「ふふふ、お前達が厄介者にしていたのを味方にすれば被害を最小限となることも可能なのだ。」
プルパの感想に腕を組んだ態勢で言い切ってみせる。
この作戦はエイムとミケラがやってくるまでに考えたここにいる皆が活躍する為のものだ。
殲滅と救出という少し矛盾した目的を達成するには双方の強みを生かしていかなければ完全にとは成らない。
後はその為の人員と数の準備となるだろうが半世紀ぶり、いやそれ以上の大移動となるから向こうがびっくりして攻撃してこないかが懸念材料ではある。
「よいか。人間族の軍勢が最後の関門に到着する前に我々は到着しなくてはならない。各々の迅速な準備に期待する。解散!」
将軍の立場で全員に向けて言うと返事をしてからプルパ側は急いでその場を去っていった。
こちらも【次元転移】する準備に移行しようと思ったところにエルフェンから呼び止められる。どうやら二人だけで話がしたいそうだ。
こちらとしては対話は大歓迎なので了承し、眷属にはラオブ達の準備に手を貸す指示を出してからエルフェンと共に人気の無いところまで移動した。
「それでエルフェン。話とはなんだ?」
「…大魔将軍。お前は私以外に誰かと会えたか?あともうあいつに会ってはいるのか?」
エルフェンの質問はかつての勇者パーティーのメンバーについてだった。
あいつというのはきっと勇者本人のことだろうが今では名前すら口に出したくないほどエルフェンは嫌悪しているのかもしれない。
質問に対し我は正直にヴァンクは直接会ってはいないのでエルフェンが一番で勇者もまだだと伝えた。
理由については今の世界情勢をきちんと理解してから行おうとしていたとも話すとエルフェンは腕を組んでそうだったのかと呟く。
「逆に聞きたいエルフェン。お前の方はどうなのだ?エルフの連絡方法で話し合っていないのか?」
以前フィールがやった特殊な手紙はエルフェンも使えるはずなので尋ねてみればそんなに便利なものではないのだと説明を交えて返された。
あの連絡方法はあくまでも自身か血縁者に届く仕組みになっており距離と天候次第では届く日数にも差ができるのだとか。
「だからヴァンクからの手紙にガレオの名前が出たのにも驚いたがその時点でもうオサカの街が侵略された後だったのをここに来て知ったのだ。」
「なるほど、では勇者を除いて他から連絡は?」
続けて尋ねたことにエルフェンは首を横に振ってみせてから他の二名について話してくれた。
「テルナトは西を探ると言って別れたきりもう二十年近く連絡はない。カテジナとはもう四十年もだ。彼女に関してはもしかしたらも、覚悟している。」
後半を少し表情を暗くさせながら言うエルフェン。
魔法科学者カテジナ・タニール。
魔法使いの家系に生まれながら魔導具と呼ばれるものを開発してみせた発明家でもある赤髪でタヌキの獣人族の女性。
口調は多少粗さがあるのに反して計算や開発となれば科学者らしい見解を口に出してきたりそれを戦闘に生かしていく様は正に戦う科学者と言えた。
挙げ句に闇属性の制御をテーマにガレオの鎧を研究しようとしてくる探求心には末恐ろしさを感じたものだ。
あと本人はケモミミを見られたくないからと常にヘルメットっぽい帽子を被る変な一面もあったが。
「…確かにそうだな。人間族よりちょっと長命程度の寿命な獣人族では高い可能性ではある。」
現実としてそう返してやればエルフェンの気持ちはより沈む。世界を救った仲間が亡くなっているかもしれないというのは彼女にとって辛いものだと。
慰めの一つでもかけてやるべきなのが優しさだろうが、それは今ではない。
「顔を上げよエルフェン。我々はこれから人間族に反旗を、しかも壮大な逆襲を始めるのだ。先頭を切る者が沈んだ顔を配下に見せるでない。」
「先頭、って私がか?」
「当たり前だ。我はこの世界に生きる魔族の代表。貴様はエルフ族の代表として活躍してもらう。そこでだエルフェン、戦の前にあの〔合体技〕を完成させてみないか?」
唐突に出した我の言葉にエルフェンは大きく肩を揺らして動揺してみせる。それから二人っきりなのに左右を見回して誰もいないことを確認してから口を開く。
「あ、あれをまだ覚えていたのか!?だいたいお前が扱えないからと断ったじゃないか!」
「あの時は我に見合う品質のものが無かったのと盾が変形することを知られるのは勇者やヴァンクらに正体がバレると判断したが故だ。本当はちゃんと使えるぞ。」
軽く胸を張って言ってやれば理由に納得してくれたのかエルフェンは少し唸ってからため息をついた。
皆の準備が済んで我が現地に【次元転移】するまで早くて二日。
実に短い期間となるが成長したエルフェンならば間に合うはずだ。
「さあて、我とお前で思いっきり人間を蹴散らす様をロックガーデン国に見せてやろう!」
「何で味方になのよ!?そこは敵国にでしょうが!」
エルフェンの素早いツッコミに我はそれでこそお前だと高らかに笑ってみせるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる