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東海道を東へ
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半刻後…、
朝方はあれほど晴れていたのに、見渡す限り空は曇っていて雨でも降りそうだった。惣兵衛は速足で京都の町を抜けて、小山に囲まれた山間を越える。しばらく洛外の平地を歩いていると、町屋の先から琵琶湖に向かう山道に差し掛かった。
多少の起伏はあっても若い惣兵衛には屁でもなく、峠を越えればなんとも雄大で海のような琵琶湖を一望できるのであった。
「いつ見ても壮観やな」
この辺までなら店の使いで訪れたこともある。
周りを見渡して見ると、京都の近くだからか街道を歩くのは旅芸人や行商人が多かった。少し身なりの良い着物を着ているのは、どこの若旦那だろうかと、そんな考えに耽っていると、早くも大津の宿場を見下ろす場所に到達している。
それから、日も高いうちに大津を横目に先を目指す。一刻もすると惣兵衛はまだ明るいうちに草津宿の近くまで辿り着いた。さらに先の宿場まで足を運ぼうと思案した途端、バチバチと雨音が屋根瓦に当たって聞こえ出す。
「雨や…」
濡れないように軒先に避難して、雨雲の機嫌を窺っていると、どんどんと雨はその勢いを増していくのだった。
「こりゃ、直ぐには止みそうもないわ」
笠をかぶって濡れてでも進もうかと迷ったが、それは視界を遮る程の大雨となって行く手を阻んだ。日暮れもそう遠くない。この先にも旅籠は点在していると承知していたが、惣兵衛は多少の距離を歩いて濡れるよりも、草津宿で泊まるのを賢明だと思った。
それからは夜半にかけても断続的に大きな雨が降り出して、次の日に宿から顔を出すと往来は一面ぬかるんでしまっている。当然、街道も同じ有り様だろう。
「この先は十分に気を付けてくださいね」
店先で旅籠の主人が心配して見送ってくれた。
「お気になさらず大丈夫ですから」
惣兵衛は軽い口調で答えて宿を後にした。
後ろからは「ほんまに大丈夫やろか」という声が聞こえる。
山越えをするには良い状態とは言えないけれど、今日は人里を越えることはない。鈴鹿峠を越えるためには土山宿まで辿り着かなければならない。それでも山間は苦労するなと泥だらけになった足元を見て思った。
東海道の海側に向かうために山裾を歩くのだが、街道筋には町屋が立ち並んでいる。惣兵衛は店先の郷土品に手を伸ばしそうになって路銀は少ないと引っ込める。
何度か小雨は降ったが、笠でしのげるほどであった。
街道を水口宿までたどり着くと昼に糒を炊いた握り飯を食べる。日が暮れるまでに土山宿に行ければ今日の道程は完了する。そうなれば翌日の朝からは鈴鹿峠を登山するのだ。あらかじめ予備の足袋とわらじを持っていても、鈴鹿峠で履き潰すのではないかと思った。
惣兵衛は街道の人混みから露天商を探す。
「そこの物売りさん。わらじを売ってくれませんか?」
「はいはい。御兄さんの履いている形でいいね」
露天商の男は大きな商品をつんだ移動屋台から、わらじを掴みだした。
「ええ」
「ほなら、八文になりますので」
惣兵衛は袖から八文を取り出して渡した。
この日、雨に濡れた地面を歩くのに疲れて、へとへとになりながら夕暮れ前に土山宿に泊まったのであった。
朝方はあれほど晴れていたのに、見渡す限り空は曇っていて雨でも降りそうだった。惣兵衛は速足で京都の町を抜けて、小山に囲まれた山間を越える。しばらく洛外の平地を歩いていると、町屋の先から琵琶湖に向かう山道に差し掛かった。
多少の起伏はあっても若い惣兵衛には屁でもなく、峠を越えればなんとも雄大で海のような琵琶湖を一望できるのであった。
「いつ見ても壮観やな」
この辺までなら店の使いで訪れたこともある。
周りを見渡して見ると、京都の近くだからか街道を歩くのは旅芸人や行商人が多かった。少し身なりの良い着物を着ているのは、どこの若旦那だろうかと、そんな考えに耽っていると、早くも大津の宿場を見下ろす場所に到達している。
それから、日も高いうちに大津を横目に先を目指す。一刻もすると惣兵衛はまだ明るいうちに草津宿の近くまで辿り着いた。さらに先の宿場まで足を運ぼうと思案した途端、バチバチと雨音が屋根瓦に当たって聞こえ出す。
「雨や…」
濡れないように軒先に避難して、雨雲の機嫌を窺っていると、どんどんと雨はその勢いを増していくのだった。
「こりゃ、直ぐには止みそうもないわ」
笠をかぶって濡れてでも進もうかと迷ったが、それは視界を遮る程の大雨となって行く手を阻んだ。日暮れもそう遠くない。この先にも旅籠は点在していると承知していたが、惣兵衛は多少の距離を歩いて濡れるよりも、草津宿で泊まるのを賢明だと思った。
それからは夜半にかけても断続的に大きな雨が降り出して、次の日に宿から顔を出すと往来は一面ぬかるんでしまっている。当然、街道も同じ有り様だろう。
「この先は十分に気を付けてくださいね」
店先で旅籠の主人が心配して見送ってくれた。
「お気になさらず大丈夫ですから」
惣兵衛は軽い口調で答えて宿を後にした。
後ろからは「ほんまに大丈夫やろか」という声が聞こえる。
山越えをするには良い状態とは言えないけれど、今日は人里を越えることはない。鈴鹿峠を越えるためには土山宿まで辿り着かなければならない。それでも山間は苦労するなと泥だらけになった足元を見て思った。
東海道の海側に向かうために山裾を歩くのだが、街道筋には町屋が立ち並んでいる。惣兵衛は店先の郷土品に手を伸ばしそうになって路銀は少ないと引っ込める。
何度か小雨は降ったが、笠でしのげるほどであった。
街道を水口宿までたどり着くと昼に糒を炊いた握り飯を食べる。日が暮れるまでに土山宿に行ければ今日の道程は完了する。そうなれば翌日の朝からは鈴鹿峠を登山するのだ。あらかじめ予備の足袋とわらじを持っていても、鈴鹿峠で履き潰すのではないかと思った。
惣兵衛は街道の人混みから露天商を探す。
「そこの物売りさん。わらじを売ってくれませんか?」
「はいはい。御兄さんの履いている形でいいね」
露天商の男は大きな商品をつんだ移動屋台から、わらじを掴みだした。
「ええ」
「ほなら、八文になりますので」
惣兵衛は袖から八文を取り出して渡した。
この日、雨に濡れた地面を歩くのに疲れて、へとへとになりながら夕暮れ前に土山宿に泊まったのであった。
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