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4月

341.レンゲツツジ

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4月16日 日曜日
いや、正直情熱に押しきられたと言うか、普段堅実で慎重派な雪ちゃんの予想外の行動に呆気にとられたというか。
公園でお散歩がてらのデートだった筈が、何故か本気で一泊旅行に変えられてしまったわけです。そんなこと言っても私、着替えも何もないしって何度も言っても、じゃ必要なの買ってあげるからと返ってくるし、本気で下着から何から必要なものを雪ちゃんてばお店に連れ込んで買ってしまうし。

「無、無駄遣いは。」
「麻希子に買うのに無駄なんかないよ。」

普段そんなに使わないで貯めてるから心配しないでと笑われても、いやいや私はどう反応したらいいの?っていうか、下着屋さんに入ってこれが可愛いって言われた時に、女の子はどう反応するべきなんですか?!そうだねーって喜ぶものなんですか?!お店の人は優しい彼氏さんですねって言ってるけど、これ普通なんですかー?!!し、しかも雪ちゃんなんで私の下着のサイズ知ってるの………いや、脱がされてはいるけど、なんでサイズ……。そんな顔で見たのに雪ちゃんってば、賑かに笑って答えをそらしたんですけど……。
しかも雪ちゃんのちょっとお出かけは、全然ちょっとじゃなかった訳なんです。今更だけど雪ちゃんって車の免許持ってたんだって言う新たな衝撃はさておき、サックリと他県までドライブって本当にいいのでしょうか。しかも、どう見ても高そうな温泉宿……これって絶対予約してたんじゃないでしょうか………

「ゆ、雪ちゃん……。」
「なあに?」

なあにってウェルカムドリンクというやつか、ロビーでお抹茶と干菓子を頂いて、中居さんに通されたこのお部屋。どう見ても川が見下ろせる露天風呂付きのお部屋で、おっきいベットのお部屋が別にありますけど?!これは絶対に、思い立ってちょっと来てみたって範囲じゃなーい!!そう問いかけても窓から川を見下ろして、凄い景色だねって笑ってる。ちょっと雪ちゃん?!

「だって、お誕生会しないとと思って。」

いや、先週ちゃんとプレゼントは頂いてますし、お誕生会してもらってますって言おうとしたのに、ニコニコしながらお部屋の露天にはいる?それとも大きなお風呂行くって話を流されてしまった。
ここからお金が沢山あるわけでもないし、大体にして一人で帰れる訳じゃない訳で、こうなったら諦めて楽しむしかないじゃないですか!と言うわけで、可愛い浴衣で山桜がまだ少し咲いている温泉宿で過ごした次第。お料理も先付けからデザートまで凄かったし、温泉も広くて乳白色のお湯で最高だった。

雪ちゃんのちょっと本気って、衝撃的過ぎる…………

しかも雪ちゃんてば目下二人っきりだからなのか、かなりというよりとってもスキンシップ高め。雪ちゃんの何がどう切り替わったのって位においでおいでってされて、それも雪ちゃんがすっごく楽しそうなもので段々絆されてる私。

「ゆ、雪ちゃん?」
「なぁに?」
「あの、凄く近いですよ。」
「うん。」

うんって、完全に抱っこされてる訳ですけど。浴衣で抱っこって中々危険ですが、雪ちゃんって浴衣も似合うなぁなんてこれまた関係ないことを考えてしまう。浴衣って結構無防備だよね、うん。

「何時もと違いますよね?」
「何で敬語なの?麻希子。」
「そこじゃないよね?質問の答え。」
「衛が仲良くしてきてねって。」

え?どこまで衛って分かってて話してるの?って思うけど、それでもこれって今までと違いすぎない?って問いかけると、ニッコリ笑って雪ちゃんてば私を覗きこむ。

「普段我慢してることを、正直にやってるだけ。」
「それは普段も………こうしたいと言うことなんでしょうか。」
「うん。」

そっかって言ったら雪ちゃんに納得した?って聞かれてギュウッて後ろから抱き締められてる私。う、確かにお家では抱き締められたりすることあったけど、こんなにイチャイチャしたことはないかも。れ、冷静になろうって思うんだけど、とてつもなく恥ずかしくて今にもイヤーッてなりそうなんだけど。でも……そう言われると凄く子供の頃は、こんな感じで常に抱っこされたりしてた気が………しなくもないなぁ。

「麻希子?どうかした?」
「子供の頃もこんな風に抱っこされてた気がするなぁって。」

そんな風に言ったら、何でか雪ちゃんがムゥッて顔をする。あれ?何でムゥッって顔になるの?って思ったら、雪ちゃんは更に顔を近づけてきた。

「麻希子を子供だと思ってこうしてる訳じゃないよ。俺は。」
「え?」
「恋人だと思ってしてるんだけど。」

あ、それは返答としては想定外です。折角冷静になろうとしてたのに~!雪ちゃんから真剣な顔でそんなこと言われたら、私がドキドキするに決まってるよ。一気に真っ赤になってしまう私に、雪ちゃんは改めて低い声で名前を呼んでくる。ひええ!雪ちゃんのスイッチが!!


そんなわけで、温泉に一泊してドライブしながら、家にお土産を買って帰った私。帰った途端衛は元気よく「仲良くできた?!」って聞いてくるし、ママはニヤニヤしてるし……。ママって本当のところどうさせたいの?って呟いたら、雪ちゃんが僕も同じこと考えてるって呟いてたのはここだけの話だ。
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