五八三七G3の酒の肴

V4G3

文字の大きさ
上 下
25 / 26

ホットワイン でクリスマスソング

しおりを挟む
「あぁ、急に思いっきり寒くなったよね。あ、久しぶり、ギンヤンマのおふたり。何飲んでるの?」
「ホットワイン。寒かったから」
「ホットワインって飲んだことなかったなぁ。美味しいの?」
「甘いのが嫌でなきゃ」
「甘いの好き。じゃ、一度試してみよう。じーさん、僕もホットワイン」
「ん。赤でいいかな」
「うん」
「こいつはポンと出せなくてな。ま、作り方は色々なんだが、ウチのは割とシンプルで、小鍋に赤ワインとクローブとシナモンスティック半分とレモン一片、蜂蜜を入れて沸騰直前まで温める。マグカップに注いでレモンスライスを浮かべて出来上がり」
「あ、いい香りだね
「」
「つまみは特に無いんだが、まぁ塩チョコとクラッカーにクリームチーズ載せた奴を出しとくぞ」
「あぁ、十分だよ。うん、あったまる感じだね。甘いけど、甘ったるくはない。香りが凄くいいなぁ。冬は時々頼みたい」
「気に入って何より」
「ちなみに、ワインは?」
「メルシャンの紙パックのボン・ルージュ。いいワインじゃなくていいんだ。とっておきのいいワインを勝手に味付けしちゃ勿体ない。ま、好みとしてはフルボディタイプの方が楽しめると思うけど、在るもの、飲み残しで大いに結構だ」
「ふーん、これは覚えといて家でもやる、だな」
「私たちは、家でもやってるよ」
「あとね、手抜きでマーマレード1すくい入れてワインを温めるのも、即席のわりにいいよ。寝る前に一杯、で贅沢した気分になれるの」
「へぇー、それも試してみよ。あぁ、ところで珍しくオーケストラっぽい音が聞こえるんだけど、クリスマス音楽だよね、これ。やけにホットワインに似合うんだけど」
「私たちのリクエスト。ボストンポップスのクリスマスメドレーなの。こないだ来た時、オーケストラでクリスマスメドレーやってるの聞いたことがあって良かったって話をしてて、おじいさんがフィドラーのボストンポップスだろうって。持ってるから、次来た時に聞かせてあげるって」
「じーさん、良くそんなの持ってたね」
「当たり前だ。何年クリスマスデートを重ねてきたと思ってるんだ。年の功ってもんだ」
「お見それいたしました」
「私たちクリスチャンじゃないけど、クリスマスだけはお祝い気分になっちゃうんだよね」
「日本がいかに欧米文化を信奉してるかってことだろうけど」
「じーさん、クリスマスデートを重ねてきたくせに辛辣だ」
「戦略的に利用価値を認めたまでのことよ」
「えーっ、でもクリスチャンじゃなくても、やっぱりクリスマスソングというかクリスマスミュージックが豊富だから。他にこんなに音楽のあるイベントってないでしょ」
「そうだね。讃美歌やオラトリオからポップス、J-POPまで揃ってるからね」
「坂本龍一さんの『メリークリスマス、ミスターローレンス』とかね」
「あぁ、あれは凄い曲だよね」
「ねぇ、クリスマスソングで一番のお気に入りって何?」
「そうねぇ。クリスマスによく聞くだけで、クリスマスソングじゃないかもしれないけど、『アメイジング・グレイス』かなぁ。前にちょっと古いマンガで成田由美子さんの作品で歌ってるシーンがあって、そこ結構泣けて、その歌を知りたくて探したのよ。それ以来、好きね。いろんなアメイジンググレイス聞いたわ」
「へぇ。私は『ファースト・ノエル』。 ♪まーきーびーと、ひーつーじをー♫って歌うやつ」
「知ってる知ってる。讃美歌よね、それ」
「そう。私、ミッションスクールでちょっと聖歌隊やってて、この歌が一番好きだったの。なんか『きよしこの夜』は有名すぎて飽きちゃって、宗教感強すぎる曲も、こっちは信者じゃないから申し訳なくって。この歌はシンプルな繰り返しのメロディで、平和な情景が浮かぶような歌詞で、何かね、いいニュースを伝える歌い手って感じにひたれるんだな」
「歌い手としての感想かぁ。いいね、私も好きだったけど、今度、歌ってみよう。というより、聞かせてよ」
「やよ、照れるじゃない」
「えぇ、継続交渉を望む。おじさんは?」
「おじさん? まぁ、いいか。おじさんだよな、もう30過ぎたんだから。で、おじさんとしては、若い方々に是非聞いていただきたいのが」
「拗ねないでよ」
「そういう年頃なんだ。で、好きなクリスマスソングは数々あれど、一曲となるとやっぱり、ジョンレノンの『Happy Christmas』 だ。戦争が終わりそうにない今だからこそ、この曲を聞いておきたい」
「まさにそうだな。俺が本当に若い頃の曲だけど、ジョンレノンが暗殺されたのが12月で、その年のクリスマスは、ずっと『Happy Christmas』ばっかり聞いてた気がする。争いは終わらないからこそ、争いは終わる、君が望めば、って歌は、歌い続けなきゃいけないんだろうね」
「そうだね。で、じーさんは?」
「うん、実は俺も今はやってないんだが、十年ぐらい、毎年、教会のコンサートみたいなのでヘンデルのメサイアのコーラスに参加してたことがあってね」
「えっ、じーさん、ガチのクリスチャン?」
「前にも言ったけど違うよ。純粋に歌が好きな奴に、譜が読めるならって誘われて、面白そうだなと思ってね。ホントは譜もあまり読めないんだけど、まぁ聞きゃ分かるかぐらいの緩さで」
「じゃ、メサイア? でもあれ全部って長いよね」
「そうだね。だからその中のお気に入りの1曲」
「あ、ハレルヤコーラスだ」
「も素敵だけどね。あの曲は歌うと疲れるから、パス」
「疲れるって、じゃ、なんでわざわざ歌いに行くのよ」
「人の世は矛盾に満ちてるんだ。で、ハレルヤも終わった後で、『Trumpet shall sound』って曲がある。トランペット・ソロとベースのソロが競演する力強い曲で、あれが一番好きだったな」
「あ、俺、なんとなく知ってると思う。タラッタラー、タラッタラー、タラッタターララララーって感じ?」
「おぅ、それそれ。よく知ってたね。ま、クリスマスというと、どうしてもメサイアを思い出すし、その中で一番好きだったのは、自分の歌ってたコーラスじゃなくて、この曲だったんだ」
「あぁ、こんな話してると、クリスマスソング集を作りたくなる」
「聞きたくなる、じゃなくて?」
「i-musicなんかで作ってるお仕着せのを聞くんじゃなくて、自分だけの今年の気分にあった特集を組みたいんだよね」
「そうだね。今、話してたように、自分の好きな音楽には、自分の思い出が絡んでるからね。好きな曲のプレイリストぐらい、自分で組みたいよね」

しおりを挟む

処理中です...