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無くなった矜持
しおりを挟む想いが通じ合って嬉しかった。明らかに浮かれていたのだ。私も颯も。女子校の聡い女性たちは私たちに何かあったのかを察知していたのだ。
✴︎✴︎✴︎
文化祭の準備も概ね完了してついに明日文化祭というところになった。そんな時にクラスの友人が話しかけてきた。
「あのさ、菫。最近なんか気が強そうな人に目をつけられてない?」
他の人には聞こえないようにヒソヒソ声で聞いてきた。
…確証はないが思い当たることはいくつかある。
「もしかして、竜胆さん絡みかな」
「きっとそうだよ。でもお兄さんの関係でよく話すだけでしょ?」
「そうだね」
「とりあえず、気をつけて。明日は外部の人も居るし変なことは起きないだろうけど、逆に外部の人が入れるから出来ることもあるだろうし、一応ね」
友人は私にありがたい忠告をして自宅へ帰っていった。やはり、気のせいではなかった。と、いうか今までが何もなさすぎたのだ。
園芸部の押し花の栞もできた。本当は竜胆の栞を作りたかったけど、季節的にもう少し先なので作れなった。
たまたま通りかかった教室を覗くとマリア様と颯が劇の練習をしていた。
確かロミオとジュリエットだったはず。あの2人はお似合いだなぁ、と心がモヤモヤしたが、致し方の無いことだと我慢した。
スマホが鳴った。
珍しく創士君から連絡が来ていた。用事があるから学校の外に来てとのことだった。寮に帰り外出届を出して急いで向かった。
✴︎✴︎✴︎
「菫!こっち」
創士君は部活終わりなのか制服で来ていた。うちの学校の近くのカフェに入ることになった。
「そういえば、この前竜胆さんと遊んでたとこ邪魔して悪かった。アイツらも悪気はないんだ」
「大丈夫、それより竜胆さんを庇ってくれてありがとう」
「……ちょっとは意識してくれてもいいのに」
創士君は小さい声で何かを言っていたが聞き取れなかった。
「あのさ、大丈夫?」
「何のこと?」
「いや、この間も体調悪そうだったし、最近なんか雰囲気変わったというか…」
創士君はチラリと私の首元を見た。うちの制服は襟が高いので首元はほとんど覆われていて、しかも喉の形もわかりにくいはずだ。
もしかしてキスマークが見えたのだろうか。赤い顔をして下を向いた。
「あのさ、俺のとこにすごい写真が送られてきたんだ」
「写真?」
「あの!最初に言っとくけど、偏見なんて無いし、菫が本当に幸せなら…頑張って、応援する。でも、最後には俺を選んで欲しい」
「何の話?」
全く話が頭に入ってこなかった。
「あの、竜胆さんと付き合ってるんだろ?」
「へ…」
言われたことの意味がまるでわからなかった。どうしてその話が創士君から出てくるのかもわからない。先程の写真云々はこのことか。
「竜胆さんと付き合ってそうな写真でてきた?」
私の反応が意外だったのか少し落ち込んだ様子で話してくれた。女の子同士で付き合っていると思っているのだろう。全然違うのに。
「匿名でうちの寮の部屋に2人がキスしてるような写真が入ってた。角度的にキスしてるかどうかわからないし顔も見えてないんだけど…それにこのメモが入っていた」
メモにはこう書かれていた。
『高橋菫は裏切っている。皆の竜胆凪様を独り占めしている』と。
メモからは薔薇の香りがした。
「本当に周りからそう思われていたとして、これをどうして創士君に送ったのかがわからない」
「俺が婚約者だからだろう」
全くの無関係では無いと強く言われているようだった。でも実際のところ部外者なのだ。
「さっきの答えだけど竜胆さんとは付き合って無い。そっちこそ本当に好きな人が出来たら私はいつでも別れていいと思ってる」
今まで言ったこと無かった事を初めて彼に打ち明けた。創士君は弱々しく「そうか」と笑うだけだった。
「でも、何か嫌な予感がする。菫の妹に文化祭のチケット貰ったから、明日は必ず行く」
「ありがとう」
「そのメモを俺にまで送ってくるということは相当恨みを買ってそうだな」
それほど竜胆さんの一方的な関係の打ち切りとその後の私だけの特別扱いなのだ。それはあまりにも不公平で不満が出るのは当たり前だった。
今までならこういう状況に陥ると必ず多数の意見に賛成して大人しくしていた。けれど、この前颯と想いを通じ合わせて、大切にしたい人を大切にしようと思ったのだ。
流石にめちゃくちゃなことはしないだろうとたかを括っていた。名誉が地に堕ちようが正直どうでも良かったのだ。
遠くから写真を撮る音が聞こえたが、ここは喫茶店だし食べ物でも撮っているのだろうと思っていた。
✴︎✴︎✴︎
「菫、あのさ…」
創士君は私の手を掴んできた。名残惜しそうな顔をしていた。こんな顔、初めて見た。
「もし、本当に竜胆さんが好きなら応援する。だから俺のこともっと頼ってくれ。俺は菫が幸せなのが1番だから」
「……あの、こんなこと言うのも失礼なのかもしれないけど創士君と結婚したいとは思ってるよ」
「…うそ」
「ほんと」
だってそうしないといけない理由が出来たから。
✴︎✴︎✴︎
「また、創士君?」
「ごめんなさい。どうしても大事な用事で」
颯は私の部屋で拗ねていた。それさえも愛しく感じる。
「何だが私たちがこっそり仲良くしてるのみんなにバレてるみたいで…、何故か創士君のところに密告の手紙が入ってたみたい」
「……」
颯は何かを考え込んでいた。何か心当たりがあるのだろうか。
「菫、明日は創士君とずっと一緒に居て。他の生徒に何を言われても信じないで。ついて行かないで。約束」
颯は小指を私に出してきた。それに小指を絡めて指切りした。
その後優しく抱きしめられた。……どこかで嗅いだバラの香りがした。
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