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8 過去の話 サフィーロ視点
しおりを挟む一ヶ月後、僕はお父様の部屋に呼ばれた。
「失礼します」
お父様の部屋に入る。
お父様はあまり眠れていないのか、とても顔色が悪かった。
「グラナートの事なんだが……」
「はい」
グラナートは一ヶ月前と変わらず何を言っても反応がなくて、最近は食べる量が少なくなり以前よりも痩せてしまっていた。
「母親が死んだという現実を受け止められないのなら、母親の存在自体をなかった事にすればいいんじゃないか?」
「え……」
僕はお父様の言っている意味がわからなかった。
グラナートがもっと幼ければ成長するにつれお母様の記憶が薄れていって、いつかお母様の事を忘れるかもしれないが、グラナートはもう十歳だ。
記憶を消すなんて事はできないし、お父様は一体どうするつもりなのだろうか……
「家全体を改装して母親の思い出のものをなくし、母親の話は一切しないようにしたら、元から母親なんていなかったと思わせる事ができるんじゃないか?」
「そんな……」
「このまま何もせず時間に任せたとしてもグラナートが立ち直ることは難しいだろう。何かしら手を打たないといけないが、私にはこの方法しか思いつかなかったんだ……」
家の改装の間、僕達はお父様の親戚の家にお世話になった。
グラナートには改装の事は伝えずに親戚の家に連れていったが、グラナートは何も気にする様子はなく親戚の家でも抜け殻のような状態だった。
改装が終わり家に帰ると外観からがらりと変わっていた。
家を出る時は抵抗する事なくお父様の後をついていったグラナートが、新しくなった外観を見るとピタッとその場に立ち止まる。
「何をしているんだ。早く来なさい」
お父様は、まるで今までと何も変わっていないかのような口ぶりでそう言った。
グラナートは何が何だかわからない様子で家の中に入る。
家の中は明るい色をベースとした内装から、暗い色をベースとした内装に変わっていた。
グラナートは家に入ってすぐに立ち止まって唖然とした表情で家の中を見渡している。
使用人達はお父様の指示に従い、普段通りにそれぞれの持ち場に行った。
そんな使用人達の姿を見て、グラナートは更に戸惑っているようだった。
僕はグラナートの事が気になったが、お父様に言われた通りに何事もなかったように自分の部屋に向かった。
グラナートは大丈夫だろうか。
この方法で立ち直ってくれるだろうか。
僕は不安でいっぱいだったが、家の改装後グラナートは一時的に以前よりも塞ぎ込んで自分の部屋には誰も入れずに食事も取らなくなったが、少しずつ立ち直って以前の元気な姿に戻っていった。
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