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2日目 動物園デートは山あり谷あり!?

2ー2

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 入場ゲートの前でチケットを買い、一緒に園内のパンフレットがついてきた。


「北極熊が見たいなー」


 悠人は声を弾ませパンフレットを広げると、隣から颯も覗き込む。


「「…………!!」」


 二人が絶句するのも無理はない。
 お目当ての北極熊が展示されているのは園内でも一番遠い場所だ。


 山の上にある動物園の中はとても広くて坂道も多い。


 とはいえ、体力の衰えを感じる二人でも一回り出来ないほどでもない。

 それでも思ってしまうのはきっと互いに同じ事。
 ──少しでも楽がしたいと。


「や、やっぱり北極熊は今度でいいかな……!」

「だ、だよなー!ヤギの餌やりなんてどう?ほら、もう見えるし!」

「あー、やりたい!実はめちゃくちゃやりたかった!!」

「「アハハハハ……」」


 こうして二人は、園内に入ってすぐにある触れ合いゾーンに切りかえたのだった。


 カップに入ったヤギ用の餌を購入して柵の中に入ると、近付く前にヤギの方からやってきた。


 餌をやってもきりなく欲しがるヤギの群れに、颯は三度も買い足して餌やりをした。

 群がるヤギのつぶらな瞳に負けて四度目の餌を購入しようとした時、悠人に腕を掴まれて、強引に触れ合いゾーンから引っ張り出された。


「颯ちゃんは一体いつまで餌をあげる気でいんの?」

「取りあえず10回までなら」

「ヤギ達にとって颯ちゃんはカモだな。ネギ背負しょったカモ」

「失礼なやつめ。あの綺麗な瞳で見つめられたら断れないだろ!」


 こうして触れ合いゾーンを抜けると鳥やキリンを見た。


 この暑さで展示を中止している動物もいたが、自然豊かな園内でのびのびと暮らす動物たちを見られた二人は終始笑顔が零れる。


「そういえば颯ちゃんさ、昔来た時……ここにいるどんな動物より悠人がいいよって言ってたよな。あれって褒め言葉だったの?」

 悠人は難しい顔をして、胸の前で腕組みをして言った。

 突然羞恥心を刺激する攻撃を食らった颯はピタリと足を止め、意識が飛んでいるような遠い目をして空を眺めた。


「もしも過去に行ける力があったとしたら、俺は迷わずその頃の自分を殴りてぇ……」


「あ、それとさー」


 まだ何かあるような口ぶりの悠人に、これ以上言われては面倒だと全速力で逃げ出した。

「待ってよ、颯ちゃん!」


 颯が逃げ込んだのは森の中の小さな家、夜の生き物ゾーン。


 薄暗いエアコンの効いた室内は、ひんやりとしていて心地良かった。


 悠人はガラスに張りつき、真剣な顔をしてコウモリを探している。

 賑やかな外とは違い、ここだけ人がいなかった。


『颯ちゃんにトキメキたい!』


 ふと悠人の言葉が、颯の頭の中によぎる。


 このままでは、今日も悠人が求めるものをあげられないだろう。

 そんな事を考えながらチラリと横目で悠人を見ると、聞こえないよう静かに深呼吸をする。


 しかし、いざ声をかけようと思うと喉がキュッと詰まったように声が出ない。

 このままじゃダメだと、首を振り意を決して無理やり声を出す。


「あのさ、悠人」


「うん?」


 首を傾げて見つめる悠人の視線に気付いても、颯は真っ直ぐ前を向いているだけで精一杯だった。


「──手、繋ぐか」


 颯はガラス越しに飛び交うコウモリを見つめ、遠慮がちに悠人の方に片手を差し出した。


「……」


 無言の悠人に、何かいけなかったのかと背中には冷たい汗が流れた。

 すると、悠人はズボンのポケットからハンカチを出して広げると、端を持って反対側を颯の手のひらに乗せた。


「え?何?」


 訳が分からずハンカチと悠人を交互に見て、目をぱちくりとさせた。


「手汗ムリ。キモい」


 要約すると、この暑いのに汗かいてる手なんか握りたくないから、ハンカチを挟んでなら許すという事らしい。


「……」


 ハンカチの端と端を握って動物園にいるおっさん二人。
 何とも異様な光景である。


「これ、おかしくね?犬の散歩じゃねぇんだからさ」


 そこへ、ガラッと音を立てカメラを持った男性客が一人入ってきた。


 優しい暖色のライトに照らされる二人は、どんな状況なのかハンカチで繋がれている。

 男性は怪訝そうな顔をして二人を見つめていたが、関わってはいけないと思ったのかきびすを返していってしまった。


「……やっぱさ、これ……おかしくね?」

 男性が出ていった扉を見つめ、顔をしかめて不満を零した。


 対照的に悠人は涼しい顔をして歩き出す。


 颯は空いている手をじっと見つめじんわりと汗が滲む手を服で拭った。

 そんな颯を横目で見て、一歩先を歩く悠人の口元は綺麗な弧を描いていた。


 トキメキを取り戻そうと頭を抱えて手探り状態である現在。
 しかし、何気ない日常は少しの意識で変わるのかもしれない。


 端と端を握ったハンカチから相手の温もりは感じられないが、二人の周りには温かな空気が包んでいた。


 室内を一回りして外に出ると、目がくらんで二人は思わず顔を背けた。
 ひんやりと冷えた体は一気に冷気を奪われて、服の中はじんわりと汗が滲む。


 気付けばすっかり昼食を食べ損ねて、腕時計の針はおやつの時間を指していた。


「腹減らね?」

「すげぇ減った。颯ちゃん何食べたい?」

「取りあえず、近くのレストランでも入るか」

「賛成!」


 二人の意見が一致して、悠人は張り切ってパンフレットを開く。

 ここからもう少し奥に行ったところには、レストランや休日限定でキッチンカーが集まる広場があるようだった。



「「…………」」


 悠人は静かにパンフレットを閉じた。

 二人は作り笑いを浮かべて顔を見合わせると、互いの考えを一瞬で察したようだ。


「帰るか」

「うん」


 これ以上出口から遠ざかりたくない思いは同じ、空腹よりも楽を選んだのである。

 人間の三大欲求よりも優先すべきものを見つけてしまった二人は、これからどうなっていくのだろう。



 こうして二日目のトキメキ探しも大きな報酬がないまま終わったのだった。
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