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第六章 亀と兎

ちゃんと確認しましょう。

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 ーー…ツルガミ山を囲む森の中、私は弓を引いていた。
 態勢を維持して待ち、見えたものに狙いを定めて矢から指を離し放つ。
 ピュンッ!と飛んでいった矢は木々の間を抜けて消える。

「…うん、仕留めた。」

 弓を持つ手を下ろして言うと後ろでオーガ族の若い方が驚く。
 確認の為に彼らと共に矢の飛んだ方へ進むと一頭の鹿が頭に矢を受けて倒れていた。

「おお!さすがは大魔将軍様がお連れする方!見事な名手です!」

 とオーガに褒められると私は複雑な心境で苦笑いを浮かべた。
 まさかこの歳になって自分の弓の腕前をかつて戦ってきたオーガ族に褒められる日が来ようとはと。
 とりあえずこれで今日のノルマの手伝いは済ませたので私は一足先に大魔将軍の元に向かった。
 彼が封印解除を開始してから早くも約一ヶ月が経過しようとしている。
 その間、私とミケラはフクチョウらオーガ族の里で世話になっていた。
 大魔将軍からエルフェンとミケラは我の優秀な眷属でありオガコに並ぶほど、かもしれないと言われたのでフクチョウらはさすがと二人の扱いを丁重にしてくれた。
 ただずっと世話になりっぱなしは申し訳ないので狩りの手伝いをすることにしたのだ。
 何せ一本目の鎖を断ってみせたのに約二週間、二本目は約一週間半と本人が言った通り苦戦しているからな。
 フクチョウ達の方も相手が厄介な光属性だからこそとか、女王の安全を考慮しているからだと口には出さずに見守ることにしてくれている。

「あ!エルフェンしゃん!狩りは終わりましたか?」
「ああ、大魔将軍…様はまだ作業中か?」

 途中別の仕事をしていたミケラと合流し経過を尋ねる。ミケラからはずっと頑張っていますと返されこれから応援しにいくとも言ってきたので私は一緒に行くことにした。
 すると私とミケラを呼ぶ声に足を止めて振り返る。

「エルフェンの姐さん、ミケラちゃん。これから親方のところにですかい?」

 私達を見下ろす形ながらあのフクチョウが尋ねてきたのでそうだと返せば大魔将軍へのメッセージを頼まれた。

「もうぶっ続けで作業してらっしゃる親方に少しでもいいんで休憩を促してくれませんかね?俺だと言い負けてしまいそうなんで。」

 苦笑いで申し訳なさそうにお願いしてきたフクチョウ。
 そう、大魔将軍はずっと休まず作業しているのだ。
 普通のヒトなら過労の域をとうに達するところを大魔将軍は自分は平気だと豪語して手を止める気がないのは私も気にかかっていた。
 そもそもあいつの魔力はどれだけのあるのだろうか?
 遥か先を一瞬で移動したり、国一つ失くす隕石を落としたりと無尽蔵ではないかと疑ってしまう。
 ああして見せられると半世紀前によく勝てたとも思えてしまう。

「わかった。私からしっかり言ってみよう。期待しててくれ。」

 ともかくフクチョウのお願いを聞き入れ私とミケラは大魔将軍のいる大門に向かった。
 洞窟を進んで行けばカン…カン……という音が響いてくる。緩いカーブを抜けて大魔将軍の背中を視界に捉えれば近くに行ってから私は声を掛けた。





 ーー…ううむ、参った。
 まさかここまで作業が滞るとは、さすが聖女の行った封印。
 オガコを縫いつける鎖が今まで経験していないほど硬い。
 おかげで使用しているノミが既に二本駄目になってしまった。
 カッコつけて我だけで解いてみせると意気込んだけど、これでは後の予定がずっと延びてしまう。
 ここまででそこの君。なんで前みたいに【眷属蘇生バディリレイズ】を使わないのかと思ったかもしれない。
 残念ながら光封印の前では【眷属蘇生】は使えないのだ。
 あれは闇属性を大量に使うので一番相属性反応を起こし兼ねないから無理に発動させればそれこそツルガミ山にどれほどの被害が出るかわからない。
 せめて封印が解除できてオガコが解放されれば【眷属蘇生】を使えて全快させられるのだが……
 だからこの削って壊す作業が一番安全な解除方法として選んだけれども一ヶ月も経ってまだ全行程の半分も到達しないのは大魔将軍として情けない気持ちだ。

