【完結】おっさんはエロいだけの生き物だと思ってた?これでも一途に絶賛トキメキ探し中!!

天羽 華月

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9日目 泣いたのはどっち!?

23ー2

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 ダイニングテーブルに食事を並べて、向かい合い二人揃って腰掛けた。

「颯ちゃん、風呂あとでよかったの?」

「うん、食う前だと色々問題があるから」

「……なんか帰ってきてから変じゃない?」

「変態だとしても変人ではない!」

「違いがよく分からないけど」


 風呂に入ってしまうと悠人がうっかり冷蔵庫を開けたり、テーブル下の袋に気が付く可能性がある。

 結局は悠人に渡すものではあるが、先にバレると格好がつかない。
 それに羞恥心で言葉が出なくなりそうだと考えた颯は、何としても部屋から出るわけにはいかなかった。


 食事の間、颯の顔は固いままだった。

 悠人の話も曖昧に相づちを打つのが精一杯で心臓がどよめく。

 気道が狭くなったように、食べ物は無理やり喉を通っていった。


「ご馳走様でした」

「颯ちゃん、ビールとコーヒー、どっちがいい?」

「コーヒーかな」


 ここで酒を煽って勢いに乗せて渡してしまえば気が楽だろう。

 そうしたい思いをグッとこらえ、颯はコーヒーを頼んだ。


 電気ケトルからシューと音を立て蒸気が吹き上がり、次に香ばしい匂いが広がり室内を包んだ。


 片付いたテーブルに、悠人がマグカップを置いて前に座る。

 カップの中でゆらゆらと揺れるコーヒーに視線を落とし、颯は一口飲むと長く息を吐いた。


 足元にある指輪が入った袋をチラリと見ると、指先は痺れるような感覚がしたが意を決して顔を上げた。


「悠人」

「ん?」

 悠人はマグカップにミルクを入れて、スプーンでクルクルとかき回しながら返事をした。

 悠人の視線はコーヒーに向いていて、颯の緊張は幾らか和らいだ。

 見つめられると、上手く伝えられるか分からない。

 悠人の手元を見て、颯はゆっくり話し始めた。


「……別々の時間が増えた事に、気が付いてなかったわけじゃないんだ。長く一緒にいれば、それが普通だと思ってた。悠人がどう思ってるかなんて、考えてなかったんだ。ごめんな」

