かのじょの物語

文字の大きさ
69 / 74
30代から40代の話 Reborn

69.本当だとしたら

しおりを挟む
お祖母さんが蛇を殺したから、うちの家系は呪われていると伯母は言った。だから、辰年生まれの女は特別でお化けが見えるって。

今でもあの言葉は耳に焼き付いたままだ。
自殺企図にあったあの時私の遺書には、過去に伯母から言われた言葉について記されていたと言う。私自身は申し訳ないのだが、遺書の内容に何と残したのかそれらの記憶が全くない。薬のせいか一旦呼吸も止まり死にかけたせいなのか分からないが、何を書いたかどころか書いたことすら記憶にないのだ。だが、離婚して実家に戻り暫くたった頃その手紙を差し出され、小学生のあの時何が起こったのかと話をしたことがあった。両親は私の話を全部聞き、最後に私に問いかけた。

「アキコ、お前は今その言葉についてどう思う?」

その問いに私は答えられなかった。
何故なら、それが嘘なのか本当なのか分からなかったからだ。血縁が呪われていると言うのは本当なのか?嘘なのか?嘘だとしたらあの影は従兄弟か伯父だったのか?それを隠すためについた伯母の嘘なのか?嘘だとしたら私はどうしたらいいのか?
私には分からなかった。



私は実家に戻り静養して、一先ず元通りとはいかないまでも看護師として働き始めることができた。あれ以来色恋沙汰には拒否反応があって、何度か告白されても拒否しかできない。それ以外は別段普通に生活できていると思う。
では、呪いのもとを作ったと言う祖母はどうしているのか。祖母は、祖父の葬儀以降は叔父の家の一室で暮らしている。持病はあるものの身の回りのことは自分でしているし、元来勝ち気なので電話でも口が悪い。

《憎まれっ子世に憚るんだよ。中々死なないね。》

態々電話を掛けてきて、こちらが出るとなんだいたのかと悪態をつくような人で、自分のことをそう言って自分に対してまで悪態をついている。父が私が離婚したと話したらしく、珍しく電話口に私を出せと言ってきた。自分に対してこうだから、いったい離婚についてどんな悪態が飛んでくるのかと戦々恐々といった感じで私が受話器を受けとる。少しの間会話を交わした後普段にない声音であっけらかんと言われた。

《良かったじゃないか、ろくでなしと別れられて。》

驚いた。
てっきり我慢できない私が悪いのだと散々言われることだろうと思っていたのだ。でも、とても優しい声音で伝えられた言葉に生まれて始めて、祖母の本当の気持ちが見えたような気がした。
炭鉱に勤めていた祖父について流れ歩いた祖母は、恐らく他の炭鉱夫やその家族などとも渡り歩かないといけなかったのだろう。それに記憶の中でも祖父は大量に飲酒する人だったから、それに対抗しながら三人の息子を育てていた祖母は強くならないと生きていれなかったのだろう。父が以前祖父の酒癖が悪かったから、自分はそうならないように気を付けていると溢したことがある。
好好爺姿しか知らない私には想像もつかないが、昭和の父親像を考えると何となく分からないでもない。
新しい考えで祖母を見てみると、実は口の悪さも照れ隠しなのだと分かった。本当は寂しいし、息子夫婦や孫がどうしているか気になっているから電話をかける。でも、素直にそう言うのは自分らしくない。だからこちらが電話に出ると慌てて出る言葉が、「なんだいたのか」と憎まれ口をたたく。自分から電話をかけてきたのに、真っ先にその言葉はひねくれているにも程がある。でも、照れ隠しなのだと分かると、何だか可愛らしい気がするのだ。
蛇に呪われた原因を作ったと伯母に言われてから、何故か私は祖母を鬼のように思って腫れ物でもさわるように遠ざけていたようだ。

「そうかな?」
《そうだね。いい男が転がってても、ろくでなしが付いてたら、アキコいい男もおちおち引っかけられんっしょ。》
「転がってたら苦労ないよ、お祖母ちゃん」
《わかんねぇぞ?家出たら道路に落ちてるかもしんねぇっしょ。馬鈴薯みたいに。》

祖母がカラカラと笑う。
両親や弟は私に近すぎて自殺企図をみているから、出来事が生々しくこんな風に笑い飛ばすことができない。血縁の中でこんな風に笑い飛ばしたのは、後にも先にも祖母だけだった。後日父が祖母だけには私が死にかけたことも話したと教えてくれたが、それでも祖母はアッサリと生きてたんならそれでいいと言ったという。それを聞いて逆に私は、祖母らしいなと思ったものだ。

《ま、楽にしな。》

そう言って受話器は父に返される。
鬼のように思っていたのにたったこれだけのことで、祖母のイメージが逆転してしまった。でも、そんな祖母でも呪われているのか、それともあれはただの言い逃れのための嘘なのか?
私には分からない。




では、もう一人の辰年生まれの女はどうしているのだろう。父の弟にあたる叔父の娘だ。
丁度一回り年の違う従妹は、今も実家にいる。実は彼女とは彼女が生まれてから一度も話をしたことがない。大体にして出会うタイミングがないので、彼女が何か不思議なものを見ているかどうかも分からない。不思議なものに襲われたことがあるかどうかも分からない。

「父さん、叔父さんとこの末っ子は今どうしてるのかな?」
「さあなぁ。電話で子供の話をしないからな、あいつは。」

父は伯父とは普通に接しているが、余り叔父とは交流がない。それが祖父の葬儀の時の喧嘩のせいかと私は思っていたが、元々叔父とは年が離れていたので上手く付き合えないのだと語った。父自身は余り祖父母の手のかからない子供だったが、末っ子の叔父はかなり両親に甘やかされていて良く思えなかったんだとコッソリ話してくれた。そう言えば、葬儀の時結局は祖父の土地は、叔父がそのまま家を建てて祖母も一緒に住むことで相続することになったなと思い出す。
従妹は実家から出ない生活をしている。そう、引きこもりなのだ。その理由は知らないが彼女は高校生以降、家に引きこもって仕事をすることもなく両親の庇護の中にいる。
それが呪いの結果なのかは私には分からない。




蛇に呪われた家系は何も問題はないのだろうか。

私にはそれがどうかは分からない。でも今のところ、伯父の子供も私達姉弟も叔父の子供も合計で七人もいるのに、誰一人結婚もせず子供がいない。
最年長は私より一つ上の従兄。一番下は一回り下の従妹だ。どの子供も結婚してもおかしかくない年代だ。
そして祖父母の血縁は少なく、実は殆ど存命の者がいない。つまりはこのままいくと私達の世代で我が家は断絶することになるらしい。
大袈裟に聞こえるだろうか?
今からだって結婚して子供ができるかも?そうかもしれない。でも、叔父の子供達はまだ20代だが、他はもう30後半以上だ。それでいて一度も結婚の話は聞いたこともない。私の弟も人柄は優しいし、家族の欲目でも見た目も悪くないのに今まで彼女が出来たと聞いたこともない。おまけに嫁にいったはずの私は私で、出戻ってしまった。


※※※



「アキコ、これから北海道に行ってくる。」

私の部屋は以前と同じ母の衣装部屋の一部を間借りして生活していた。居間と襖一枚で隔たれた部屋だが、襖をノックした後にかけられた父の固い声に何かがあったのだと感じる。居間に顔を出した私に何かの時には連絡するとその言葉が繋いだ。私は微かに目を細め父の様子を見つめた。ここ数日、毎日父が誰かと何度となく電話で暗い顔で話しているのを聞いていた。父から話さなかったので、あえて聞き出さなかった。しかし、遂に何か動きがあったようだ。

