【完結】少しでもあなたの力になれたなら

優希

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4 グラナート視点

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 俺が小さい頃、使用人の女達は兄様にだけ媚を売っていた。

 俺はそれが気に食わなかったが、今思えば女達は兄様と結婚がしたくて必死だったのだろう。

 だが、次第にアイツらは兄様に良い印象を持たれるためなら手段を選ばないようになった。

 わざと床を滑りやすい状態にしておき、兄様が転んだところに駆けつけて心配をしたり、兄様の食事にこっそりと何かを入れて、兄様の体調が悪くなると甲斐甲斐しく看病したり……

 大人にはバレないようにしていたが、子どもの俺は何を見てもわからないと思ったのだろう。

 そんな事が続き、俺の女達への信用がなくなっていた時に新しい女性の使用人が家にきた。

 その人は今までの女達とは違い、誰かを特別視する事なく俺に対しても兄様と同じ対応をしてくれた。

 この人は信用してもいいのかもしれない、と思っていた時、俺は兄様が養子だということ知らされた。

 その日の夜、父様は家の人間を集めると俺を後継者にするつもりだと話した。

 それから使用人の女達は俺に対して媚を売るようになったが、俺は更にそいつらのことが嫌になった。

 ある日の夜中、例の新しい女性の使用人が俺の部屋に訪ねてきた。

 他の使用人にイジメられていて困っているから話を聞いてほしい、と言われた俺は女性を部屋に入れた。

 扉を閉めると女性は下を向いて声を震わせながら他の使用人からどんな扱いを受けているのかを話し出した。

 女性は話が終わると、助けて欲しいの、と言って俺に抱きついた。

 驚いた俺は咄嗟に女性を引き離したが、その時に一瞬だけ女性の顔が見えた。

 女性は、他の使用人の女が兄様に自分をよく見せようとして失敗した時と同じ顔をしていた。



「……あの女達はこの家に嫁ぐためなら、どんな事だってするんだ。いい人に見えても腹の中では何を考えているのかわからない。だから俺は追い出そうとして……」

「そうでしたか。家の外の人に対しての態度も悪くなったのは何故ですか?」

「それは……俺が後を継ぐのは無理だと思って欲しくて……」

 俺が継いだらダメなんだ。兄様がこの家を継がないと……

「家の外の人に対しても悪い態度をとれば、旦那様がグラナート様を後継者にするのは無理だと思ってサフィーロ様を後継者にするだろう、と考えたのですか?」

「……ああ」

「ご自身がそう考えているという事を旦那様やサフィーロ様にお伝えした事は?」

 ……何を言っているんだ?

 俺はちゃんと伝えていただろう。

 エルツの目の前でも言ったじゃないか。

「俺は、自分は継ぐ気はないと何回も言って——」

「どうして継ぐ気がないのかを説明しましたか?」

 エルツは俺の言葉を遮って、いつもより少し強い口調で言った。
 
「どうしてって……」

 そんな事わざわざ言わなくてもわかっているだろう……?


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