「……」

 悠人はマグカップを両手で包み、視線は落としたまま眉を下げて口元は柔らかな弧を描いていた。


 足元に隠しておいた袋を出して、中から二つのリングケースを取り出すと、一つは自分の前に、もう一つは悠人の前に置いた。

「それ、開けてみて」


 悠人は目線のみ上げて颯を見て、目の前のリングケースを手に取りそっと開いた瞬間、目を見開いて小さく声を漏らした。

「え……颯ちゃん、これ……」


「俺は、悠人にトキメキを感じさせられる程いい男じゃねぇし、これから先も無理かもしれない。それでも、これからも一緒にいて、俺の大事な家族でいてほしい」

 口を引き結んで俯いてしまった悠人は、リングケースをしっかりと両手で握り締めていた。

 返事を待っている時間は途轍とてつもなく長い時間に感じて、不安が膨らむ。

 やがて、ゆっくりと顔を上げた悠人は、赤い目をして柔らかな笑みを零した。


「……はい。ありがとう。喜んで」


 こんな安物の指輪でこの笑顔が見られるなら、もっと早く渡していたら良かったと、颯は心底後悔した。

 胸は焼けるように熱くて、目の前は歪む。


 その時、「颯ちゃん」と呼ぶ悠人の声にハッとして意識を呼び戻された。


「なんで颯ちゃんの方が泣いてるんだよ……」


「え?……あれ?なんで……」


 手の甲で拭った涙は止まる事なく溢れ、自分ではどうにも出来なかった。


「颯ちゃん。颯ちゃんのやつ、俺がつけてもいい?」

「うん。悠人のは俺につけさせてな」

「うん!」


 悠人は手に持っていたケースを置いて、もう一つのケースから指輪を取り出すと、颯の左手の薬指に嵌めた。


「初めての指輪はどう?」

 手を伸ばし、指の腹で颯の涙を拭い首を傾げる。

「ちょっと照れくさいな」


 薬指に嵌めた指輪は、角度を変える度に輝き颯は目を細めた。


「颯ちゃん、俺にも」

 悠人はそう言うと、颯の目の前に右手を差し出した。

「手、逆じゃね?」

「いいから。こっちにして」


 ケースから指輪を取り出し、悠人の右手を手のひらに乗せるとそっと指輪を通した。


 少し大きい指輪は簡単に奥まで通ってしまう。


「サイズが合ってないから少し緩いな。悪い。後でちゃんとしたやつ買うから、それまでこれで我慢してくれ」


 悠人はシルバーの指輪を嵌めた右手を天井の方へ上げ、明かりに照らして嬉しそうに笑った。

 そして、立ち上がった悠人は向かい側に移動し、自分の右手と颯の左手を合わせた。


「見て、颯ちゃん。綺麗だね」


 ぎゅっと絡めた指は指輪が重なり、仲良く寄り添っているようだった。

 飾り気もないシンプルでありふれたものだが、颯には特別輝いて見えた。


 一回り小さな悠人の手からは、優しい温もりが感じられる。


 繋いだ手を見つめ、悠人ははにかんで言った。

「本当にありがとう。颯ちゃん、サプライズとか苦手なのにな。嬉しかった」

「たいしたものじゃないけど……。あっ!」

 照れ隠しに頰を搔いた颯は、冷蔵庫に入れたケーキの存在を思い出して立ち上がった。

 手を解いてキッチンの冷蔵庫から箱を取り出すと、テーブルの中央に置いた。


「ケーキまで買ってきてくれたの?」

 悠人が箱を開けて中から出てきたのは、スフレチーズケーキ。

 悠人の一番好きなケーキだ。


「親父さんがくれた」

「え、父さんが?なんで!?」


 テーブルに両手をついて前のめりになった悠人は大声を上げた。

 颯は皿とフォークを用意してケーキを取り分けると、椅子に腰を下ろして平然と言った。


「指輪買おうと思ったけど、当日受け取れるのか分かんなかったからさ。だから親父さんに教えてもらった」

「いやいや、なんで?もっと他にも従業員いるよね!?なんでその中で父さんを選択したの?アホ丸出しなの!?」


 悠人はケーキを食べる余裕もないのか、立ち上がったまま颯に詰め寄り顔を近付けた。

 今は何を言っても悠人を混乱させるだけだろうと思った颯は、何食わぬ顔をしてケーキを食べ始める。


「あーもう。当分実家には行かない……」

 力なく腰掛けた悠人は、テーブルに突っ伏してうめくように言った。


 黙々と食べていた颯が完食して、悠人のケーキを一口分取って呼びかける。

「はーると」

「んー……」

 顔をしかめて起き上がった悠人の口にケーキを押しつけると、渋々口を開けて咀嚼した。

 唇を尖らせて拗ねる悠人は子供のようだ。


「後で絶対颯ちゃんにも仕返ししてやる~……」

 悪態を吐きながらも、しっかりケーキを食べている悠人を眺め、颯は幸せを噛み締め自然と表情は緩む。


「楽しみにしてるわ」


 これからもいろんな事があるだろう。

 笑顔だけでは過ごせないと分かっていても、離れるなんて選択肢はない。

 悲しい事があっても、その先でまた二人一緒に笑いたい。

 今度はしっかり手を繋いで、大切なものを見失わないように。


 颯は今日という日を深く胸に刻み込んだ。


 トキメキ探しは終わっても、二人の人生はまだまだ続くのだ。

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