転生魔法使い令嬢はラスボス悪役令嬢になります

こと葉揺

文字の大きさ
3 / 27
プロローグ

助言者は可愛らしい魔物

しおりを挟む


「なるほど…」

 とりあえず、彼を助けてから今に至るまでのことを話した。
 彼こと、ルカ・オルタ・モンドラゴンは帝国の第二王子らしかった。王族にドラゴンの血が入っていることさえ知らなかったらしい。
 彼は何かを考え込むように頭を捻っていた。

「身を隠しているって事?」

 鋭い指摘がきた。派遣されていたことも逃げていたことも話していなかった。

「…まぁいいや。お世話になります」

 椅子に座っているはずだが姿勢を崩してダラけていた。
 …あまりにも小説とイメージが違いすぎた。
 小説の中での彼は戦闘狂の殺人鬼だった。無口で残忍。目が合うと殺されるとの噂だったが、どうだろう。
 目の前にいるのは体のでかいダラけた大人だった。彼はそのまま天井を見たままボーッとしていたのでそっとしておくことにした。








 ふと、窓から外を見てみると何だがお花畑が出来ていた。昨日まではなかったはずだ。畑をするために更地にしてそのまま置いてあった場所だった。

 そこに紫色のアネモネが咲き誇っていた。

「綺麗…」

 ここはマナが穏やかに満ちていた。昼寝をしたくなるほどの心地よさだった。

 ドラゴンを覚醒させるのは怖いが、一度覚醒させてしまわないと聖女に対抗できる力は手に入れられない。そうなると戦争は逃れられない…。

 何度も同じ事を考えては隠居したいという気持ちしかなかった。しかし、契約をしてしまったものは仕方ない。




「腹減った」

 いつの間にか彼は私の後ろに立っていた。背の高い彼は私の顔を上から覗き込んでいた。

「すぐに何か用意します」

「んー…」

 そう言ったが私の事を抱きしめて花畑にゴロンと寝転がった。

「…あの、これじゃ何もできないんですけど」

「魔法使いは何でもできるんじゃ無いの?」

 つまりご飯も魔法で作れると言っているのだろう。

「なんでもは出来ません。それに貴方と契約して魔法の幅は広がりましたが、何ができるかはわかっていません」

「じゃあやってみてよ」

 ご飯よ~現れろ~~っとやってみたが何も起こらずにシーンとしていた。

「こうしてるとなんか満たされるからいいや」

 彼は私の事を抱き枕かなんかと思っているのかガッチリと抱きしめられて身動きが取れなかった。
 すると花畑の奥の方から黒いうさぎがぴょんぴょん跳ねてきた。


『大変!助けて!』

 うさぎがしゃべってる…

『あ、ここにシェリアとルカが居る…。謎の組み合わせだけど自分の作ったキャラがいるなんてすごい…』

 このうさぎには初めて会うのに既視感があった。そう、友人茉莉花だ。

「何かお困りで?」

 私が問いかけると彼にうさぎに何話しかけてるのやばいヤツみたいな顔をされた。彼にはうさぎの声が聞こえていないのか。しかしその顔はものすっごく腹立つ顔をしていた。

『ウチの声聞こえるんですか?やったー!ウチ、ここに転生してきた…ってもわからないか。元聖女のマツリカなんです。なんでか知らないけど気づいたら魔物になってて驚いてるんです~』

「転生ってことはやっぱり茉莉花なの?」

『ウチのこと知ってる人?もしかして   ?』

 転生前の名前を呼ばれたが、何故かノイズが入り聞こえなかった。しかし直感で以前の私の名前を呼ばれた事はわかった。

「そう!そうだよ。いつも小説読んでた。私も何故か転生してる事に数日前に気付いて殺されそうなところを逃げ出してきたの」

 彼は私たちの話を全く理解できないからか話しの輪から外れて寝そべっていた。

『え~!やっぱり話の流れがおかしいな…。あの、今の聖女・マツリカは多分世界征服を企んでそうなんだ』

「…どういう事?」

『聖女は聖典っていうアイテムを持ってる。そこに書いたことが現実に起こるっていうノートで代償はあるけど、自分の思い描いた未来を過ごすことができるチートアイテムなんだ』