「……経過はどうだ?」

 後ろから掛けられたエルフェンの言葉に我は手を動かしながら返す。

「順調、とは言えないな。さすが聖女の封印である。」
「やはりそうか。私も手伝いたいところだが、封印に関して全く知識がないのが情けない。」

 そう言いため息をつくエルフェン。
 君は元々エルフの大戦士なのだから仕方ないだろうに。
 すると暗い空気を察してかミケラが休憩を提案してきた。
 きっと狩りの手伝いを終えたエルフェンとずっと作業している我を同時に休ませようという気遣いからだ。
 こういうのは作業が難航している時こそ時に良い効果をもたらすかもしれないから受け入れることにした。

「ゴロゴロスリスリしますみゃあ。」

 【転換】でケット・シーの姿になったミケラは我の胡座の上で実に愛らしい行動をしてきた。
 正直手を伸ばして愛でたいところだがエルフェンが見ているので撫でる程度で我慢しよう。

「しかし、まさかオーガの里に聖女が来ていたとは予想外だった。」
「私もだ。彼女は何故ここにやってきたのだろうか。」

 休憩がてら話題は聖女の封印から聖女がツルガミ山を訪れた目的へとなる。
 半世紀前からここはヒト一人で行くところではないと言われていたはずなのに勇者から逃げた聖女が何故危険を承知で来たのか。
 エルフェンからは単に逃走中の通過点に過ぎなかったのではと意見が出た。
 だがそれではわざわざオーガ族の前に姿を見せる必要はないので否定する。

「エルフェン。聖女は未来を見通す力があったのだろうか?」

 次に我から未来視の意見を出してみた。
 するとエルフェンからは気になる話が聞けた。
 まだ勇者パーティーとして成り立てだった頃にとある街に滞在した。
 そこで娯楽の一つとして複数ある木のコップに隠された一つの玉を当てるゲームに参加した聖女が全て的中させたことがあったらしい。
 エルフェンが後でどうしてわかったのか尋ねればそのコップに玉が入っているという予感がしたからだと返してきた。
 その後も聖女は旅の中で予感めいたことを口に出してきたことが時々あったとのこと。
 エルフェンの話を聞いてやはり聖女には元々そういうスキルがあったのだろう。
 そしてスキルはこの世界も魔界も問わず昇華するのだ。
 あくまで仮説の段階だが聖女の予感が年月を得て未来視へと昇華したのではないだろうか。
 その力で聖女は何かを視てツルガミ山を訪れオガコらに姿を見せたのにも合点がいく。

「ならばその話が真実だとするならば聖女はお前の復活を見たのではないか?しかも勇者から逃げる最中に。」

 我の仮説を聞いてエルフェンが大胆な意見を出してきた。
 そんな特定の未来を見たらむしろオガコに会おうとはしないのではないか?
 それとも聖女がオガコを封印する自分の方を未来視したのか?

「ううむ、仮説ばかりあげても仕方ないな。今は解除に集中するか。」

 とりあえず聖女の未来視については一旦保留としよう。
 ミケラに大分癒されたのでエルフェンの膝上にミケラを置いてから我は作業を再開する。
 今のところ三本目の鎖が半分削れてきたところなのであと数日くらいは掛かるだろう。
 全く聖女め、我ならば解けるなんて必要な日数を考えず発言するでないわ。

(ん?待てよ……日数を考えず、だと?)

 未来視で見たものが一ヶ月後か一年後か、はたまた五十年後かはわからないだろう。
 でももし、聖女が見たのが我であろうが、もしもも視ていたとしたら…?

