【完結】ココ、ついてますよ

赤猫@alice

文字の大きさ
19 / 68
第一章

翔子と怒涛の午前中

しおりを挟む
入れ替わり立ち替わり来るお客さんに対応していたショウと翔子だが、正午少し前にショーケースの中が空になったので、CLOSEのプレートを出し店を閉め、一旦休憩する事にした。

「フー、翔子ちゃんお疲れ様」

「ショウさん、お疲れさまです」

若干ぐったりした感じの翔子がショウへと返事を返した。

「ここのお店はいつもこんな風に混むんですか?」

「うん。まぁ、今日みたいな平日はこんなもんだね。土日とか学校が長期休暇の時はこれに学生さんや親子連れさんが増えるから、今日以上かな?」

「今日以上?」

翔子はびっくりした様に大きな声を出し、

「今日のお客さんの入り方にもビックリしましたが、今日以上となればやはりショウさんお一人では大変でしょうね。カケルさんのお力も必要な訳です。……それに比べて私は今日、お役に立てているのでしょうか……」

いくらバイト初日とはいえ、翔子は自分がショウの力になれているのかが不安になった。

「何言ってるの、翔子ちゃん!翔子ちゃんがやってくれている事だって、充分助かるよ。今日だって空になったトレイに気づいて下げてくれたでしょ?」

「あっ、はい。ケーキは予め作っておいた分だけと聞いていたので、空になったトレイは不要だと思ったので下げましたが……」

「あのひと手間がとってもありがたいんだ」

「?」

「お店によってはトレイがそのまま出ていると、そこへまた同じ種類のケーキが追加されるみたいなんだ。でも、ウチは絶対にケーキの追加は出来ない。ケーキを作ってるのも出しているのも、僕一人だからね。
常連さんは何となくわかってくれてはいるものの、他のお店にも行ってる人や初めてウチに来た人は空のトレイがあると、また追加でケーキが出てくるかもしれないと思って待ってる人もいるんだ。
だから、空のトレイが目について下げたくても目の前にいるお客さんを捌くので精一杯で、トレイを下げる手間さえ惜しくてなかなか下げれなかったんだ。カケルも気づいた時は下げてくれるんだけど、翔子ちゃんにそれを伝えてなかったのに下げてくれて助かったよ」

「そうだったんですね。私はただ、不要だと思っていましたが結果としてお役に立てたのなら良かったです」

「そういう風に細かい所に気が付いてくれるから、翔子ちゃんが来てくれて本当に良かったよ。これで、一旦休憩だからお昼を食べて午後また店を開けるけど、翔子ちゃんはどうする?今日は急に呼び出してそのままバイトになっちゃったから、疲れてない?疲れている様ならば今日は午前中だけで充分だけど……」

「……そうですね。正直、慣れない事をしたので疲れてしまいました。午後はお客様はどれくらいいらっしゃるんですか?」

「午後は比較的、少ないよ。午前中にだいたい売り切れが出て、補充できる分は限られているからお客様も午後は品数が少ないの分かってて、あんまり来ないんだ。だから、午後は僕一人でも充分お店は回せるよ」

「……そうですか」

「今日は本当に初日だし、疲れているだろうから店の事は気にしないで翔子ちゃんがどうしたいかで決めて良いよ?」

「……わかりました。お店をお手伝いしたい気持ちはあります。でも、身体が疲れてしまったのも事実ですので、申し訳ありませんが今日は帰らせていただきます」

「了解」

「でもショウさん!明日も朝からお手伝いに来ても良いですか?」

「もちろん。こちらとしては大歓迎。それに翔子ちゃんはもうここの従業員だから、お手伝いに来るんじゃなくて、働きに来るんだよ。フフッ。明日も宜しくね」

「はいっ。では、今日はこれで失礼させていただきますがシュークリームは……無いっ!売り切れてしまいまいたね……」

残念そうに言う翔子を見てショウは一旦店の奥の冷蔵庫へと戻り、

「はい。翔子ちゃんの分のシュークリーム」

「えっ?」

「いつものペースだときっと売り切れちゃうと思ったから、確保しておいたんだ。せっかく米田さんと話してシュークリームを食べたいって言ってくれたのが嬉しかったから、今日食べてほしくてね」

「うわぁ。ありがとうございます。では、今日はシュークリームを買って帰って勉強したいと思います」

「これは翔子ちゃん用に取っておいたシュークリームだから、代金はいいよ」

「そういう訳にはいきません。お客様と同じ様にお金をお支払いして、同じ様に食べなければ意味がありません。
それに、これからお店のお菓子をどんどん食べていくんですから、今日お支払いしないとこれから遠慮してしまいます……」

「なるほど……。じゃあ、きちんと代金を貰おうかな」

「はいっ。それとショウさん……」

ショウに呼びかけたものの、言いづらそうに言葉を探している翔子。

「うん?」

「お店の忙しさって毎日、今日みないた感じなんですよね?」

「?うん。さっき話した様に平日はだいたいこんな感じだよ?……もしかして、忙しすぎてバイト、嫌になっちゃった?」

「い、いえっ!そうではありません!」

慌てた様に否定する翔子。

「只、今日の様に忙しいと、折角テーブルがあってもお客様はお店でケーキを召上れないのではないかと思いまして……。ショウさん一人の日は、ケーキの販売だけで手がいっぱいだと思ったので……。もしかしてお客様はほぼ持帰りの方ばかりですか?」

「……うん。実はそうなんだ」

そう答えたショウはとても寂しそうな表情で話し始めた。

「ばあちゃんが店をやっていた頃は店を始めたばっかりっていうのもあって、来てくれるお客さんも少なかったから店の中でケーキを食べながら紅茶を飲んで、ばあちゃんと話をしていく人もいたみたい。でも、だんだんと常連さんがつくようになって、店の評判が良くなってくるとばあちゃんもイートインまで手が回らなくなったみたいなんだ」

「そうだったんですか」

「僕が本当に小さかった頃はまだ、このテーブルで美味しそうにケーキを食べて、楽しそうにお喋りをしているお客さんもいたんだ。うっすらとだけど記憶に残ってる。けど、僕が物心ついた頃にはもう店が結構繁盛してて、店で食べていくお客さんはあんまりいなかったかな。それまで店で食べていたお客さん達もばあちゃんに気を使って持帰りにしてくれてたんじゃないかな?
僕はこのテーブルで美味しそうにケーキを食べてくれるお客さんの笑顔も大好きだったから、店で食べていけるお客さんが増える様に自然とばあちゃんの手伝いを始めて、気づいたら店を継ぎたいって思うようになってたんだ」

「あの……、もしかして私にここのテーブルでティータイムを勧めてくれるのって……」

「うん。お客さんにはケーキと紅茶を出す余裕がなくて出来ていなかったから、せめて翔子ちゃんにはって思ってたんだけど、迷惑だったかな?」

ショウは苦笑いをしながら不安そうに聞いた。

「迷惑だなんて、とんでもない!とっても嬉しかったです。それに初めてお店に入った時、テーブルセット込みで素敵なお店だと思ったんです」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。まあ、店で食べるお客さんを捌けない程どんどんお客さんが来てくれるのはありがたい事だけどね。いつかは手際よくできる様になって、また、お店でケーキを美味しそうに食べてくれるお客さんの顔を見るのを目標にがんばるよ」

そう言っていつもの様にほわっと笑ったショウだったが、その笑顔はどこか少し寂しそうに見えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

女王ララの再建録 〜前世は主婦、今は王国の希望〜

香樹 詩
ファンタジー
13歳で“前世の記憶”を思い出したララ。 ――前世の彼女は、家庭を守る“お母さん”だった。 そして今、王女として目の前にあるのは、 火の車の国家予算、癖者ぞろいの王宮、そして資源不足の魔鉱石《ビス》。 「これ……完全に、家計の立て直し案件よね」 頼れない兄王太子に代わって、 家計感覚と前世の知恵を武器に、ララは“王国の再建”に乗り出す! まだ魔法が当たり前ではないこの国で、 新たな時代を切り拓く、小さな勇気と現実的な戦略の物語。 怒れば母、語れば姉、決断すれば君主。 異色の“王女ララの再建録”、いま幕を開けます! *カクヨムにも投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。彼女が父親を亡くしてからの爵位は、叔父(父親の弟)が管理してくれていた。  彼女には亡き父親の決めた婚約者がいたのだが、叔父の娘が彼を好きだと言う。  彼女は思った。 (今の公爵は叔父なのだから、その娘がこの家を継ぐ方が良いのではないか)と。  今後は彼らの世話にならず、一人で生きていくことにしよう。そんな気持ちで家を出たコロネだった。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

処理中です...