 あの時に持っていたやつか。デスノート的なものなのだろう。つまりそれを利用して私の行動なども変えられていた訳だ。

 どうやら原作者の考えた小説の展開的には聖女が降り立ち、ラ・フォア王国とオルタ・モンドラゴン帝国が聖女の取り合いのため、戦争をするが、聖女が戦争反対を唱え、魔法国・ユグドラシルへ逃げ込み魔法使いと共に抗議をして平和条約をなされて、そこにまた惚れたシャルルと幸せな結婚をしたというシナリオだったらしい。

 しかし、今は大きく話の筋から外れているらしい。最初は聖女・マツリカとして生きていたが、数ヶ月後にうさぎになったそうだ。そこからは王国の城に隠れてマツリカの言動を見ていたが、どうやらシャルルを操り、この世界の支配者になろうとしているらしかった。

「なんか、ヤバいってことだけはわかったわ」

『ウチよりヤバめな人いるとは思わなんだ』

「そもそも茉莉花が考えていたシナリオはドラゴンの血が入っているとかそういうの結局関係なかったしね」

『無駄に設定だけ凝ってしまって…。本当はオルタ・モンドラゴン帝国のことも書きたかったけど、どうしたってイチャイチャが書きたかったんだ!それに設定を考えてる時が楽しいじゃん?盛り盛りに設定作るじゃん?でも実際執筆し始めてみるとこの設定使わんかったな~ってのあるじゃん』

「まぁ、そうかもだけど。でも詳しい設定を知っている他の転生者っていう事になるのかもね。今の聖女は」

 私たちはこの話をきっと2人でしかしていない。茉莉花は有名になりすぎて私にしか小説の話をしていなかった。

『ウチ、メモとか設定を小説投稿サイトに書いてたからそこから情報が漏れたのかもな~。今はその話は置いといて、とにかく聖典をこっちに持ってくるのが先決』

 そんなこと可能なのだろうか。現マツリカはきっと聖典を厳重に保管してあるだろう。しかも結構先の話まで書き進められていると埒があかない。

「理想論はそうだけど、取り返すのは難しいよね…」

『うーむ、どうしよう…』

 あまりにも話に夢中になっていて、彼を放置していたら、先程より顔色が悪くなっていた。ノソノソと私の方に近づいてきていた。


「話、もう終わり?腹減った」

 彼がまた私に抱きつき全体重をかけてきた。この大きな大人にこれをされると正直重たい。茉莉花は私たちの様子を見て発言した。

『ルカの魔力がたりてないね。もしかして契約した?』

「え、わかるの?」

『魔物になってからわかるようになった』

 彼は相変わらず茉莉花の声は聞こえてないようで1人で話している事にキョトンとしていた。

『ルカは体内に魔力が溜まりすぎて器が壊れそうだから、発散するために暴力的になってたんだ。魔法剣を媒介に体内の魔力を分散させてた。でもシェリアと契約したのならルカのオドを取り出して、マナに変えてあげて、またシェリアがマナを取り込んでルカに適量返してあげればいい』
 
 なるほど、そういう仕組みだったのか。私が魔力のゲートの代わりをするということだ。

『KISSだよ。KISS。1番効率がいい。てかシャルルとマツリカもKISSで魔力を分けっこしてたでしょ?』

「キスなんて…!!」

 彼は茉莉花の声が聞こえてないはずなのに、ピンときたのか私にキスをしてきた。唇に少し触れたかと思うと顎に手を添えられて口を軽く開かされた。そしてスゥと魔力を吸われた。
 彼は要領がいいのか適量を自分で吸い元気な顔になっていた。

「ごちそうさま」

 そう言った彼の顔はいたずらな笑みを浮かべていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです

ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。 転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。 前世の記憶を頼りに善悪等を判断。 貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。 2人の兄と、私と、弟と母。 母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。 ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。 前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。

処理中です...