「……あああああっ!!」
「わああぁっ!?」

 その時、何故今まで気づけなかったのだろうかという不甲斐なさに我は顔を上に向けてつい声を出してしまいエルフェンとミケラを驚かせてしまった。
 万が一でも我が気づいたことが聖女の見た未来ならばあの言葉にも充分な理由が付けられる。そう思えば早速行動に移すことにした。

「きゅ、急に叫ぶな!何か失敗したのか!?」
「驚かせてすまん。だが我は一旦転移する。フクチョウらが尋ねてきたら伝えておけ。」

 聞いてきたエルフェンそう返してから我は【次元転移ジャンプ】を使った。
 転移先はヤマト樹海の〔大地の守り人〕本部付近。ここは新しく作った場所なので徒歩ですぐ本部に向かうと扉を勢いよく開ける。

「プルパ!プルパはいるか!プルパを呼べ!」

 我を見て驚く職員達へ声高らかに言う。突然の来訪と共にプルパを指名された向こうは大慌てで行動してくれた。
 少しして幹部連と共にプルパが小走りで我のところにやってくる。

「はぁ、ふぅ、急な呼び出しとは何かありましたか?」

 歳故か息を切らして尋ねるプルパに我は背を向けて片膝を着く。

「…乗れ。」
「え?何にですか?」
「貴様の手を借りたい。だから我に乗れ。」

 背負ってやるという意思表示を伝えればプルパの後ろにいた者らから動揺のざわめきが起きる。
 心配しなくてもちゃんと闇属性は極力抑えてあるしプルパは元高位の聖職者だから耐性もあるので問題はないはずだ。

「…それは火急の要件でしょうか。」
「当然だ。貴様が適任だから連れていくのだ。早くしろ。」

 さっさと現場に戻りたいので言葉に圧を入れて問いかけに答える。
 返事を聞いてプルパはすぐにわかりましたと了承してくれた。

「では失礼します。」
「うむ、お前達もしばらく借りるかもしれないからそこは覚えておけ。」

 残る者達に一言告げてから我はプルパをおんぶして立ち上がり同じくオーガの里に新しく作った魔方陣へと【次元転移ジャンプ】した。
 数秒の暗転から里の端に当たるところに転移すれば我はダッシュで現場に向かった。
 老人を背負って走る大魔将軍の姿を目撃したオーガ族にとっては多少奇妙な光景だったかもしれないがそんなことはお構い無しでオガコの元に着く。

「ほお、これはこれは……」
「我が眷属の一人である。どうだプルパ?この封印、お前なら解けるか?」

 そう、我が気づいたのは桶は桶屋という意味で聖職者のプルパに光封印の解除を手伝ってもらえばいいのではだ。
 聖女が未来視で見たのが我だけが挑むのではなく我が得た人材と共に封印解除する光景だったのではないかと考えプルパをここに連れてきたのだ。
 彼はアイテムを駆使すれば中級の封印術を一人で行える腕を持っていることは前々から知っていた。
 つまり封印について幅広い知識があるということに繋がり我は期待して尋ねれば降ろされたプルパは左右に歩いて封印の全体を確認する。

「ふぅむ、これほど大規模な封印は久しぶりに見ましたな。しかし、駄目ですな。」
「駄目?それはお前の力では解除は難しいということか?」

 やはり聖女の封印となれば高位聖職者のプルパでも難しいという意味かと思って聞くと彼はこちらへ振り返って言った。

「ああいえ、駄目というのはこの封印のです。」

 なんとプルパの口から出たのはこの封印に対するダメ出しであった。
 まず門を土台にしたのがいけないと言う。何故なら開閉するものに封印の魔方陣を設置したら年月による門の劣化やズレにより封印の効力が弱まってしまったり綻びが生まれる可能性があるのだとか。
 さらにはこれほどの魔物を封印するのに出てきた鎖の数も少ないと言う。
 そこは我が鎖を二本破壊したので聖女には申し訳ないが封印が完璧ではなかったことは予想外だった。

「ここまで大きな封印を成したことは褒められるものでしょうが詰めが甘いですな。一体どなたがしたものやら。」

 まるで美術の先生みたいに言うプルパに我はエルフェンと顔を見合わせてから彼女に言ってもらうことにした。
 聖女が行った封印であるとエルフェンから告げられたプルパはなんと!と目を見開いて驚くもすぐに冷静になって言った。

