婚約者は元アイドル〜まったり過ごすつもりが波瀾万丈⁈〜

こと葉揺

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「痛いっ…アースィム離して」

「アイツマジでムカつく…」

 玄関を出たと思ったら眉間に皺を寄せてイライラした様子だった。

「僕はケーキを食べにきたんだけど、何あれ」

「わかんない…」

「…足のこと話したんだね。怒られた?」

 アースィムは申し訳なさそうに私を見つめてきた。私は首を横に振ってへにゃりと笑った。

「ツヅリは…ツヅリの中で1番の友だちは僕だよね?それは変わらないよね?」

「もちろん」

「そっか、ならいい」

 このやりとりはもう何度目になるのか。学生の頃私が異性と仲良くしているといつもこの事を確認してきた。そのあと、異性は話しかけてこなくなるのだが。アースィムにとって私が1番の友達でないといけないのかもしれない。


「…もうモモトセさんとはたくさんキスしたの?」

 それを聞かれて思わず顔を真っ赤にして俯いてしまった。

「どこまでしたの?セックスはした?」

「し、してない」

「そっかならまだ平等になれる」

 アースィムはあの足を噛んだ時のような薄暗い目をして私の方に手を伸ばしてきた。顔をカチッと固定されお互いの唇がくっつきそうになった。

「まって。……アースィム私とキスがしたいの?」

「…」

 私が問いかけるとピクリと身体を反応させたが言葉を発しなかった。

「キスしてもいいよ」

 アースィムが目を大きく見開いてこちらを見た。どうしてと顔に書いてあった。

「でも何があっても私の味方でいて。何か悪いことに手を出しているなら今すぐやめて、それを約束してくれるならキスする」

 コスモさん、モモトセの言葉を信じていないわけではなかったが、いざ目の前で迫られるとそうなのかと妙に納得した。アースィムに色仕掛けきいたんだと。

「する。約束するから、お願い。お願いお願いお願い、そのくちびるに触れさせて…」

 アースィムは涙目になって懇願していた。泣いている子どものようだとアースィムに近づこうとした時モモトセが間に入ってきた。

「約束したから。ツヅリに忠誠を誓ったってことでええ?」

 モモトセは私にちゅっとキスをするとそのあとアースィムにキスをした。

「はい、これでキスしましたということで」



「はぁぁああああ?それはないでしょ。ほんっとお前はガキかよ」

「人の婚約者に手を出そうとする人に言われたくありません~間接でもキスはキスやっちゅーねん!してもらっただけでもありがたく思え!」

「したくもねぇキス、男としちゃったしおぇぇええ」

 アースィムは完全にキャラが崩壊してしまうほど嫌がっていた。モモトセは大変してやったり顔だったが。
 流石にアースィムが可哀想だったのでおでこにキスを落とした。モモトセが横で「嫌や、やめて」と言っていたが無視をした。

「家族や友人でも挨拶でするってやつ、どう?」

 アースィムはおでこを押さえてポカンとしていたが、顔を真っ赤にして「…別にそれでいい」と言ったっきり大人しくなってしまった。

「そしたら仕切り直して、お話しませんか?」

 私は2人を再び部屋に入れてこれからのことを話しすることにした。







「んで、ツヅリは何か知ってるの?」

 アースィムは紅茶のシフォンケーキをホールごと食べると言い張り独り占めしていた。

「えっと、ハッカイさんって知ってる?」

「うん、あの時会ったよね。あの人僕のお願いを叶えてくれるんだって」

「願いって」

「ツヅリと永遠に過ごすこと」

「うわっ…」

 モモトセが思わず嫌な顔していたが私はモモトセにダメだと言って話を続けてもらうことにした。

「モモトセさんは勘違いしてるかもしれないけど、僕はツヅリに恋愛感情なんてないよ。そういうのむりだし。でも1番大切なんだ…」

 だからマウントとるのはやめろと言っていた。アースィムはどうしたってどうにも出来ないのだ。

「でも性の対象にはしてるやろ」

 アースィムは無言で固まっていた。肯定しているのだろう。

「12歳のあの事件の後、親がハッカイさんを頼ってここのクゼ家が所有する居住区に引っ越しさせてもらったんだ。そこで、ツヅリという女の子を気にかけて欲しいとハッカイさんから言われてた」

 アースィムはもしゃもしゃとシフォンケーキを食べながら話していた。

「で、最初はこんな地味な女何があるんだと思ってたけど親切にしてもらったし、一応言われたことは守ってたんだ。そしたらいつのまにか大切になってた。でも僕がツヅリを噛んじゃったから、お仕置きという名の洗脳を受けたんだ」

 そこではずっとVRの仮想空間に入れられて家族が惨殺されるのを永遠に見させられたり、私から性的に迫られるのを続けられたりしたらしかった。

「それで完全に弱っちゃって、つい約束をしてしまったんだ。ツヅリを僕にくれる代わりに役目が済んだらツムギとカタリを殺すと」

 アースィムはシフォンケーキを食べ切り、フォークをお皿に置いた。

「ツヅリは知らないだろうけど、僕軍事訓練を受けていたんだ。だから依頼されたんだろう。でもツムギさんとカタリさんはツヅリの親だ。最初は出来ないと抵抗していたけど体力の限界だったんだ。家族を殺すと脅された。本当にごめん」

「もし、それを守らなかったらアースィムはどうなるの?」


「わかんない。消されるんじゃない?でもどうだっていいよ。僕はここでは願い事は絶対に叶わないんだから」



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