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11月

閑話42.宇野衛

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その日夜に雪が何人かのお仕事の人と一緒に家に帰ってきたのは、夜の7時半位の事。僕がおかえりなさいって声をかけると雪が申し訳なさそうに、仕事の打ち上げに出られないって言ったら家で打ち上げをしようってお仕事の人達が言ってきかなかったって教えてくれた。今まで雪はそう言うことは無かったけど、大人にはそう言うのも大事な仕事なんだって。そう貴司君が言ってたんだけど、貴司のお父さんは毎週会社の人を連れてお家でお酒を飲むからお母さんがブチブチいってるって話してた。だから、僕も大丈夫だよって雪に言ったんだ。
夕飯はピザを頼んで僕も混じって食べたけど、信哉君やヤス君達みたいに会社の人は僕の事を知ってるわけではないし、僕に話しかけてくれるのは菊池さんっていう前にも会ったことのあるお仕事仲間の人だけだ。後の3人は全然知らないし、1人混じっている女の人が雪にお酒を飲むように何度もくっついて話すのがちょっと嫌だ。

僕の事を1人で育てて大変そうって何度も言うけど、何かその言い方に棘みたいな感じがする。

だから僕はご飯はもう十分って言って、さっさと自分の部屋に戻って自分の事を済ませて寝てしまったんだ。その後暫く雪達が話してる声が壁を越えて微かに聞こえてたけど、何時帰ったのかとかどうなったっていうのは全然知らない。だから、朝になってまーちゃんが玄関を開けるまで、僕はちっとも雪がどうしてるか知らないままだったんだ。
まーちゃんと一緒に扉を開けた瞬間、まーちゃんが顔をしかめて呆れたように声を上げる。

「お酒くさっ!」

部屋の中はまーちゃんが言う通り、お酒の臭いで気持ち悪くなりそうな感じだった。夜に飲んだだけで、お酒の臭いってこんなにお部屋に溜まるんだって僕は正直ビックリしてしまう。

「昨日ね、雪、お仕事の人とお付き合いだったんだよ。」

何でか僕が慌ててまーちゃんに説明する。まるで悪いことしたみたいに、必死で説明してるのに僕自身不思議で仕方がないんだけど。僕の説明にまーちゃんは少し険しい顔だ。

「衛、お留守番は偉いけどお夕飯はどうしたの?」
「雪、お仕事の人連れてきたの、お留守番はしてないよ。」

そっか、まーちゃんは僕が一人でお留守番してて、雪がお酒を飲みに行ったって思ったんだって気がつく。まーちゃんがまるでママみたいに僕の事を心配してくれてるって分かって、本当は凄く嬉しいんだけど。何でか僕は僕が悪い事をしたみたいに、凄く慌ててまーちゃんに説明してるんだ。
まーちゃんがお酒の臭いを追い払おうと一直線に窓に向かって、部屋の中で振り返った。僕の見ている前でまーちゃんが、部屋の中のソファーを見つめて呆れたような顔をする。どうやら雪はソファーで寝てたみたい。

雪のドジ、せめてベットで寝たらいいのに

って思いながら、僕は他の人は皆それぞれ帰ったんだなぁってちょっとだけホッとする。あの女の人が今もいなくって正直ホッとしてるんだけど、それが何でなのか僕にもよく分からない。まーちゃんがテーブルの上のビールとかワインの空いた缶とビンを取り上げながら、呆れたようにもーと呟く。

「雪お仕事一区切りで、お祝いだけど、僕がいるからお家でって。」
「仕方ないけど、だらしないなぁ。」
「うん、だらしないね。」

そっか、雪がだらしないなって思われるのが恥ずかしくて、僕も慌ててたのかなぁって思う。最近は毎週日曜日にまーちゃんが来てくれるから、実はお部屋を汚さないように僕も気を付けてたんだ。なのに、こんなにお酒臭くて散らかったお部屋を、まーちゃんに見せることになったのって恥ずかしい。後で雪にそこはきっちり文句を言わなくちゃって心に誓う。まーちゃんは険しい顔から苦笑にかわって、朝御飯の支度に取りかかっている。

雪ってば早く起きたらいいのに。

この状態だと雪は多分起こしても起きないかなぁなんて思ってたら、まーちゃんに顔洗ってきてーと言われる。僕は元気よくはーいと返事をして洗面所に駆けこんだ。顔を洗っている最中に、何処かのドアが開く音がして雪が起きてきたんだなって僕は思ったんだ。

雪ってばまーちゃんに怒られて慌てておきたのかなぁ?