「でしたら、恐縮ですが聖女様は手を抜いたと見るべきでしょう。あなたが封印を解くことを信じて。」

 プルパに言われてやはりそうなのかと我も思う。だとすれば聖女はそれほど鮮明な未来視を得ていた可能性が高まった。
 何せ我が復活することだけでなく、聖女の封印を我が手を結んだプルパを連れて解くことを未来視していたかもしれないのだから。

「手を抜いてとはな。それで、悪いが簡潔に結論を述べよプルパ。貴様はこの封印を解除出来るのか?」
「はい、鎖の数からしてあれば出来ますな。」

 …え?一週間?
 二本破壊するのに一ヶ月かかったのに我に対して残り三本半をプルパは一週間で外せると言われては内心ちょっとショックだった。
 もっと早く彼を連れてきていればフクチョウらオーガ族の喜ぶ顔を見れる日がもっと前になったのではと考えてしまうと本当に申し訳ない気持ちになる。

「ただ、それには多少アイテムが必要なので準備できますか?」
「無論だ。眷属の為ならば惜しみなく用意しよう。」

 品揃えに関して即答で返すとプルパは微笑んでみせる。
 多分部下の為に尽力しようとする心意気に対してだろうが我はアイテムの要望を促した。
 プルパから掲示されたアイテムは全て手持ちにあったので倉庫からポイポイと出してあげた。
 中には今の世では貴重なアイテムもあったらしくさすがとプルパに称賛される。
 準備が整ったところでプルパは次にエルフェンに手伝いを申し入れた。
 なんでも光属性を扱える彼女がいれば作業も捗るとのこと。
 断る理由もないし労力を分散できるのでは良いから我は了承しエルフェンも素直に受け入れた。

「ほっほっほ、では大魔将軍殿の期待に応えられますよう尽力しましょう。」
「うむ、よろしく頼む。だがわかっているだろうが変な気は起こすなよ?」

 最後の最後にちょっとだけ悪役としてプルパを指差して言えば彼は物怖じせず心得ておりますと返してみせる。
 なので我は踵を返してその場を去りフクチョウらに説明をしに向かった。
 フクチョウの家で事情を伝えてからここまで時間を大いに経過させてしまったことを謝罪した。
 フクチョウらが光属性なのだから苦戦して当然ですと手を振ったりしてフォローしてもらってから我は次の話題に切り替える。
 そう、オガコが復活してからオーガ族の行動方針についてだ。
 三つの国が失くなってから一ヶ月以上経った今、残された村や町を彼らと共に侵略していく為にも早めに道順を決めることにした。

「よいか、手を出していいのは人間族のみだ。他は我の庇護下に置く。見分けはわかっているな?」
「へい親方。さんざん姉御に教えられましたから年長者はちゃんと頭に入っておりやす。」
「よろしい。いいか?人間族ならば何をしても構わない。今の世界ならば人間族の方がよっぽどだからな。」

 我の一言で集められた幹部級のオーガ族がやる気をみせる。その意味は様々だが言葉にするのは控えておこう。
 活力を与えてから次にしっかりと行程を話し合う。
 オーガ族は基本徒歩の移動だ。
 しかしそこは我の死霊術等を使ってなるべく短縮させようと思っている。
 目標は全ての村と町を蹂躙して人間族を追い出してから明確な国境を築き上げること。
 無論村はともかく町にはきっと冒険者ギルドが点在して抵抗もあるだろうが我々とオガコが率いるオーガ族ならば人間族だけの集団なんて全く問題にならない。

「ーー…よし、最後にフクチョウ。お前には此度の褒賞としてこれを授ける。」

 行程を決めれば最後にずっと里のオーガ族を守ってきたフクチョウに言って倉庫に手を入れる。
 引き抜いて出してみせたのは赤黒い六角形の柄付き棍棒。されど大きさはちょうどフクチョウの身長半分ほどある。