「何かあったら連絡して。母さんにでもいいし。」

慌ただしく出掛ける支度を済ませ、分かったと言いながら車に乗る父を見送る。帰ってきたら母に父が出掛けたことを伝えないとと内心考えながら、夕闇に不安げに赤く光を放ち角を曲がるテールランプを見送った。
ここから車で海を渡るためには、二ヶ所ある港からフェリーを使うしかない。父は夜に出て朝に北海道につくフェリーに乗るつもりだろう。父の性格を考えれば、それまでにきっと父は母に連絡するだろうが、それでも母が帰宅して私が話す方が少し早いだろう。
何処か心の内がザワザワとざわめく気がする。
まるで、ずっと昔に不快な思いを感じた時のような落ち着かない感覚が胃の腑の辺りで、まるでとぐろを巻いているようだ。私はそっと胃の辺りを押さえる。




「父さん、夜中のフェリーに乗るって。」
「そう。」

帰宅した母に状況を伝えると、固い表情で言葉少なに答えた。味気なく二人で食事を済ました頃に、やはり父から電話が入り母の表情が更に険しく変わる。
ただ事でないのだと感じながら、私は電話する母の姿を見つめた。やがて、重々しく受話器をおいた母の背に声をかける。

「私、仕事休んだ方がいい?」

その言葉にまだその場に私がいたことを思い出した母が振り替える。暫し悩んだ様子でいた母が首を横にふるが、その仕草と表情が噛み合わない。

「誰になにがあったの?母さん。」

言いにくそうに母が躊躇うのがわかる。だが、私の顔を見て母が溜め息混じりに言葉を紡いだ。

「叔父さんが亡くなったそうよ。」
「なんで?病気?」

父より六つも年下の叔父はまだ50代前半で、病気だと聞いたことはなかった。唐突なその話に面食らったような私に、困惑顔の母も理由が分からないと呟く。父から連絡があって葬儀に出るように言われたら休んでちょうだいと言われ納得したものの、その夜私は眠れぬ一夜を過ごしたのだった。
  


※※※


蛇に呪われると何が起きるのだろうか。
私は呪いの詳細を知らないが、従兄弟も含め誰一人結婚もしていない、子供もいない。誰一人としてと言うのは、何か理由があるのではないかと邪推してしまう。
そんな中、叔父の死が伝えられた。
理由は私には伝えられなかったし葬儀にも参列しなかった。父が来なくていいといったので、母も私も葬儀にはでなかった。これも何か理由があるのだろうか?
それを悩む隙すらなく、日々が過ぎていく。
そして、それからたった半年。
真冬の最中に祖母が急逝した。
所謂ヒートアタックというもので、風呂に入ろうとして倒れそのまま亡くなったという。流石に祖母の葬儀には両親と私が参列することになり、私達は葬儀場に駆けつけたのだった。

祖母は穏やかな顔をしていた。

苦しんだような様子はない。心臓が止まって一瞬で意識もなくなったから痛みもなにも感じなかったろうと久々に出会った伯父が話していた。

暫くぶりに出会った会った伯父は、以前出会った時より窶れたという他に表現の仕方がないほど痩せていた。叔父が亡くなったことで色々とあって窶れたとのことだったので、私は一先ずの納得はしたものの何処か病的だと内心思った。しかし、伯母は更に醜く太りきっていて一人で満足に動くこともできない姿になっていた。まるで伯母が伯父の栄養を全部吸いとってしまったかのように見える。
両親と私そして伯父が祖母の死に涙を流し、線香を手向ける。ところが僅かに涙を見せたと思った伯母は、さっさと背後のテーブルに向かった。