そんなことを考えながら戻った僕は、予想してなかった光景に目を丸くしてしまった。昨日のあの女の人が家の中にいて、台所でまーちゃんに話しかけていたんだ。まーちゃんはあの女の人に話しかけられているけど、見たことのない困った顔で女の人を見つめている。何処にいたんだろうって思って僕は気がついた。雪がソファーで寝たのはあの人がいたからじゃないかって。でも、お泊まりするお家の人の布団を横取りして寝るなんて、凄く意地悪じゃないかって僕は思う。あの女の人の方がソファーで寝るべきだって思うし、あんな風にまーちゃんを困らせる顔させるのは良くない。女の人は昨日より低い声で、まーちゃんに向かって驚かせてごめんなさいと言う。

「ごめんなさい、長居しちゃったわね。宇野君が起きたら私は帰ったって伝えてくれるかしら?麻希子ちゃん。」
「は、はい。」

ありがとうと言う声が昨日と別な人みたいだ。昨日の雪と話してる声は子供みたいに高い声だったのに。僕は慌てて雪の事を揺り起こすけど、雪は寝坊助だから全く起きる気配もない。

早く起きてまーちゃんを助けてよ!雪!!

呆然と見送るまーちゃんの事を残して、あの女の人は僕と雪のことを見もしないでさっさと部屋にバックを肩にかけて去っていった。やっぱり僕はあの女の人は好きじゃない。台所で立ったままのまーちゃんが少し俯いたのが見えた瞬間、まーちゃんの真ん丸の瞳から涙が溢れたのが見えた。

「まーちゃん…。」

僕は慌ててまーちゃんに駆け寄って、まーちゃんの顔を見上げるけどまーちゃんの涙は止まりそうにない。もしかして僕がいない間にあの女の人は、何か意地悪なことをまーちゃんに言ったかもしれないと思う。だって、何だかあの女の人は雪と僕が暮らしてるのが邪魔みたいな感じなんだ。だったら、まーちゃんが来てくれるのも邪魔にして、すごい意地悪をいいそうなんだもの。

「まーちゃん、あの人雪のお仕事の人だよ?」
「うん、分かってる。分かってるよ、まー。」

そう言うのにまーちゃんの瞳からは涙が溢れて止まらなくて、それなのにまーちゃんは僕にごめんねって謝って来る。暫く僕がまーちゃんの太股のところを掴んで見上げていたけど、まーちゃんは何時もとは違う悲しそうな笑顔を浮かべた。僕はそれが凄いショックだ。そんな風な顔を僕は一度だけ見たことがある。それは本当にボンヤリとだけど、僕がママに一度だけ本当のパパに会いたいって我儘を言った時に見せた笑顔に良く似てたんだ。

まーちゃんが傷ついてる。

僕はその後まーちゃんと一緒にファーストフードで朝御飯を食べて家に戻って来たけど、まーちゃんは一緒に家の中まで戻ってくれなかった。ごめんね、あの女の人が帰ったって後で雪には言うからねってまーちゃんは言ったけど、そんなの言わなくても平気だよって僕は思う。また来るねって笑ったまーちゃんはそのまま帰ってしまったけど、僕はもう完全に頭に来て家に駆け戻った。
僕はソファーで寝たままの雪の肩を引っ張って、雪をソファーから叩き落としてやったんだ。衝撃で起きた雪が床で頭を打って怒った声を上げたけど、僕の方が本気で怒ってる。

「雪の馬鹿!!間抜け!!」
「はぁ?!衛っ!何で!」

僕は腹が立って床に座る雪の事を力一杯叩いた。雪はその手に驚いたように目を丸くすると、咄嗟に僕の腕を抑えて何が起きたのか聞き出そうとする。

「雪の馬鹿!!何であの女の人お泊まりさせたんだよ!」
「ええ?」
「あの女の人、意地悪したんだぞ!」

雪もその事はわかってなかったみたいで、ポカーンとしてるけどそんな問題じゃない。僕が怒って泣き出したから、雪は困ったようにごめんねと謝ってきたけど。

「僕じゃなくて、まーちゃんに謝れよ!雪の馬鹿!」

その言葉に目の前の雪の顔色が、僕が産まれて初めてみる程ハッキリと青ざめたのが分かった。



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