「おお!そ、その棍棒は…!」
「うむ、昔オガコに使わせていたものだ。これをお前に献上する。」

 この棍棒はオガコを眷属してから約十年目に勤続十年賞としてエイム作らせたもので素材にはドラゴンの骨と鱗が使われている。
 しかしオガコがオーガクイーンに進化した時に新しい武器と交換した。
 何故まだ持っているかは単に形が気に入っていただけなのとせっかくエイムに作らせたものなので再利用してあげたいという気持ちからである。
 その棍棒を半世紀も里を維持し牽引させたフクチョウに褒賞として渡すことにした。

「うおおお!ありがとうございやす親方!この[ボコボコバット]で必ず活躍してみせましょう!」

 …何そのネーミング?[ボコボコバット]なんて名前付けた覚えがないので尋ねるとフクチョウは姉御がそう言って振り回してましたと返された。
 多分だが、オガコの奴この棍棒の名前を聞かれて咄嗟にひらめいた名前出したんだろうな。
 ちなみにオガコが持っているはず二代目の主武器は我が命名した可変式特大剣の[モモタロウ]だ。
 話は逸れたがフクチョウが喜んでくれたようなので他の者にもオガコが復活したら倉庫にある品をプレゼントして装備を万全にしてあげよう。
 後は一週間後に期待だな。





「ーー…終わったのか?」
「ああ、コツを掴んだら一気にやれた。今ならお前も封印出来るかもな?」

 なんて皮肉をついて笑みを浮かべるエルフェンと隣で彼女を拍手するプルパ。
 二人に任せてからに様子を見に行ったらもう鎖が残り一本、いやその一本も半壊していた。
 プルパが言うにはエルフェンは飲み込みが早くて弓を概して光属性を偏らせて脆くなったところを寸断していったのだとか。
 あまりの早さに我はしょんぼりしそうになったが軽く咳き込んで気持ちを切り替えてからオガコを見上げる。

「よし、ならば解けると同時に【眷属蘇生】を使う。それでオガコはすぐに全快してくれるはずだ。」

 あと少しで解除出来るのならばと我は二人にそう言う。
 光封印が解けたからと言って魔族はすぐに解放されるわけではない。
 そこから肉体に残る光属性が外へと霧散されるまでは本人が目覚めることはないのだ。
 だからそこへ我が【眷属蘇生】を行うことで一度肉体を再構成させれば相属性反応を最小限にしてオガコを復活させることができる。
 これは経験に基づいた話なので我は二人に残りを破壊するよう改めてお願いした。

「わかりました。やりましょうエルフェン殿。」
「ああ、もう少しだ。」

 半壊の鎖を挟むようにしてエルフェンとプルパは立つ。
 それを確認してから我は浮いてオガコの胸のあたりまで上昇した。
 一応すぐに【眷属蘇生】を発動させる準備には入る。
 するとゾドラの時と同じく進化可能の表示が現れ二択が出された。
 一つはオーガ・オブ・トール。
 確か戦闘能力がとても高く尚且つ周りの味方を強化させる補助魔法も使えるかつて我と肩を並べた魔王軍幹部の者と同じ最上位だ。
 もう一つの方がオーガ・オブ・グレイス。
 こちらは希少上位種に含まれるなんとオーガ族で唯一回復の魔法が使えると聞いている。
 戦って回復もするオーガなんて前世で言うところの脳筋ヒーラーと呼ばれるものだろうか?
 どちらも魅力的な種族だが、ここはオーガ・オブ・グレイスにしよう。
 何故かは心根の優しいオガコならそちらを選ぶだろうと思ったからだ。
 戦いの後、いつもオガコは傷ついた部下を見ては心を痛めているのを知っていたし回復魔法を羨ましいと呟くのを耳にしていたのでこの機会にその願いを叶えてあげよう。

「大魔将軍殿、もうすぐ解けますぞ。」
「わかった。こちらはいつでも構わん、解除せよ。」

 下から言ってきたプルパにそう返すとエルフェンと共に彼は鎖に添えた手を光らせるとすぐに解除してみせた。
 鎖が切断されると門に設置された魔方陣は輝きを失い上から崩れるように消えていった。
 同時に白くなっていたオガコの全体が色付くように本来の姿になれば前に身体を傾けてきた。
 このままだと応援していたミケラを含めて全員をオガコの巨体が巻き込むところを我は前に出て触れるとすかさず【眷属蘇生】を発動させた。
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