かのじょの物語

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10代の話

4.禍々しい眼

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中学生の頃、私は153センチの55キロ。ぽっちゃりとした体型の少女だった。
両親がそうなので、童顔でパッチリした二重に銀縁の眼鏡。髪は黒の直毛。一見すると大人しく本ばかり読んでいて、日に焼けることもなく肌の白い、人とか変わることも少ないので浮いた噂もない。口を開くと出てくるのはオカルト話という残念さを除けば、自分で言うのもなんだがなかなかの可愛い少女だったと思う。



 私がその異変を感じ始めたのは、何時の事だったろう。

 私の家は平屋だった。将来的には二階を増築するつもりだったようだが、実際のところ今も平屋なのでこの先もこのままだろうと思う。そして、住宅地の中なので部屋の窓に雨戸が設置され、歩行できる軒下全てに防犯の意図もかねて砂利が敷いてある。しかし、雨戸の設置されていない窓も幾つかあって、それが北側にある水回り・つまり台所やトイレ、風呂場の窓である。
 異変はほんの小さな気づきだった。私が風呂場や脱衣場である洗面所にいる時に微かな音がしたような気がしたのだ。窓ガラス越しでは、ほんの微かにしか聞こえない音。そして、一度気がついてしまったら、聞き逃すことはできなくなった。

窓の外で砂利を踏む微かな音がする。

窓ガラスは元々くもりガラスで夜の窓の外は室内からの光で漆黒に塗り込められている。だから、そこに誰かいるのかなにか動物がいるのかは伺えない。しかし、明確な足音も吐息が聞こえるわけではないのに窓の向こうから体にまとわりつくような気配が忍び込んでくる。
それが度重なるようになり、それが何がたてている音なのか疑問が湧いた。

これは、生きているのか?いないのか?

 普通なら生きているものがたてる音と判断して持たないはずの疑問ではあるが、オカルトに傾倒している私は音に耳をすます。
生きているならもっと大きな音をたてているもいいような気がするし、野良猫や何かのたてる音ならこんなに窓の下で息を潜めるような気配がするものだろうか。
何度もこの考えを繰り返すうちに、何とかしてその正体を知りたくなった私は確かめてみることにした。
方法は簡単。
洗面所の窓の内側前はバスタオルをかけるためのポールがあるので、最初からわずかに窓を開けておきバスタオルで隠しておくのだ。開けていたら気配が現れない可能性もあるが、それならそれでいいとも思った。

風呂に浸かった後洗面所に立った時、いつもより鮮明に砂利を踏むジャクッという音が聞こえた。
背後にはバスタオルごしなのにいつもより強くまとわりつく気配がある。私はあえていつも通りに風呂から上がり、唐突に前起きなく目の前のバスタオルを掴んだ。
「っ!!」
そこには僅かな隙間から覗く眼があった。
片眼だけの眼が、確実に私の視線と絡み合う。
一瞬の間の後に思わず大きな悲鳴が溢れ落ち、その場に私はへたりこんだ。心のどこかで何もいない・何も見えないと信じていたのかもしれない。それが脆くも崩れてしまったショックは大きかった。
私の悲鳴に両親が駆けつけ、父が玄関から飛び出していく。しかし、ほんの数分の間に眼は消え去ってしまっていた。家の回りの軒下を駆ける父の砂利を踏む音が響き渡っている。
 結局生きているのかそうでないかの判断はできず、暫くの間玄関には木製のバットが何時でもつかんで飛び出されるようにと準備されただけだった。


※※※


それから暫く普段通りの生活が続いていた。
電車通学していた私は、友人と自転車で学校までの15キロを通うようにしたので、暗闇を歩いて帰ることが減ったというのもあった。そして、高校から自転車で通うことがあるのか、時々隣家の同級生の兄に出会う機会が増えた。
「こんばんわ。」
「よお、相変わらず漕ぐのおせえな。」
年の離れた青年に勝てるわけもなく、あっさりと追い抜かれるが、以前に比べると声はスムーズに会話になる。
「そう思うなら、引っ張ってくださいよ。」
「甘えんなー。頑張って漕げー。」
さらりと言い残して追い越していく背中を見送る。
別段恋愛感情があるとかではない。近所の仲のいいお兄さんと日常の会話位のものだった。


あの後も砂利を踏む音はしていた。
私だけでなく母の時もなっていたから、覗きなのだろうと結論付けられたのだが、犯人を捕まえるには至っていなかった。
そんな夏場の近いある日この事。
本を読んで宵っ張りになっていた私は、窓際のベットに寝転がって読書灯の下で本を読んでいた。まだ夜は人肌寒く、そうでなくても平屋の家では何もなくとも雨戸を閉じて寝るのが基本だった。

ペラリとページをめくった瞬間に、ベッドの真横の窓の雨戸が音を建てて10センチほど開いた。

瞬間的に私はその場で凍りつく。窓の鍵はかけておらず、しかも雨戸の遮蔽感から窓は開けて網戸しか雨戸と自分の間にはなかった。雨戸の隙間からまとわりつくような気配と圧し殺した吐息の漏れるのがわかる。
足元をみるのが怖かった。窓の外から何が覗いているのか知るのが怖くて、気がつかなかったふりをする。しかし、それも限界だった、一気に跳ね起きて部屋を駆け出し両親の寝室に飛び込む。
「おとおさん!!!おかあさん!!窓の外に人がいる!!雨戸開けて覗いてる!!!」
とんでもない金切り声で叫ぶと、声をあげて泣き出した私を母が抱き抱え、玄関からバットを握った父が外に飛び出して行ったのだった。




 その後は父はその覗き魔を捕まえて、相手の自宅に怒鳴りこんだそうだ。しかし、その詳細は私には伝わらなかった。また、それを知るには子供過ぎると思われたのだろう。
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