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プロローグ
助言者は可愛らしい魔物
しおりを挟む「なるほど…」
とりあえず、彼を助けてから今に至るまでのことを話した。
彼こと、ルカ・オルタ・モンドラゴンは帝国の第二王子らしかった。王族にドラゴンの血が入っていることさえ知らなかったらしい。
彼は何かを考え込むように頭を捻っていた。
「身を隠しているって事?」
鋭い指摘がきた。派遣されていたことも逃げていたことも話していなかった。
「…まぁいいや。お世話になります」
椅子に座っているはずだが姿勢を崩してダラけていた。
…あまりにも小説とイメージが違いすぎた。
小説の中での彼は戦闘狂の殺人鬼だった。無口で残忍。目が合うと殺されるとの噂だったが、どうだろう。
目の前にいるのは体のでかいダラけた大人だった。彼はそのまま天井を見たままボーッとしていたのでそっとしておくことにした。
ふと、窓から外を見てみると何だがお花畑が出来ていた。昨日まではなかったはずだ。畑をするために更地にしてそのまま置いてあった場所だった。
そこに紫色のアネモネが咲き誇っていた。
「綺麗…」
ここはマナが穏やかに満ちていた。昼寝をしたくなるほどの心地よさだった。
ドラゴンを覚醒させるのは怖いが、一度覚醒させてしまわないと聖女に対抗できる力は手に入れられない。そうなると戦争は逃れられない…。
何度も同じ事を考えては隠居したいという気持ちしかなかった。しかし、契約をしてしまったものは仕方ない。
「腹減った」
いつの間にか彼は私の後ろに立っていた。背の高い彼は私の顔を上から覗き込んでいた。
「すぐに何か用意します」
「んー…」
そう言ったが私の事を抱きしめて花畑にゴロンと寝転がった。
「…あの、これじゃ何もできないんですけど」
「魔法使いは何でもできるんじゃ無いの?」
つまりご飯も魔法で作れると言っているのだろう。
「なんでもは出来ません。それに貴方と契約して魔法の幅は広がりましたが、何ができるかはわかっていません」
「じゃあやってみてよ」
ご飯よ~現れろ~~っとやってみたが何も起こらずにシーンとしていた。
「こうしてるとなんか満たされるからいいや」
彼は私の事を抱き枕かなんかと思っているのかガッチリと抱きしめられて身動きが取れなかった。
すると花畑の奥の方から黒いうさぎがぴょんぴょん跳ねてきた。
『大変!助けて!』
うさぎがしゃべってる…
『あ、ここにシェリアとルカが居る…。謎の組み合わせだけど自分の作ったキャラがいるなんてすごい…』
このうさぎには初めて会うのに既視感があった。そう、友人茉莉花だ。
「何かお困りで?」
私が問いかけると彼にうさぎに何話しかけてるのやばいヤツみたいな顔をされた。彼にはうさぎの声が聞こえていないのか。しかしその顔はものすっごく腹立つ顔をしていた。
『ウチの声聞こえるんですか?やったー!ウチ、ここに転生してきた…ってもわからないか。元聖女のマツリカなんです。なんでか知らないけど気づいたら魔物になってて驚いてるんです~』
「転生ってことはやっぱり茉莉花なの?」
『ウチのこと知ってる人?もしかして ?』
転生前の名前を呼ばれたが、何故かノイズが入り聞こえなかった。しかし直感で以前の私の名前を呼ばれた事はわかった。
「そう!そうだよ。いつも小説読んでた。私も何故か転生してる事に数日前に気付いて殺されそうなところを逃げ出してきたの」
彼は私たちの話を全く理解できないからか話しの輪から外れて寝そべっていた。
『え~!やっぱり話の流れがおかしいな…。あの、今の聖女・マツリカは多分世界征服を企んでそうなんだ』
「…どういう事?」
『聖女は聖典っていうアイテムを持ってる。そこに書いたことが現実に起こるっていうノートで代償はあるけど、自分の思い描いた未来を過ごすことができるチートアイテムなんだ』
あの時に持っていたやつか。デスノート的なものなのだろう。つまりそれを利用して私の行動なども変えられていた訳だ。
どうやら原作者の考えた小説の展開的には聖女が降り立ち、ラ・フォア王国とオルタ・モンドラゴン帝国が聖女の取り合いのため、戦争をするが、聖女が戦争反対を唱え、魔法国・ユグドラシルへ逃げ込み魔法使いと共に抗議をして平和条約をなされて、そこにまた惚れたシャルルと幸せな結婚をしたというシナリオだったらしい。
しかし、今は大きく話の筋から外れているらしい。最初は聖女・マツリカとして生きていたが、数ヶ月後にうさぎになったそうだ。そこからは王国の城に隠れてマツリカの言動を見ていたが、どうやらシャルルを操り、この世界の支配者になろうとしているらしかった。
「なんか、ヤバいってことだけはわかったわ」
『ウチよりヤバめな人いるとは思わなんだ』
「そもそも茉莉花が考えていたシナリオはドラゴンの血が入っているとかそういうの結局関係なかったしね」
『無駄に設定だけ凝ってしまって…。本当はオルタ・モンドラゴン帝国のことも書きたかったけど、どうしたってイチャイチャが書きたかったんだ!それに設定を考えてる時が楽しいじゃん?盛り盛りに設定作るじゃん?でも実際執筆し始めてみるとこの設定使わんかったな~ってのあるじゃん』
「まぁ、そうかもだけど。でも詳しい設定を知っている他の転生者っていう事になるのかもね。今の聖女は」
私たちはこの話をきっと2人でしかしていない。茉莉花は有名になりすぎて私にしか小説の話をしていなかった。
『ウチ、メモとか設定を小説投稿サイトに書いてたからそこから情報が漏れたのかもな~。今はその話は置いといて、とにかく聖典をこっちに持ってくるのが先決』
そんなこと可能なのだろうか。現マツリカはきっと聖典を厳重に保管してあるだろう。しかも結構先の話まで書き進められていると埒があかない。
「理想論はそうだけど、取り返すのは難しいよね…」
『うーむ、どうしよう…』
あまりにも話に夢中になっていて、彼を放置していたら、先程より顔色が悪くなっていた。ノソノソと私の方に近づいてきていた。
「話、もう終わり?腹減った」
彼がまた私に抱きつき全体重をかけてきた。この大きな大人にこれをされると正直重たい。茉莉花は私たちの様子を見て発言した。
『ルカの魔力がたりてないね。もしかして契約した?』
「え、わかるの?」
『魔物になってからわかるようになった』
彼は相変わらず茉莉花の声は聞こえてないようで1人で話している事にキョトンとしていた。
『ルカは体内に魔力が溜まりすぎて器が壊れそうだから、発散するために暴力的になってたんだ。魔法剣を媒介に体内の魔力を分散させてた。でもシェリアと契約したのならルカのオドを取り出して、マナに変えてあげて、またシェリアがマナを取り込んでルカに適量返してあげればいい』
なるほど、そういう仕組みだったのか。私が魔力のゲートの代わりをするということだ。
『KISSだよ。KISS。1番効率がいい。てかシャルルとマツリカもKISSで魔力を分けっこしてたでしょ?』
「キスなんて…!!」
彼は茉莉花の声が聞こえてないはずなのに、ピンときたのか私にキスをしてきた。唇に少し触れたかと思うと顎に手を添えられて口を軽く開かされた。そしてスゥと魔力を吸われた。
彼は要領がいいのか適量を自分で吸い元気な顔になっていた。
「ごちそうさま」
そう言った彼の顔はいたずらな笑みを浮かべていた。
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