異世界で予言の巫女になりました

青野滝エリ

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こんにちは知らない世界

1. 目覚めたのは

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アリディーレ王国 キリタ村 雷鳴谷ヴロンディ キラーダ


キリタ村の外れにあるこの谷は、頻繁にヴロンディが落ちる場所で有名だ。
よほどの事がない限り人が立ち入らないこの場所で、背の高い焦茶の髪色をした男がこの谷にある雷石ヴロンディ クロカーラを採りに訪れていた。


「そーいや、昨日はでっかいヴロンディが落ちたっけな。」

汗をかきながら歩く彼は、首元に風が当たる様にするため少し長くなった襟足を束ね、谷底まで続く道を歩いている。

彼は、歩きながら足元に転がる雷石ヴロンディ クロカーラを拾い値踏みする。
まだ、昨晩の雷鳴の余波が残っているのかキラキラと黄金色の輝きを放っていた。

雷の光を溜め込むと言われているこの石は、輝きが強ければ強いほど、高値で取引される。雷石ヴロンディ クロカーラの輝きは時間が経つと弱まってしまうが、宝飾職人 ヘイデンは、装飾魔術アクセスアル マギアを使いその輝きを閉じ込める事ができる、唯一の職人だ。


「どんだけ、でかいヴロンディだったんだよ。」

そう言った彼は額に冷や汗を滲ませながら、いつもより強い輝きを放つ石を見つめている。拳大ほどの石を拾う彼は、持ってきた空のバッグを膨らませながら谷底に向かって歩みを進めた。


「よっと。」

谷底に着いたヘイデンは、休憩がてら川縁の座りやすそうな場所で湯を沸かし始める。辺りを見回しながら、今日探すポイントを決めているようだ。


「こんだけ輝きが強いなら、でっかい石の一つや二つ持って帰りたいもんだね。」

持ってきたカップにお茶を注ぎながら呟く彼は、ふと対岸に何かがあることに気づく。


「・・・猿か?いや、人か?」

お茶を飲みながら、ジッと様子を伺っていると、生き物にも見えるが全く動く気配がない。見間違いかもしれないと思いながらも注意深く様子を伺う彼は、ふとある事に気づいた。


「・・・もしかして、女?」

こんな場所に自分以外の人間がいる筈ない。
そう思いながらも、勢いよく立ち上がり浅瀬を渡り始める。
慎重に警戒しながら近づいてみれば、確かに人の形をしている。


“・・・こんな所で行き倒れるなんて、こいつ人間か?・・・”

「・・・っ!」

駆け寄って見ると、倒れている人間が見知らぬ格好をした女性で、この辺りでは見ない髪色、それも自分が知っている神様と同じ髪色をしている事に息を呑んだ。


「おいっ。大丈夫か!?」

「うっ・・・」

慌てて、軽く肩を揺すり声をかけると女性は小さく声をあげる。
生きている事に安堵したヘイデンは、女性が怪我をしていな事を確認して彼女を背負い来た道を戻り始めた。


「残念だが、今回はこれまでだな。」

谷沿いの道を戻り始めた彼は少しだけ悔しそうな表情を浮かべながら、歩いていた。


“女背負ってりゃ、仕方ねーな”

「・・・プロフィティア様が人となってヴロンディと共に舞い降りた。
 とかだったらオモシレーのに。」

ありえない事を呟いたと自覚があったのか、邪念を振り払うかのように頭を振り、背中の女性を落とさない様に背負い直す。


「・・・とりあえず、戻ったら布団に寝かせるか。」

振動で起きないようにゆっくり歩く彼は、いつも以上に女性に気を配りながら歩みを進めるのだった。



・・・・・



「・・・ん」

体の痛みと共に目が覚めた千佳は、見知らぬ天井を眺めていた。
全身を打ったのだろうか、体のあちこちに軽い痛みが走る。


「ここ・・・どこ?」

見知らぬ人に手を引っ張られた所までは覚えているが、その後自分はどうなったのかここが何処なのかも分からない。
千佳は、建物の天井を眺めながら考えをめぐらせる。

“手をひっぱった人が運んだのかな”
そんな事を考えていると、ギイィっと扉が開く。


「あら、目覚めたの?」

ドアを開けて入ってきた男はそう言いながら、手に持っていたタライとタオルをテーブルに置く。千佳の様子を確認するためベッドに近づくと、千佳はその男の顔を見て全身を硬直させた。


「痛みは?」

「・・・ヒッ!」

椅子に腰掛けて尋ねてくる男性は心配そうにそう声をかけるが、千佳は顔をひきつらせ悲鳴にも似た声をあげる。


「安心して。そんな襲うつもりもないわー」

「え、あ・・・あ・・・」

「大丈夫?だいぶ混乱しているみたいね。」

怖がらないように少し距離をとって、「お腹すいてない?」と尋ねる男性は優しい笑顔を千佳に向ける。


「な・・・なんでっ」

「なんで?」

「なんで、ひさしがここにいるのーーーっ!!!」

そう声を上げた千佳は、頭まで布団をかぶり「顔もみたくない。出ってー」と言葉を続けた。
知らない人の名を口にした千佳に疑問を浮かべながら、男性は優しく話しかける。


ひさし
 なんだか、誤解しているみたいだけど、私、ヘイデンって言うのよ。」

効果音がつきそうな笑顔で微笑む彼は「それより、お腹すいてない?水は飲める?」と気遣いながら、様子を伺っている。


「・・・・・・」

ヘイデンの言葉に落ち着きを取り戻したのか、千佳は布団から頭をだし彼をじっと見つめた。
探る様な視線を彼に向けるが、ヘイデンはそんな事を気にしていないのか優しく笑っている。


「誰かと勘違いしたのかもしれないけど、
 ここにはあなたが怖いと思うモノはないと思うわ」

“・・・確かに、顔は似てるけど、目も髪の色も違う。
 体格も違う・・・何より、声も口調も全然違う”

「・・・すみません。・・・私、勘違いを」

「いいの、いいの。
 それより、水は飲めるかしら?」

人違いをして声を上げたことが恥ずかしくなったのか、千佳は頷きゆっくり身体を起こして水を飲む。


「それで、貴方はなぜ倒れていたの?」

「自分でもよくわからなくて・・・」

自分の状況を説明しようにも、信じてもらえないかもしれない。
そう思った千佳は、曖昧にはぐらかし此処が何処か分からないと伝えた。


「ここは、アリディーレ王国のキリタ村よ。」

「アリディーレ王国・・・きりた・・・。
 すみません。存じ上げないです。」

「そう。
 もしかしたら記憶喪失なのかもね。」

身に覚えのない地名に、千佳は自分が何処に来たのか何故こんな事になったのか、不安に思うと同時に恐怖を感じていた。


「震えてるわ。大丈夫?」

「あ、だ、大丈夫です」

「目覚めたばかりなんだからゆっくり休んで。
 後で、食事を運んでくるから。」

体を震わせている千佳を見たヘイデンは、優しく声をかけ部屋を後にする。
彼が部屋から出て行った後、千佳はベッドに体を預け自分の置かれている状況を考えた。


“手を引っ張られて、私、違う所にきたのかな・・・
 レナードはどうしたんだろう”

「・・・とりあえず、今は、動けるようにしないと」

そう呟いた千佳は目を閉じ、再び眠りについた。


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