【完結】おっさんはエロいだけの生き物だと思ってた?これでも一途に絶賛トキメキ探し中!!

天羽 華月

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8日目 一歩進んで二歩下がる!?

19ー1

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 全員が揃い、晴哉は簡単に蒼空の紹介をした。

 何も知らない翔が一番驚いていたが、ひとまず移動する事にした。


 神社の石段をのぼり鳥居をくぐって境内に入ると、正面には歴史ある本殿がある。


 参拝目的じゃない一同は玉垣に添って並び、花火が楽しめる特等席で夜空を眺めた。


 その美しさに目を離せず、花火の間はポツポツと誰かが口を開いても、会話はすぐに途切れてしまう。


 最後は金色の滝が次々と流れ、キラキラと輝き消えてしまった。


「終わりまで見たのは久々だな」

 颯の言葉に、隣の悠人はまだ余韻の残る夜空を見上げて頷いた。

「そうだね。いつもは一回りして帰ってたから」

「俺は毎年花火はしっかり見る派だぜ!!」

「翔先輩そんなに花火好きだったっけ?」

「花火を見ないと夏が終わらない気がするからかな」


 颯を間に挟んで悠人と翔の三人で会話をする一方、雪は晴哉と蒼空の間にちゃっかりと割り込み、ビール缶片手に質問攻めをしていた。


 楽しい時間はあっという間で、花火が終わると人通りが少なかった通りも混雑する。


「そろそろ帰りましょうか?」

 晴哉が解散を提案すると、悠人は振り返りその意見に賛成した。

「そうだね。みんな疲れただろうし、ここで解散にしよう」


 ただ一人を覗いて全員が賛成した時だった。

「嫌だ。嫌だ嫌だ!撮れ高何もなかったー!!男達の眠れない一夏が何も撮れてないなんてありえなーい!ヒック……翔くんにもまだ話聞けてないし、私はまだ帰らないからね!!……ヒック」


 顔を真っ赤にして瞼が重い雪は相当酔っているようで、立っていても体はふらつている。


「悠人さん、どうします?」

「どうするもこうするもないでしょ。俺と颯ちゃんで送っていくよ」

 晴哉と悠人が小声で相談していると、背後からフラフラと近付いてくる雪に二人は気付いていない。

 酔っ払っている雪は足元がおぼつかず、自分では上手くバランスが取れないままドンッと勢いよく晴哉の背中に体当たりしてしまった。


「なっ!?」

「えっ!?」



 突然後ろから強い衝撃を受けた晴哉は受身を取れずに倒れて、向かい合って話していた悠人も巻き込まれ二人は重なるように倒れ込んだ。


 ──それだけなら笑って終われただろう。


 あろうことか重なっているのは体だけではなく、唇もだった。


 何が起こったのか分からず、誰も動けないまま時だけが流れた。

 いち早く動いたのは颯と蒼空だった。


「悠人!大丈夫か、悠人!」

「晴哉。早く離れろ」

 思考停止している二人に駆け寄り、蒼空は晴哉を引き剥がし、颯は悠人を抱き寄せた。


「……」

 蒼空は無言で晴哉の口を拭き始めた。

 それを見た颯も真似をして、浴衣の裾で悠人の口を強引に拭いた。


「ちょっ!颯ちゃん痛いって」

「あ、悪い」

「すみません、悠人さん!僕のせいで……。痛くなかったですか?」

 悠人の声にハッとして晴哉が駆け寄ると、颯が突然手のひらを前に突き出した。


「あの、颯さん?」

「颯ちゃん?」

「あ、いや。悪い」


 不思議そうに首を傾げる二人に、颯の目は泳ぎサッと腕を下げた。

 悠人は臀部でんぶを撫でて立ち上がり、浴衣についた汚れを払って「心配ないよ」と、両腕を横に広げて笑顔を見せた。


「ウヒ、イーヒヒヒッ!」

「「!?」」

 ホッとしたのも束の間、晴哉にぶつかった雪はその場に座り込んで奇妙な笑い声を上げた。


 全員が硬直する中、酒を勧めてしまった翔はばつが悪く顔を歪めると、雪の腕を自分の肩に回して立ち上がらせた。


「俺のせいだから、雪ちゃんを送って帰ろうかな」


 あらかじめ酒が強いのか確認もせずに飲ませてしまった事を後悔して、せめてもの償いだと翔は雪を自宅まで送ると決めた。


 しかし、そんなわけにはいかないと悠人は反対した。

「いや、俺と颯ちゃんで送るよ。ね、颯ちゃん?」

「うん、帰りついでだし」

「いいから、いいから。ここは俺に任せてくれよ!」

 押し問答が続いた末に、渋々折れたのは悠人だった。


「翔先輩、本当にいいの?」

「当然!その代わり、颯の事は任せたぜ!」

 素直じゃない親友を任せたと肩を叩くと、悠人はきょとんとした顔をして翔を見つめたがゆっくりと頷いた。

 伝わっていないだろうと分かっていた翔だが、満足そうに頷き返し雪を抱え直した。


 話が纏まると、晴哉と蒼空も顔を見合わせて言った。

「悠人さん、颯さん。僕達もこれで帰ります」

「騒がせてすみませんでした」

「二人で大丈夫?」


 悠人は眉を落として二人を見た。

「はい、大丈夫です。もう悠人さんに水鉄砲で攻撃されるのは御免なので」

「頭冷やしたくなったらまた言ってよ」


 軽口を叩き合う二人はすっかり仲良くなっていて、悠人の隣で会話を聞いているだけの颯の表情は暗い。


「じゃあ、僕達はこれで失礼します。皆さんも気をつけて帰って下さい」

「失礼します」

「うん、また」

「じゃあ」

 こうして晴哉と蒼空は肩を並べて歩き、駅の方向に向かう後ろ姿を見送った。


 ドタバタした一日も終わりが近付き、悠人はグッと体を伸ばして長く息を吐いた。

 そして、向き直り颯の浴衣の裾を引いて歩きだす。

「俺達も行こう、颯ちゃん」

「帰らないのか?」

「まだ帰りたくないじゃん。颯ちゃん、早く早く!翔先輩、雪ちゃんをお願いします」

「おう!任せとけ!」

「お、オイ!悠人!?」


 突然引っ張られてバランスを崩した颯だが何とか踏ん張り、無邪気な笑顔を浮かべる悠人と共に駆け出した。


 神社を出て人の流れとは反対の祭り会場に向かって走り出す二人の背を眺め、翔は小さく呟いた。


「しっかりやれよ、颯」
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