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4日目 友人はオネェ様!?
4ー2
しおりを挟む長かった髪はさっぱりと切り揃えられ、髪色はくすみのあるアッシュブラウンに変わった。
前髪も短くなって視界も広い。
「色は地味だけど、こんなものかしら?悠ちゃん何でも似合うから、これで彼もまた悠ちゃんに夢中になること間違いなしよぉ~!」
「それは期待出来ないけど、タカちゃんの腕は確かだから俺は気に入ってるよ」
「んもう!褒めても料金はきっちりもらうわよぉ~!」
「あ~やっぱりダメかぁ」
悠人にとって、こんな風に気軽に冗談を言える時間が楽しかった。
この後は一緒に昼飯を食べる約束をしている。
着替えをしてくるという貴史に、悠人は店内をふらふらしながら待つ事にした。
壁にかかっている振り子時計は11時半を差していて、ポケットからスマホを取り出した。
颯が起きているか確認しようと通話ボタンを押しかけたが、約束がある今日は流石に起きてるだろうと思い直し、そのままスマホをポケットに入れた。
「お待たせ~!お腹空いたわぁ~。早く行きましょう!」
「うん、行こっか」
店を出て向かうのは、貴史がオススメの和食店。
産地にこだわり、厳選した食材だけで作った料理を提供してくれる完全個人の店だ。
「本当にここで良かったの?写真映えするカフェとかでも良かったのに」
「いいのいいの。ゆっくり話すには個室の方がいいじゃな~い?それより悠ちゃん、どこかにいい男いな~い?紹介してよぉ~」
「俺の周りは妻子ある男ばっかりだからなぁ」
「最近全然出会いがないのよぉ~。この前もマッチングアプリで知り合った男と飲みに行ったのよぉ。そしたらなんて言ったと思う?『もっと可愛げがあると思った』ですって!失礼しちゃうわ!んもう!」
「タカちゃんの事だから、ガンガン日本酒でも煽ってたんじゃねぇの?」
「嫌だ!どうして分かったのぉ~?悠ちゃん、占い師に転職できるわよ!」
「せめて最初だけでもカクテルとかにしてみたら?」
「猫被ったっていつかはバレるじゃな~い。それで息苦しい思いするくらいなら、最初からこのままのアタシを好きになってくれる男がいいの!」
そんな話をしていると、注文していた料理が運ばれてきた。
漆塗りの器の蓋を持ち上げて、中から出てきたのはふわふわの親子丼だ。
湯気と共に甘塩っぱい良い匂いが広がる。
「ここの親子丼、絶品なんだからぁ~!」
「いただきます!──本当だ!めっちゃ美味い!」
トロトロの卵と出汁がよく染み込んだ鶏肉の相性が抜群だ。
久しぶりに会った貴史との時間は本当に楽しくて、話は尽きなかった。
そして話題は、トキメキ探しに──
「ねぇ、悠ちゃん。どうしてまたトキメキ探しなの~?話を聞く限り、不仲ではなさそうじゃな~い?」
甘党の貴史は、食後に頼んだあんみつに黒蜜を垂らしながら言った。
悠人は空いたグラスの中に残った氷をストローで掻き混ぜて、カラカラと音を立てて頬杖をついて考える。
「んー、仲はいい方だと思うんだけどね」
「何よぉ!煮え切らない答えねぇ~!はっきりしなさいよ!」
貴史は不満そうにテーブルを叩いた。
何でもはっきり言うところは、貴史の長所でもあり短所でもある。
「なんて言うのかな……。付き合いが長くなると色々変わるじゃん?前はちょっとコンビニ行くだけでも一緒に行ったのに、二人で出掛ける回数が少しずつ減ってきたり、帰りが遅くなる時に連絡してくれなくなったりさ。今まであったものがなくなるって、少し寂しいよな。これから先、俺達はどうなるんだろうって考えたら、このままじゃダメだって思ったんだよ。……あ、でも休みに入ってからは一緒に出掛けてるんだけどさ」
ずっと胸の奥に秘めていたモヤモヤとした思いを、初めて誰かに話した。
貴史が何も言わずに最後まで聞いてくれたから、全部話せたのだろう。
あんみつを口に運び、ゆっくりと咀嚼する貴史は、一度も悠人から目を逸らさなかった。
どこか緊張感が漂い、膝の上に置いた手には無意識に力が入る。
次に貴史から飛び出したのは、予想外の言葉だった。
「悠ちゃんって、案外面倒なタイプなのね」
自分でも重い方だとは思っていた。
だけど今まで一度も面と向かって言われた事がないだけに、思いきり頭を殴られたような衝撃を覚えた。
「……そう、なんだろうな。これじゃ颯ちゃんだって、ときめかないのも仕方ないな」
明らかに下がった声のトーンに、貴史はスプーンを突きつけて言った。
「んもう!勘違いしないで!貶してるつもりはないんだから。そうねぇ~。悠ちゃんはもっとポジティブに考えたらいいのよ!」
「ポジティブかー……」
「そうそう。例えば……アタシが食べたこのあんみつ!空の器を見て大好きなものがなくなってしまって残念に思うか、またこのあんみつを食べに来る為に明日から頑張ろうと思うか。考え方の違いよ!悠ちゃん、自分の人生を誰かに委ねちゃダメよ。自分で楽しくしなくちゃ!そ・れ・に、ニコニコ笑って楽しそうにしてる女の方が男にモテるのよ~!」
「俺は男なんだけど。──けど、ありがとう。もう少し自分の意識を変えてみるよ」
貴史の言葉はスッと胸に入ってくる。
素直に感謝を伝えると空いたガラスの器を端に寄せて、貴史は茶目っ気たっぷりにウインクした。
「じゃあ、この後は食後の運動!カラオケで思いっきりストレス発散するわよぉ~!」
まだまだ遊び足りない貴史に腕を引かれ、二人はカラオケ店に向かう事になった。
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