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同心と与力
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早朝…、
街道にて捕り物に参じるため、同心の一行は三人で奉行所を出発した。遠目から敵が一目散に逃げない様に、身なりは町人の格好をしている。
「それで奴さんたちは素手で捕らえれるのですかね?」
同心の一人、坂井信太郎が問いかける。
「これまで刀を持っていたという届けはない。俺の使っている岡っ引きも確認しているし、ただの悪童に過ぎんよ。心配するな」
そう答えたのは、仲間の水野重兵衛だ。
ここから目的の街道筋までは少々遠かった。馬に乗りたかったが、そうすれば役人だと露見してしまう。道中をただ歩きながら過ごすのは退屈で、年長である水野は年下の坂井をからかって暇をつぶそうと考えていた。
「そうだが水野よ…、たかが悪童風情の捕り物に同心三人もいるのか?」
こう話したのは水野と同い年の赤川久治である。
「上が岡っ引きを使うのを嫌がるんだ。それに一人で捕まえられませんでしたでは責任も重くなる。相手も逃げ回る筈だからな」
「しかし、追いかけっこは疲れる」
坂井は気怠そうに言った。
「ああ、場合によっては百姓たちに働いてもらって追わせるのも手だ」
「その様に手を煩わせずとも、上に黙って岡っ引きの連中を使えばいいんだ」
赤川は愚痴を垂れた。
街道沿いの整備は幕府の命によって推進されており、現在でも宿場の新しい普請が続いている。少しずつ各地へ往来する人の流れは増大し、その通行の邪魔になる者が現れれば捕らえるのも役人の勤めであった。
○
三人の上司で与力の佐脇門十郎が街道の噂を聞いたのは数日前だった。
それは尾張の有名な卸商の大旦那が、古い馴染みである奉行所の佐脇を訪ねた時のこと、世間話のついでに話したのが発端だった。街道にて汚らしい身なりの五人組に愚にもつかない歌舞伎を見せられて、一人二十八文も取られたらしい。
佐脇は職業上の責務であり、馴染みへの面目も傷つけられた気がしたものだから、そのような不届きな輩は許さないと啖呵を切って捕縛を約束したのだった。
街道にて捕り物に参じるため、同心の一行は三人で奉行所を出発した。遠目から敵が一目散に逃げない様に、身なりは町人の格好をしている。
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「これまで刀を持っていたという届けはない。俺の使っている岡っ引きも確認しているし、ただの悪童に過ぎんよ。心配するな」
そう答えたのは、仲間の水野重兵衛だ。
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「そうだが水野よ…、たかが悪童風情の捕り物に同心三人もいるのか?」
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「上が岡っ引きを使うのを嫌がるんだ。それに一人で捕まえられませんでしたでは責任も重くなる。相手も逃げ回る筈だからな」
「しかし、追いかけっこは疲れる」
坂井は気怠そうに言った。
「ああ、場合によっては百姓たちに働いてもらって追わせるのも手だ」
「その様に手を煩わせずとも、上に黙って岡っ引きの連中を使えばいいんだ」
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○
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