土地によって葬儀の仕方は全く違う。
昨今はどの地方でも自宅で葬儀をすることは減って、葬儀場を利用するのが当たり前になりつつある。それでも、まだ母方の生家の周辺では葬儀の最中は精進潔斎が普通なので肉や魚は初七日まで食べられない事になっている。農家で土着の生活をしているためか、各家は大きな座敷を持つ事が多い。そのため土地に古くから住む母の血縁はまだ自宅で通夜も葬式も行っているし、葬儀ともなれば近隣の女衆が精進潔斎の御膳を作るために集まってくる。そして、今だ葬式行列が檀家となっている寺までシズシズと歩を進めるのだ。葬儀は日取りによって仮通夜から始まり本通夜、上手く日取りを組めれば翌日に火葬、そして葬儀が行われ日取りによってはそのまま初七日をする。暦に左右されるが日取りが滞りなく出来たとして短くて丸二日間、長ければ葬儀まで五日程かかることもある。初七日法要は最近は葬儀の後に同じ日に行うことが多いが、それ以降は寺と相談し随時行っていく。その為喪にふくす期間がハッキリしているとも言える。
しかし、過去祖父の時も思ったが北海道では精進潔斎に対しておおらかと言うか、葬儀自体が簡易化されているように感じる。祖父のように炭鉱目的で流れて来た開拓者の土地だからなのだろうか、その辺りのことは私は良く分からない。葬儀は自宅ではなく全て葬儀場ですませるのが普通なので、家族も葬儀場で通夜から葬儀まで過ごす。通夜で一夜おいて翌朝火葬の後、直ぐ葬儀と一緒に初七日法要だけでなく四十九日まで法要を済ませることも多い。つまりは最短だと葬儀にほんの1日かかからない事になる。勿論暦により火葬が延びることはあるが、母方の葬式に比べれば格段に短い。人によってはその期間だけ喪にふくして精進潔斎を行うこともあると言うが、祖母の通夜では既にオードブルや寿司折が準備されていた。

通夜の間、葬儀場が準備したオードブルや寿司折がテーブルに並べられる。当然のようにテーブルでそれを貪るように食い続ける伯母と従兄弟達を傍目に、伯父と私と私の両親が線香を手向け故人を偲ぶ。しかも、伯母は直接祖母とはなんの関係もない自分の血縁を葬儀場に呼び出し、血縁の者が通夜の間に空腹にならないようにと準備されたそれを食べさせている。

「いいから食べな!何時もあたしが面倒見てやったんだから、食べていいんだよ!」

足が悪いからと一向に線香を手向けに動く気配もなく食べ続ける伯母と、全く同じような体型をして貪り食う従兄弟の姿は某アニメーションで神様達の食事を無銭飲食して豚に変えられた大人のようだ。しかも、面倒をみていたと話すが実態は違う。足が悪くて歩けもしないのに、どうやって自分のことは自分でした祖母の面倒を見たのだろう。生前祖母が金銭面で困り父が仕送りをしていた時、金が入ると伯母がやって来ると溢していた。つまりは祖母に金の無心に来ていたのではないだろうか。ある時から両親は、お金と一緒に簡単に食べれるレトルトや指が効かなくなっても開けられるような食品、暖めるだけで食べられるご飯を祖母に送っていた。お金だけを送ると伯母が来て奪っていってしまうから、現物で対策を練ったようにも見える。
やがて食べることに飽きた血縁者を送って従兄弟が自宅に帰ると言い出した。仕事があるわけでもないのに通夜すらも放棄した従兄弟達に呆れ果てたものの、引き留める方が面倒だと言う通り帰途につかせた。伯母は足が悪いからと仕切りに言い訳しながら、さっさと奥の座敷に敷いた布団に横になり鼾をかき始める。

「アキコ、少し休んできなさい。」

夜半も過ぎてかけられた父の声に微かな躊躇いを見せる私に、昔の話を思い出したらしい母が一緒に行こうと奥の座敷に敷かれた布団に向かう。一瞬振り返った私の視界に痩せこけた叔父の姿が、薄暗がりの中で別人のように写って私は立ち止まる。
叔父が祖父のように見えたのだ。
子供だから当然の事かもしれないが、晩年癌に侵され闘病していた時の祖父そっくりに見えた。それが何をいとするのか、私はゆっくりと叔父から視線を外し祭壇の遺影を眺める。

蛇の呪いはこれで消えるの?それともまだ残るの?それとも、全部本当に嘘なの?お祖母ちゃん。

もしかして本当だとしたら今晩またあの影が来るのだろうか。そうしたら呪いは、全て本当のことなのかもしれない。そう思いながらもう一度伯父に視線を返すと、暗い光のない瞳が私のことを見つめているのに気がついた。何も感情のこもらない真っ黒な瞳が、テーブル越しの私を見つめている。

