14 / 69
5 エルツ視点
しおりを挟む……あの時は息子の紹介をしたくて、と言っていたが、ここには何のために来たのだろうか。
ブラウさんは、なんとかして失礼のないようにゴルトを帰らせようとしていたが、ゴルトは引き下がらなかった。
「御当主はパーティーに参加しているのだろう? 今日のパーティーは一人しか参加できないから、御子息は着いて行っていないはずだ。一人はどこか別のところに出かけていたとしても、もう一人いるはずだし、もし二人とも家にいないのなら君も誰かに着いて行っているはずでは?」
そう言われたブラウさんが何も答えられずに黙っていると、サフィーロ様の声が聞こえた。
「申し訳ありません、ゴルト様。体調を崩していたので、お客様が来てもお帰り頂くように言っていたんです」
足音が玄関の方に向かっていく。
「ああ、そうでしたか。来るタイミングが悪かったですね。以前会った時に息子の話をしたでしょう? 早く紹介がしたくて、今日連れて来たんですよ。ほら、挨拶をしなさい」
ゴルトがそう言うと外国語が聞こえた。
「〈はじめまして。しばらく外国にいたため、自国語を忘れてしまいまして……申し訳ないですが外国語で会話をしていただけると助かります〉」
……誰も何も返事をしなかった。
少しの沈黙の後、サフィーロ様がゴルトに言った。
「恥ずかしながら私は外国語が話せないのです。せっかくお越しいただいたところ申し訳ありませんが、今度父と一緒にゴルト様のお屋敷に伺いますので、その時にもう一度ご紹介いただけませんか」
「そうでしたか! それは失礼しました。まさか外国語を話せないとは。そんな事あるわけないと思っていたので、何も考えずに急に来てしまいました」
ゴルトは小馬鹿にするような言い方をした後に、小声でサフィーロ様に言った。
「他の家の人はあなたが外国語を話せないという事を知らないのでは?」
「いえ、皆様ご存知です」
サフィーロ様がそう答えると舌打ちの音が聞こえ、その後にゴルトの息子がゴルトに話しかけた。
「〈そんな態度とっていいの? この家はそこまでお金がなさそうには見えないけど……〉」
「〈私にとっては貧乏一家だよ。それに後継者はコイツではなく弟だろうからな。まあ、最近は弟の方は問題行動ばかり起こしているようだから、もしかしたらコイツが継ぐ事になるのかもしれないがな〉」
「〈どうして弟が後継者なの?〉」
「〈コイツは養子なんだよ。本来なら使用人と同じ扱いでいいのに敬語を使って話してやってるんだ。感謝して欲しいくらいだよ〉」
「〈へえ、そうなんだ〉」
「〈まあ、コイツが継ぐ事になったとしても血が繋がってなくて外国語も話せないこんな出来損ないが——〉」
ガシャンッ
突然大きな音がした。
「グラナート!」
サフィーロ様が大きな声でグラナート様の名前を呼ぶ。
グラナート様が何かしでかしたのだろう。
ワハハッとゴルトの笑い声が響き渡った。
「元気がいい弟さんですね。お兄さんも大変でしょう。私が通訳をして息子の紹介を……と思いましたが、今日はやめた方が良さそうですね。貴方も体調が悪いようですし」
「……申し訳ありません」
サフィーロ様が謝った後にバタンッと扉の閉まる音が聞こえた。
「ごめんサフィーロ。ボクがちゃんと追い返せていたら……」
「いや、謝る事はないよ。そもそも僕が外国語を話せないのがいけないんだから、むしろ僕が謝るべきだよ。……恥をかかせてごめんな」
「恥なんて……そんな事ないよ」
ブラウさんがそう言った後、一人の足音が遠ざかっていった。
私はそっと顔を出して玄関を見ると、ブラウさんが拳を握りしめて下を向いていた。
今は話しかけない方がいいのだろうか……
そう思っていたら、ブラウさんがいきなり私の方を向いて目が合った。
私に気がついたブラウさんは、無理に笑顔を作る。
「掃除の続きをやろうか」
「……はい」
私は掃除用具を持ってブラウさんの元に行った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
391
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる