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全員集合!

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 体育祭が終わり、いつも通りの日常に戻った。
 私はというと体育祭の後、疲労から数日寝込んだのだが、今はすっかり回復してレイヴンに頼まれた仕事をこなす毎日だ。


 体育祭の練習やら準備に追われ、おまけに体調不良の休みが大きな痛手で、山のように積み上げられた課題の量にうんざりするけど、今はそれも気にならない。
 今日はルゥが会いに来る日だから。


 私が一番最初に話ができたカンガルーのルゥについてレイヴンに話すと、一度連れてくるように言われたのだ。
 もうすぐ入学してから一年が経つのに、慌ただしく一度も屋敷に戻れていなかったから、こんな形で会えるのはとても嬉しかった。


 他の生徒達に見られないよう、敢えて人の少ない休日を選んだ。
 到着予定時刻までまだ時間がある。
 今のうちに少しでも仕事を終わらせなきゃ。


 腕捲りをして机に向かった時だった。
 何やら外で叫び声が聞こえる。


「クローネ~!!大変だ~~!今すぐ逃げて!!!」

 何事かと研究室の扉を開けると、血相変えて走ってきたのは毎度お騒がせフランソワだ。


「何かあったんですか?」
「あったなんてものじゃないよ!あっちに大きなカンガルーが出たんだ!あれはきっと伝説の魔物だよ!逃げよう、クローネ!」


 私の腕を掴み、フランソワが指差した反対方向へ引っ張られると地面が揺れた気がした。

「コイツをどこに連れて行くつもりだ?」
 足早に近付いたカインが、反対の手を掴みフランソワを睨みつけた。


『クローネ』
 優しい声がする方に振り向き、そこにいたのは予定より随分早く到着していたルゥだった。


「あれだよ!あのカンガルーだ・・・」
 顔面蒼白で怯えきった様子のフランソワに
「私のお客様です」
 そう言って二人に掴まれた手を振り解き、ルゥに駆け寄った。


「迎えに行けなくてごめんね。来てくれてありがとう」
『全然会いに来てくれないから、ちょっと拗ねてた』
「ごめんなさい」
『ううん、僕の方こそごめん。手紙をもらってるのに、返事ができなくて』


 相変わらずルゥは優しいままだ。
 返事を書きたくても書けないと、私は知っていて手紙を出しているのに。


「そいつがルゥだな」
 研究室から出てきたレイヴンが間に割って入り、まじまじとルゥを見て
「やはり魔力持ちか。聞きたい事もある。暫く滞在しろ。許可は取っておく」
 険しい顔をして呟いた。


「君、ステラグレイ公爵家の子だったのか」
 いつの間にルゥの後ろに回り込んだフランソワが、紺色のマントを持ち上げ紋章を眺めている。


「それがどうかして?不満があるなら私が聞くけれど」
 クリスに手を引かれて現れたグラシアが、フランソワに微笑みかけているが口調は鋭かった。
「滅相もない。ただ、初めて見たものですから興味が湧いただけです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。殿下、グラシア嬢」
 礼儀正しく挨拶をするフランソワは、こうしているとしっかり者に見える。


「頭を上げてください、フランソワ。学院内では気軽に接してもらって構いませんよ」


 カインはクリスの肩に腕を乗せ、歯を見せ笑い
「そうだ!俺を見習え!」
「カインはもう少し礼儀を学ぶべきよ」
 グラシアの厳しい一言に肩を落とした。


 そんなカインを気にも留めず、グラシアはルゥに近付いて
「久しぶりね、ルゥ。なかなか戻れなくてごめんなさい。元気そうで安心したわ」
 と、優しく背を撫でた。


 久々の再会にグラシアだけでなく、クリスとカインも嬉しそうだ。
 フランソワは興味深そうにルゥの周りをグルグルと回って観察しているようだった。


 私は紅茶の準備にする為に一度研究室に戻ると、机に向かうレイヴンが羽ペンを走らせ何やら作業をしていた。


「リオン」
「はい、マスター!」
「ここに書いてあるものを明日までに集めてくれ」
「えっと、なになに・・・。え、これ殆どこの辺じゃ手に入らないものばかりじゃニャい!?」
「だからお前に頼んでるだろ。頼む、リオン。相応の礼はする」
「ハァ・・・。猫使いが荒いマスターを持つと苦労するよ」


 リオンは渋々レイヴンから受け取った紙をベストのポケットにしまい溜息をつくと、人を避けるようにしなやかな身のこなしで窓から出ていってしまった。


 ティーセットをワゴンに乗せて準備を整え、先にレイヴンに紅茶出した。
「あのカンガルーには僅かだが魔力がある。暫くはここに滞在させる事にした」
「そんな事ができるんですか?」
「できる。魔法に関する事で、この学院に俺を越える教員はいないからな」
 あっけらかんと言うレイヴンに、私は目を丸くした。


 改めてレイヴンの偉大さを知った瞬間だった。


 慎重にワゴンを押して研究室から出て、まだルゥの周りで盛り上がっているグラシア達に声をかけた。
「紅茶の準備が整いました」


「ありがとう、クローネ!言ってくれたら手伝ったのに」
 いち早く気付いたフランソワが手伝いを申し出てくれた。


「いえ、これはメイドの仕事です。フランソワ様に手伝っていただくわけには・・・」
 丁重に断りを入れている途中、私の唇に長い指が触れた。
「フランでしょ。クローネには、そう呼んでほしいんだ」


 優しく微笑んだフランソワは、ワゴンを押して
「ほら、座って座って。俺が淹れた紅茶は高いよ!」
 皆の輪に入っていった。


 攻略対象が初めて全員集まったこの日、不安もあったが不思議な事に、今は素敵な予感がしていた。
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