「アキコは痩せたなぁ。」

静かな声でそう呟く伯父に、父がまあ色々あったからと呟く。伯父にも以前離婚したことは伝えてあったので、特に伯父は追求するわけではない。
痩せたと言われた言葉を、伯父にも言いたいと私は思った。私よりずっと伯父さんの方が、痩せて衰えているように見えるよ、と。
父と一歳しか離れていないのに、目の前の伯父は10歳も歳をとっているようにしか見えない。今にも枯れて朽ちてしまいそうに見える細い指先で、新しい線香に灯をつけている。その仕草を眺めていた私の腕を、母が優しく手繰り私は大人しくそれに従う。

ウトウトと何度か微睡んだが、完全に深い眠りに落ちることはなかった。襖一枚挟んだ伯母の鼾が、時折苦悩のように呻く声に変わるのが聞こえる。隣に横になる母は何時しか眠ったようだが、通夜の間の二人の会話が切れ切れに聞こえ私は耳をすます。
暖房の低い唸りの間、二人の兄弟が昔の思出話をしているのが分かった。その間も隣の鼾が、時折思い出したように苦痛に苦しむように呻く。

こんなに呻いてて大丈夫なのかな。

ふっと私は余り好きでない伯母の体ではあるが心配になる。しかも、他の誰もそれを思う様子がないのに気がついて、息を潜め伯母の様子を伺う。二人の穏やかな会話の声に重なるように、伯母がうーっと苦痛そうに呻く。頻回に、同じ間隔で呻く。伯母がかなり太っているから、寝ていると気道が塞がって苦しくて呻くのだろう。頭では分かっているがそれにしても襖一枚では声が近いし、しかも少しずつだが呻き声が大きくなっているような気がする。気にして聞いているから余計、大きくなっているような気もする。

一回起こした方がいいのかな。

私はコッソリ身を起こすと、ソロソロと襖に布団の上を這い寄った。一度に開けるには襖と言うものは、暗がりの中では指をかけるのが難しい。通夜の間での二人の声はまだ途切れず、こちらの動きに気がついた気配もなかった。
スッと襖が動き、ほんの数センチの隙間が音もなく生まれる。

私は隙間から畳を舐めるように覗きこむ形で動きを止めた。

視線の先で天井を向いて大の字になっている伯母の鼾は変わらず続いていて、目の前で苦しげにうーっと呻く。
私は伯母を起こすのをやめ、そうっと襖を閉じると音をたてないように布団に這い戻り潜り込む。ふっと横を見るといつの間に起きていた母と視線があい、そっと布団の間から伸ばされた母の暖かい手を握る。私は何も言葉を出さずしっかりと手を握り目を閉じ、今見たものを脳裏で再確認した。

目を閉じると、今まで気がつかなかった音が認識され始めた。暖房の唸りの隙間に微かな音がある。男二人の会話の合間、苦痛の呻き声の間に別な音がある。微かな朧気な音は同じ間隔で、まるで畳を擦り這いずっているように聞こえた。まるで擦り足で歩いているような、まるで蛇でも這っているような規則的な音が伯母の呻き声と重なると意味合いが変わる。

伯父と父はまだ通夜の間で二人で話している。この葬儀場は夜は管理人が常駐していない。何より鼾が酷いと隣の部屋は伯母一人で寝ているはずだった。だけど、襖を開けた目の前に誰かが立っていた。真冬の北海道で公共の施設の暖房では冷えが忍び寄るのが感じられたから、私も母も靴下を履いて防寒していた。伯母も伯父も父も同じだった。そんな中に室内とはいえ、私は畳に立つ裸足の足の間から呻く伯母を見たのだ。

それを脳裏で確認しながら、母の手をしっかりと握りしめると母の手にも力が籠る。その横で今だ微かな規則的な音と伯母の呻き声が、途切れることもなく続いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...